空き瓶の手紙
放課後、海辺の小さな防波堤で、僕は一つの空き瓶を見つけた。
中には、折りたたまれた便箋が入っている。キャップはしっかり閉じられていて、たぶん誰かが海に流したのだろう。
好奇心に負けて、僕は瓶のふたを開け、手紙を取り出した。
字は少しにじんでいたけれど、読めないことはなかった。
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「だれか、そっちの世界にいる人へ。
わたしは空の上に住んでいます。毎日、風と話をして、雲に名前をつけて過ごしています。
でもときどき、地上のことが気になって仕方なくなります。
そっちの世界では、今、何がはやっていますか?
夕焼けはまだきれいですか?
誰かとけんかしたら、どうやって仲直りしますか?
いつか答えがもらえたらうれしいです。」
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宛名はなかった。でも不思議と、その手紙は「僕」に届いた気がした。
その夜、僕は自分のノートに返事を書いた。
「夕焼けは、今日もきれいでした。けんかしたら、謝ってから一緒に帰ります。」
手紙をまた瓶に入れて、翌朝、海に投げた。
届くはずはないと思いながら、それでも、少しだけ空を見上げてみた。
その雲が、僕の名前に似ている気がしたのは――たぶん気のせいだ。