5話 イリュージョン
三人の精霊の力を借り、どうにかこうにか巨大なギルドの脱出に成功した。時間にして二時間といったところだろうか、燦々と降り注ぐ太陽の光が気持ち良い。
『ふああ。やっと外に出られましたね』
『あらコンテンツ、はしたないですわ。そんな大口開けて』
コンテンツにつられたあくびを噛み殺していると、イリュージョンがついと側に寄ってきた。日の光の中で見るとまた一段ときらびやかだ。薄絹が日を反射してキラキラと輝いている。
『主様、改めてご挨拶させてください。幻を司るイリュージョンです。よろしくお願いします』
差し出された骨張った手を握り返すと、北欧系のほりの深い顔が照れたように頬を染めた。菫色の瞳をうっすらと細めて笑う表情は大人びていて綺麗だ。
『また呼んで下さい。いつでも準備万全ですから』
『マスター、また夜に呼んでくださいな』
「ああ、またな。『BACK……イリュージョン、ディーヴァ』」
手と手を取り合いゆらめく濃霧の幻影を残して、イリュージョンとディーヴァが本へと戻っていく。今回は二人同時に召喚してみたが、魔力や体に負担は無かった、もっと呼び出しても大丈夫そうだな。次はもっとたくさん呼び出してみようか、色々させてみたくなった。まあそれは次の機会にとっておこう。
『マスター、怒られて落ちこんだりしないんですか。なんか悪い事を企んでいる顔をしていますよ』
「どうせ体裁が悪いから怒ってるだけだろ、どうでもいいよ。それよりもどうしたらマリオノールをもっと活用できるか考えるよ。きっと楽しくなるだろうし、友人も喜んでくれると思う。綺麗なものが好きだからな。会った時に色々見せたら、感激して作曲しだすかもしれん。」
あいつはどんな曲を書くだろう。イリュージョンはエスニック系でディーヴァはクラッシック、コンテンツはポップスみたいな親しみやすいメロディが似合う。アクアリウムはどうだろう?俺はうまく想定できないが、きっと友人なら鼻歌混じりでさらりと書いてしまうだろうな。
『楽しそうですね、マスター』
「ああ、とても」
早く、早く会いたい。あいつは俺の世界の全てではないけれど、無ければ人生がとことんつまらなくなってしまう。娯楽そのものだと言っても過言ではない。行動も、発言も、そばで見ていて飽きないんだ。見た目は風にそよぐ柳のようなのに、中身は雑草より頑丈にできているから、こんな世界にきていてものらりくらりと交わしながら生きているだろうさ。
バックから出した地図で図書館の位置を確認する。さて、学生の頃に戻って勉強会と洒落こもうか。