アルトゥール家
新学年一日目は、学級会のあとは自由行動だ。シラバスが配られるのでそれを読み込んでおおまかな授業計画を立てることになる。授業計画をもとに授業を受けてみて、2週間以内に実際に受講する授業を決めて登録するのだ。
集中する視線のなか、ゼタは上機嫌にチェスカリナの手を取って立ち上がる。
「到着がギリギリだったから、まだ校舎を回れてないんだ。案内してくれよ」
「校舎案内なら私でなくても、」
「ん?」
にこ!と圧をかけられる。コイツ、こちらが大っぴらに逆らえないのを良いことに。
「わかりました。フェリ、」
「わたし、セディと一緒に授業組む約束してるから、また今度」
助けを求めて目を向けた友人は、視線にあとで詳しく聞くぞと書くくせに、食い気味で逃げの一手を取る。
「ああうん、また今度、授業被ったら」
「たぶん何個かは被ると思うわ、じゃあね」
ひらりと手を振って、ゼタとは逆側に逃げるフェリシラを見送る。
「よろしければ、ご一緒させて頂いても?」
「もちろ、」
「出来れば、気心の知れたものと回りたいので」
王女の声にチェスカリナは道連れが来たと飛び乗ろうとしたと言うのに、顔だけ愛想良くばっさり切り捨てるゼタ。
「来たばかりで、少し緊張しているのです。交流はもう少し、落ち着いてからお願い出来ますか?」
そのあとしっかり印象を和らげる言葉を言うから、この皇子は憎たらしい。
「そう言うことでしたら、今回は遠慮致します。あの、アルトゥール嬢とは、お知り合いで?」
「国境のルスカダ側は皇領で、叔父が治めているのです。私はよく叔父の領地に勉強に行っていたので、その縁で。オリザ辺境伯は再び戦乱を起こさせないために、いろいろと尽力されていて、彼女も次代を担うものとして、その一端を握っていますから」
おいやめろ。
握られたままの手をぎゅうぎゅう握って無言の主張をするチェスカリナには気付かない振りで、ゼタが立板に水とばかりに滔々と並び立てる。
「同年代ではありますが、すでに彼女の功績はルスカダでも有名なのです。尊敬していますし、学ぶところが大いにあると。今回、こうして彼女と共に並んで学ぶ場を得られたことが本当にありがたく、機会を与えてくれたバウドル王国の方々に、心より感謝しております」
「そう、ですか」
「父が私を留学させる決断をしたのも、彼女を始めとするアルトゥールのお歴々の存在が大きいようです。たとえ不可侵条約があっても、歴代のオリザ辺境伯、アルトゥール家の方々の尽力なくして、50年の不可侵は達成し得なかっただろうと」
なんてことを言ってくれるんだ。
戦争がなければ役に立たない家と、せっかく埋没出来ていたと言うのに。
「国の後ろ盾あればこその話です。決して、アルトゥール家のみの力ではありません」
「相変わらず謙虚だねチェカは」
「殿下が大袈裟なのです。任された領地を守ることは、貴族として当然の義務なのですから」
さっさとこの話を終えろ。笑顔の裏のチェスカリナの訴えなどとうに理解出来ているだろうに、ゼタは鷹揚に微笑んで続ける。
「その当たり前が出来ぬものが、どれだけいることか。今度の長期休暇には、オリザ辺境伯領を訪れても?ぜひ、領地を見て回りたい」
「きちんと許可を得ての訪問であれば、喜んで」
「うん。父と国王陛下、それからチェカのお父上に、話を通しておこう。許可が降りたら案内を頼むよ。さて」
場を支配する王者となったゼタが、チェスカリナからすればようやく、話を切り上げる。
「まずは校内だね。よろしくチェカ」
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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