見知らぬ場所
さらりと頬に何かが触れた。
炎でも灰でもない瑞々しい感触に、うっすらと目を開ける。
からりとした爽やかな風に揺れて、柔らかな若草が頬をくすぐる。
吸い込まれそうな真っ青な空に、さやさやと草花がそよぐ音。
これが噂に聞く天国か。
手をついてゆっくりと起き上がるが、体に異常は見られない。痛みも無ければ、火傷もない。服も死んだ時に着ていた黒のタートルネックとジーンズのままだ。
…それにしても、だ。
周りにあるのは木と草原ばかり。右手側には山が、左手側には白い街の影が見えるが、これはどうしたものか。
ここが天国というなら天使か死に神か何かしら案内役がいてもいいものだが、そんなものは影も形もない。
いつまでもこんな場所に転がっていても仕方がない、天国も人手不足なのだろう。
ウエストポーチと腰と左腕に隠した2つの種類の違うナイフを確認して、ゆっくり立ち上がった。
目指すは白い街だ。
何の手違いかは知らんが、大人しく閻魔サマに裁いてもらわなければ、輪廻の輪からあぶれてしまいそうだ。
まあ、その裁きとやらが良い結果になるとは考えにくいがな。左腕の袖に隠したナイフをなでて、自嘲気味に笑う。
青々しい草の匂いと乾いた風を受けて、天国での第一歩を踏み出した。