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魔法少女は嫌いなタイプです

 変身して直ぐに、俺は事態が思ったよりも最悪なことに気付く。


「……なんで魔物が2体もいるんですか」

『あれは元々一体ですよー。ただ何かしらの魔法、もしくは能力で分裂したんでしょうね』

「分裂?それまた厄介そうな」


 俺は空を飛び、東棟と体育館で暴れている魔物を交互に見る。


「仕方ない、この姿を見られるのは面倒ですが俺だとバレることはさすがにないでしょうし」

『そうですねー。こんな激かわ美少女が本当はムッサイ男なんて誰も予想しませんよ』

「ムサイは余計ですクソステッキ」

『美少女からの罵倒は最高ですね!!』

「うっっっっっっわ」


 ドン引きだった。


『コホン。向かうなら先に体育館に行くことをオススメしますよ。東棟の方は魔法少女が対応しているみたいなので』

「そうなんです?なら体育館のぶっ倒したら終わりそうですね」


 さすがに上空から体育館内を攻撃することは出来ない為、渋々俺は地面に降り立つ。


「おい、みんな逃げ……」

「おいどうした!!止まってたら死……」

「ちょっと詰まってるのよ!急い……」


 体育館から逃げてくる連中と目が合うと、何故か一斉に動きと言葉を止めた。


「勝手に魔法が発動したんです?」

『ぷぷ、まぁそんなところですよ。それよりあなたはまだまだ魔法が下手くそなんですから避難させた方がいいですよ』

「めんどくさいですね」


 俺は仕方なく体育館前に固まるバカどもに告げる。


「邪魔なので退いて下さい」


 すると綺麗な道が生まれる。


 レッドカーペットでもあれば、まるで今から壇上に上がるハリウッド俳優と自分を勘違いしてしまいそうだ。


「まぁ、魔法少女が来たならそりゃ道は開けますか」

『ですねー』

「とりあえず速攻ぶっ倒しますよ」


 中に入ると、網やら何やらが捨て去られた後がある。


 そして中心には、どこか不機嫌そうな魔物がこちらを睨んでいた。


「何があったんです?」

『多分、学校内の対魔物用の道具でも使ったんでしょう。一時的な行動抑止くらいにしか使えませんが、魔物からしたら相当イライラしたでしょうね』

「うちの学校にそんなものあったんですね」


 思ったよりもみんな魔物やら魔法少女について関心が高いんだな。


『あなたの関心が低すぎるだけだと思いますが』

「うるさいです」


 俺がステッキを握るとまたしても変な声を出すので、一度地面に叩きつけ踏みつけると更にキモい声を出したので捨てることにした。


『ぼ、僕無しで魔法の制御出来るんですー?辺り一体氷漬けにしても知りませんよー』

「……チッ」


 仕方なしでもう一度ステッキを握り、魔法を唱える。


 中身は前回と同じでいいだろ。


氷の棘(アイスニードル)


 無数の棘が魔物の体を蹂躙する。


 最終的に壁に貼り付けになった魔物はうめき声をあげる暇もなく消え去った。


『やっぱり強いですねー。なんか面白くないです』

「漫画じゃないんだから当たり前です。それに、強い敵に会ったら俺はまず逃げますので。だからこれから強敵に会う機会はないと思って下さい」

『そんな!!』


 多少は強いのと戦いたいって気持ちがないわけじゃないが、さすがに命優先だ。


 死んでしまえば楽しいもクソもない。


 自分が死ぬこと。


 それはこの世界で最も避けなければならないことだ。


 だからこそ


「そう言えば、魔法少女の方はどうなってるんです?」

『見てみたらどうですか?絶賛動画配信中ですよ』

「人気取りは大変そうですね」


 ステッキに言われた通り、携帯を取り出した俺は呆然とした。


「なんでコイツ……逃げないんですか……」


 確かに爪が甘かったところはある。


 倒したと勘違いした点はどうしようもないにしろ、その後逃げずに観戦してたバカをわざわざ庇い、その後も逃げずに魔物へと立ち向かおうとしている。


「どうして。そんな体じゃもう勝てないのに」

『……』

「お前は十分役目を果たしています。だからもう」


 俺がそう訴えようと、画面の奥にいる魔法少女の目に諦める文字は見えなかった。


『彼女、死ぬつもりですねー』

「……」

『ま、でもこれは自業自得でしょう。いくら美少女とはいえ自身の不手際が招いた結果ですし』

「……」

『わざわざあなたが助けに行く必要なんて』

「黙って下さい」


 俺は魔力を放出する。


「行きますよ」

『なんだかんだ助けちゃうんですねー。これが所謂ツンデレ……ですか』

「違う。コイツにイライラしただけです」

『まぁそういうことにしておきますよ』


 俺は戦いが起きている教室の外から魔法を構える。


 アイツが上手く誘導した結果か、ここからなら外からでも魔物だけを確実に狙える。


「俺はお前のことが嫌いですが、ただ一つだけ褒める点があるのなら」


 生み出した刃が一斉に魔物へとその切っ先を向ける。


「あの剣は綺麗でした」


 ◇◆◇◆


 俺は自分の命を省みない奴。


 他人の為に生きようとする奴。


 そういうのが嫌いだった。


 だからこの魔法少女の姿は俺が最も嫌悪するそれであり、あまりに腹立たしく面と向かって文句を言ってやろうと思った。


 だからこそ油断していたというか、あまりに突拍子もない出来事につい反応が遅れてしまう。


「きゃわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

「は?」


 その間コンマ数秒。


 目があった魔法少女は恐ろしいスピードで俺に抱きつき、そのまま頬を擦り付けて来た。


 思考が停止した。


 コイツの能力が俺と同じ停止の魔法かもと思ったが、多分違うと察した。


「……離して下さい。キモいです」

「いいえ離さないわ。こんな愛らしい生き物を手放すなんて不可能よ」


 更に強く抱きしめられる。


 ……クッ。


「いいから離れて下さい」

「あっ」


 氷の壁を生み出し、距離を取る。


 何故か回り込もうとしてくるので辺り一体を氷で固めた。


「そんな摂政な!!」

「知らないですよそんなもの」


 思ってた数倍面倒そうな魔法少女。


 こんなのだと知っていれば関わることはなかったのに。


 失敗したな。


「でも意外ね。野良の魔法少女だからてっきり危ない人かと思ったわ」

「いやどさくさに紛れて近付こうとしないで下さい」


 回り込んで何度も抱きついてこようとする魔法少女。


 頭がおかしいとしか言いようがないが、せめて小言の一つくらいは言っておかないと。


「正直、お前の姿は見ていられません。何がしたいんですか」

「……恥ずかしいところを見せちゃったわね。確かに、あの時私が油断したせいで」

「問題はそこじゃありません」


 それも問題ではあるが


「どうして逃げなかったんです。それにあの時庇わなければ、まだ勝機はありました」

「……」

「お前の行動の全てに、その命が含まれていないようでした」


 それが本当に腹立たしくて仕方がない。


「そんな生き方してたら、死にますよ」

「別に構わないわ」


 悠々と彼女は答える。


「例えそれで私が死んでも、その行動で誰かが助かるなら私は何度だって同じことをする」

「……頭おかしいんじゃないですか」

「そうかもしれない。でも、この信念を曲げる気はない」


 あまりの気迫に、俺はつい尻込んでしまう。


 それがまるで成長していない自分を直視されたような気がして、頭に血が上る。


「ふざけないで下さい!!お前が死んで悲しむ人だっているんですよ!!」

「そうね」

「その命が無駄に散る可能性だってあるんです!!」

「そうかもしれない」

「それなのにどうして!!」


 叫ぶ俺に、彼女は諭すように優しげな声で


「それでもそれが、私の信じた道だから」


 揺るぎない瞳を見た俺は、ついたじろいでしまう。


 まるで目の前の存在が俺を否定しているようで、なのにそんな存在を心地良く思ってしまう自分が嫌で


「もう……いいです」

「待って!!私の方はまだ話が」

「いえ、もう終わりです」


 時計の針が止まる。


「決めました」


 小さな足音だけが、教室に響き渡る。


「俺が魔物を殲滅してやりますよ」


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