三人の令嬢〜真似っ子モブ令嬢現る〜
三人の令嬢〜賢姫?いいえただのモブです〜の続編です。
そちらを読んでからだと世界観がわかりやすいかと思います。
よろしくお願いします。
例の婚約破棄騒動から一ヶ月。
学園は平穏を取り戻していた。
やらかした王太子は休学し、元凶となった魔女は…詳しいことは語られないが国の礎となったようだ。
また冤罪にて断罪されそうになっていた公爵令嬢はなんの瑕疵もないとされ、隣国の王弟殿下と婚姻を結ぶ運びとなった。
ー世は並べて事も無しー
だが…新たな事件の幕開けが迫っていた。
この学園は国内のほぼすべての貴族令息令嬢が通っている。
それは一代貴族や騎士爵も含まれている為、かなりの人数に上っている。
と言ってもすべて同じカリキュラムではない。
下級には下級の、上級には上級の、それぞれの貴族に相応しい教育があるからだ。
よって騎士爵〜子爵、伯爵〜公爵、王族は違うクラスにいる。
前回の(元)王太子と自称男爵令嬢は中庭で運命の出会いを果たしたそうだが、本来ならありえない事だった。
なお現在はよりセキュリティが厳しくなっているため、下級貴族クラスと上級貴族クラスの者が出会うことはほぼ皆無と言っていい。
そこに今回の騒動の原因があったのだが、この時はまだ誰も知らない。
「ご機嫌よう、ジュゴン伯爵令嬢」
「ご機嫌よう、オピスティス伯爵令嬢」
挨拶を交わしていると、同じクラスの令嬢が集まってくる。
他愛もない会話が始まるが、どこに情報が潜んでいるかわからない。
耳を澄ませて聞いていると
「お聞きになりまして?…モブ令嬢の事ですわ」
思わず吹き出しそうになるのを堪える。
「夜会の話ですの?」
ちらりとこちらを見る令嬢は、あの婚約破棄騒動の夜会に参加していたようだ。
「夜会…?いいえ、下級クラスの令嬢のことですわ」
「私も存じておりますわ!揉め事が起こるたびに『このモブ令嬢にお任せあれ』と仰って出て来られるのでしょう?」
「そのくせ何も解決しませんのよね」
令嬢方は頬に手を当て溜息を吐く。
「むしろ悪化する事が殆どですのよ」
「以前公爵令嬢をお助けしたと聞いてどのような方かと思っておりましたのに…あのような方だったなんて」
「「がっかりですわ」」
これは由々しき事態である。
特に自分たちが件のモブ令嬢であると吹聴するつもりは無いが、名を語ってさらに貶めるような事をされてはたまったものではない。
帰ったら早速作戦会議をしないと…と密かに鼻息を荒くするジュゴン伯爵令嬢だった。
「…という話を聞きましたの〜」
ここは三人で暮らす屋敷の談話室。
帰宅したら着替えて夕食まではここで会話するのが日常である。
「ああ、私も聞きましたわ」
「私も…うちのクラスの令嬢は夜会にいた娘が多いから、知り合いかってすっごい聞かれた」
「真似っ子さんですわね〜」
「ただの真似っ子なら良いけど、実害が出てる」
「貴族と商人のトラブルに首を突っ込んで事態を悪化させたそうですわ〜」
「そうなの?私が聞いたのは痴情の縺れに口挟んで結局婚約破棄になったって」
「私が聞いたのは陰謀論でしたわ」
三人は顔を見合わせると頭を抱えた。
「モブ令嬢って言うのは!そういうんじゃないんだよ!!」
「そうですわ〜、私達は目立ちたくないからモブとして背景に埋もれてますのに…」
「…マー、その令嬢について調べられないかしら」
「んー、今わかってるのは」
名前はコシュビアン子爵令嬢で、いつも一緒にいるのはヘンバイン男爵令嬢とアンネクト騎士爵令嬢。
この二人はいわゆる太鼓持ちのような存在で、何かにつけて子爵令嬢を持ち上げているらしい。
また、子爵家が懇意にしているオピスティス伯爵からモブ令嬢の話を聞いたらしい。
「…こんな所かしら〜…どうなさったの?二人とも」
相変わらずの情報通に唖然とする二人。
「これだけだと動機がわからないから、もう少し探ってみますわね〜」
この国に、ジュゴン伯爵令嬢の知らない事や調べられない事など無いのではないだろうか…。
つくづく仲間で良かったと思う二人だった。
数日後。
調べたことをそれぞれ報告し合う。
「優秀な弟さんがいらっしゃるそうですわ〜。お父様の気を引きたくていろいろやっているそうですけど、空回りしてるみたいですわ」
「なるほど…太鼓持ちの二人は?」
「子爵家の子飼いの一代男爵と騎士爵の令嬢でしたわ〜」
「親の命令で言う事聞いてるやつじゃん」
「後は…首を突っ込んで婚約破棄になったのがネクステージ公爵家の令息でしたわ〜」
それを聞いて息を飲む二人。
この国には公爵家が二家ある。
一つはカモミール公爵家、そしてもう一つがネクステージ公爵家。
こちらはかつて王弟が臣籍降下して興した王族縁の家系である。
「や、やばいんじゃないの?」
「私達には関係無いとはいえモブ令嬢を名乗っている以上、何か言われるかもしれませんわ…」
「降りかかる火の粉は払いませんとね〜」
にこにこしているが一番の武闘派(脳筋)なジュゴン伯爵令嬢を見ていると、なんとかなる気がしてきた。
「それもそうだね」
「ええ、火の粉が降り掛かったら払い除けませんと」
頷き合う三人。
そしてその時はすぐにやってきた。
ネクステージ公爵家には三人の令息がいる。
長男は今年学園を卒業予定、次男は入学した所、三男は10歳になったばかりだった。
今回の婚約破棄騒動は三男の話である。
三男なのでとある子爵家の婿養子になる事が決まっているのだが、まだ子供の為当事者同士がぎくしゃくしてしまっていた。
コシュビアン子爵家の令息が同い年の為、また子爵家に入るという事もあり相談をしていた所件の令嬢が口を挟んだようだった。
結果は拗れに拗れ婚約破棄という段階に至り、激怒したネクステージ公爵がモブ令嬢許さんとばかりに三人にまで因縁を吹きかけて来たのだった。
「お前達がモブ令嬢か。元王太子の時は上手くやったようだが今回はそうはいかん…報いを受けてもらうぞ」
まるで悪役の様に登場したネクステージ公爵にストップをかけたのは、他でもない彼の長男であった。
「父上、彼女達は違いますよ」
そこに次男が追い打ちをかける。
「そうですよ!彼女達にうちの領がどれだけ世話になっていると思ってるんですか?!」
「え…?」
「彼女達の深い知識、幅広い人脈…それら無くして我が領の発展はあり得ません」
「だ、だがモブ令嬢とやらが婚約破棄の原因…」
「それなんですけど〜」
ジュゴン伯爵令嬢がおっとりと手を上げる。
「あちらの子爵令嬢に好きな花を贈ったり、舞台を観劇したりすれば関係修復もできると存じますのよ〜」
その言葉に食いつく三男令息。
「ほ、本当か?!彼女とやり直せるならなんでもする!」
「手紙で誠意を見せるのもよろしいかと」
「恥ずかしい気持ちはわかりますが、まずは好意を示す所からですわ」
「頑張る!彼女にもう一度振り向いてもらえるなら」
どうやら初恋を拗らせていただけのようだ。
話は上手くまとまったが、公爵は振り上げた拳の行き場を探していた。
「モブ令嬢とは…いったい…」
「父上、それなんですが」
そっと耳打ちする次男令息。
元凶が判明した公爵は「失礼する!」と意気揚々と去って行った。
出来の良い弟に両親の関心を奪われ、なんとか振り向かせようと空回りした挙句一人の令息の未来を奪いかねない事態を引き起こした子爵令嬢。
国の重鎮を怒らせあわやお家断絶寸前だったが、実家に切り捨てられた彼女はあっさりと生贄として差し出された。
国家転覆・騒乱罪など色々な罪で断罪され、この後は修道院にて日々お務めに励む事となる。
「あの子も可哀想な子だったね」
「そうですわね…」
「それはそれとして〜」
「「「罪は罪よね」」」
というわけで、当事者に配られる減刑を望むかという書類には『厳罰を望む』に丸を付ける。
仮にも自分たちより下位の者に傷を付けられたのだ。
温い処分をしては示しがつかない。
前世では考えられないが、自分たちは今この世界に生きる貴族なのだから。
「…ちっ…やはり低俗な人間では上手く行かんか…」
To Be Continued…?
クー(クロウ)…オウル伯爵令嬢。今回は影が薄め。火の粉を振り払う気満々だったが公爵令息達に美味しい所を持って行かれて少々不服。
ティー(ファティナ)…パール伯爵令嬢。こちらも同じく美味しい所を持って行かれてやや不満。
長男令息は同級生。
マー(マーニャ)…ジュゴン伯爵令嬢。情報集めに余念がない。今回も集めた情報で返り討ちにしようとしていたが、長男次男令息に(全力で)止められた。次男令息と同級生。
コシュビアン子爵令嬢…自称モブ令嬢その一。弟ばかり構う両親の気を引くために今回の騒動を思い付いた。行く行くは家の為になる婚姻を結び嫁ぐはずだったが、あっさりと切り捨てられた。
ヘンバイン男爵令嬢…一代男爵家の令嬢。家が子爵家に仕えている為子爵令嬢の側にいる。太鼓持ちその一。子爵令嬢にはモブ令嬢その二と呼ばれる。
アンネクト騎士爵令嬢…子爵家に仕える騎士爵家の令嬢。太鼓持ちその二。子爵令嬢にはモブ令嬢その三と呼ばれる。なお太鼓持ちの二人はお咎め無しだった。
オピスティス伯爵令嬢…下級から上級まで幅広く顔が利く伯爵家の令嬢。今回の騒動の真の元凶。
ネクステージ公爵家…かつて王弟が臣籍降下して興した家。血筋はもちろん、古参なのでかなり重鎮。長男は元王太子と同じ年。次男はいずれ長男の補佐として公爵家を盛り立て、三男は子爵とはいえかつて王妹が降嫁した家柄に婿養子に入る予定。