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町についたのはいいが、町の周りにぐるりと張り巡らせている厚い壁が邪魔して中に入る事ができない。

一体何から町を守る必要があるというんだ、天使や神様が襲撃してくるわけでもあるまいに。

石を積み上げて固めてあるようで、壁の表面は白を基調とした石が整然と並んでいる。

…天国にはコンクリートが無いらしい。

よく考えたら棺桶の中にコンクリートを入れる人間なんているわけがない。

いくらコンクリートが好きでも遺族が嫌がるだろうな、色んな意味で。

持ち込まれていないものを再現するのは難しいのかもしれない。


そんな事を考えながら、壁を伝って右まわりに歩く。


平坦な草原と平坦な壁。

トットトットと軽快に足を進めていると、数メートル先でバタン!と扉が開く音と話声が響いた。

文字通り、響いた。


「触れるなゲスが!」


「うるせぇ、売国奴が!!大人しくしろ!」


鈴を鳴らすような声とガラガラ割れた野太い声。

草原に飛び出した影は4つ。

一人は水色のふわふわカールをした華奢な後ろ姿と、その後を追いかける筋骨隆々な粗野な男が三人。


お、おいおいおい…!

馬鹿かあいつら、せっかく平和な死後の世界を堪能できるっていうのに。

自らそのチャンスを潰すなんて、正気とは思えん。


「ちょっと待て!」

あ!?と言わんばかり三人組が振り返る。

おおぅ…よく天国に来れたなと言わんばかりの悪人面…じゃなくて。


「せっかく天国に来れたのに、どうしてそういうもったいないことをするんだ。そんな汚い顔してても今まで良いこと積み重ねてきたんだろ、もう天国に来たからいいやなんて思ってたらすぐ地獄に落とされるぞ。そんな貧相な女を抱いて微妙な肉欲にまみれるより、謹んで天国の生活を楽しむ方がいいに決まってる。さあ、悔い改めよ、悔い改めよ、悔い改めよ!神の御前では全てが暴かれるのだ!」


「んなッ…おま「貴様、無礼なっ!!」」


驚愕した顔とドン引き顔。

何故か憤慨しているふわふわカールの少女。


「そこのアナタとアナタとアナタッ!このままでは転生してもろくな人生歩めませんから!さあそのちっぽけな小娘を追いかけるのはやめて、祈りなさい!」


ビシィ!と人差し指を突きつけて、どこかで読んだ漫画の一説を声高らかに力説…したのはいいが、相手がぽかんとしたのはその一瞬だけ。

うるせえ、この宗教野郎!なんて叫びながら三人がこちら目掛けて殴りかかってきた。

違う、違うぞ、断じて違う。俺は信仰している神もいなければ、初詣にもいかない無神論者だ。

突き出された右ストレートを避けて、気合い一閃、拳を鳩尾に叩き込む。

崩れ落ちる巨体に違和感。

俺ってこんなに力強かったっけ?

少し怯むくらいを想定していたんだが。

首を傾げつつ、立ち尽くした右の男にも拳をねじ込む。

さて、最後の一人。

驚愕の表情でこちらを見返している汚い男。

さーあどうしてしちゃろうかと両の拳をベキベキ鳴らしてにっこり笑ってやる。


「今ならまだ間に合いますヨ?早くそこの娘さんにごめんなさいして…」


正面から全身に向かって、嫌な空気が走り抜けた。

警戒するべきは男じゃない、水色の髪をした少女の方。

両手を広げて何かを唱えている姿が視界に入り、本能的に地面に俯せた。


「…契約に従い、水を凝固させよ。大精霊、ウンディーネの名のもとに!」


鋭い風切音と何かがぶっ飛んだ音。

憤怒の表情をした少女の前方空間から生まれた人間の頭くらいの氷が、男にぶち当たって吹き飛ばすまで20秒かからなかったように思う。


ダメだ、ヤバい。

さすが死後の世界だ、あんな魔法みたいな力まであるなんて。

男を睨みつけて肩で息をしている少女を雑草の間から上目遣いで伺い、そっと音をさせないように後退りする。

あんなのに襲われたらひとたまりも無いな、それに関わるのも面倒だ。


匍匐後進から停止、少し距離をとった所で振り向いて一気にスタートダッシュ。

後ろから少女の金切り声が聞こえるが無視だ、無視。あんな危ない人種とは金輪際かかわりたくない。

三人組と少女が出てきた開けっ放しの扉に飛び込んで、思いっきり閉める。ついでに扉についていたつっかえ棒もしっかり閉めてその場を後にする。


人は言うだろう、それはフラグだったんじゃないのか。現地人と知り合う初めの一歩だったんじゃないのかと。

そしたら俺は全力でこう言うのさ。


いのち だいじに


…もう死んでるけどな!

何一つうまいこと言ってないけどな!





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