少女は驚くほど繊細な硝子細工
親父から義父に変更しました。
「はわややや······遊園地ですか?」
その小さな女の子は肯定とも否定とも取れない様子で言った。
「そこのお兄さん、寝ぼけてるの?大丈夫?漕げます?
それと、ボートで寝るの禁止なんで〜気をつけてください〜
あ、アヒルちゃんはこっちのボート乗りますか?アヒルボート大分流されちゃったので、俺が後で回収するんで」
俺が倒れていると思って助けに来たのかと思ったが
、従業員は結局は昼寝を注意するだけで、何故か少女の方を自分のボートに乗せてそのままボートを漕いであっという間に見えなくなってしまった。漕ぐのが早い。
後には俺とボートだけが残されたーーーそしてアヒルボートも、やや遠くに。
「········なんなんだ?人が気持ちよく昼寝していたのに」
分けが分からない。寝てるだけで従業員が注意しに来るなんて、聞いてない。
この洲原池のボートは客も少なく、船の上で揺られるのはアイデアを練るのにちょうどいい。
風が吹く度に、波の間に間にフワリとアイデアが浮かんでくるイメージだ。
俺は、世間で言ういわゆる学生起業家だ。
そう言ってしまうと聞こえはいいが、どの起業の発案も無惨に失敗してばかり、極稀に上手くいきそうなのがあれは、資金提供してくれる義父が事業ごと持って行ってしまう。
『お前は当て屋だけやっていればいい』
義父に言わせれば、そういうことらしい。
学生起業家という看板で目立つだけ目立ってうまいことメディアに取り上げてもらえと、都合のよいことを言う。
ちなみに、学友会の会長なんてしているのもただの箔付けだ。
確かに『学生』というのはプラスに働いてもマイナスになることはない。
学生と両立、なんて褒められたものではない。
俺は今年は一切授業には出てない。今年度に至っては4月にクラスで貰うはずの履修表もシラバスも貰ってすらいない。留年し過ぎて自分がそもそも何学部で何コースに入学したかすら忘れてしまったのだ。元々合格しそうな倍率の少ないコースを選んだだけなんだ。
俺は学生で居続けるためにもう既に3回留年している。この大学では留年は4回まで認められているので、今年の留年が既に決定しているから、それで最後だ。
来年度の4月こそ、忘却の自分のコースを調べ直し教室まで辿り着いて、履修表とシラバスをゲットしないといけないだろう。
残り1年間で卒業に足りない単位を全て履修しないといけないのだ。
·········かなりのミッションインポッシブルになる。
俺が起業で失敗を繰り返している間に、
すり減っていったのは『学生の本分』というやつだったのかもしれない。
義父は今を時めく大企業、貧田コーポレーションの代表だ。かつては貧しい田を耕していたご先祖から、義父の代、一代で成り上がった、らしい。
『貧田』という名は、下剋上の証だと義父は大層この名字を気に入っている。
ふと、池の上を渡る風が気持ちいい。
腕時計を見ると、そろそろ戻る時間だ。
俺はこの地を大学とタイアップして遊園地を作れないか考えていた。市などの行政とでもいい。
ほら、奇抜だろう?
学生起業の大事なのは奇抜で人目を引くことだ。
失敗しても注目を浴びればいい。ちゃんと調べる人なら俺から容易に貧田コーポレーションに辿り着く。要は貧田コーポレーションの広告媒体の一種なのだ、俺は。
義父がいつも言う決めゼリフ、『新しい取り組みの貧田です!』
新しい取り組みばかりさせられる俺は正直ゲボが出そうだけど。
「でも、遊園地、いいなあ·······」
遊園地だったら、皆喜んでサボらず通うんじゃないか?
デートなんて誘わなくても、偶然授業の帰りに出会った女の子と乗り物デート、なんてな。
「あ」
俺はついさっきの出来事を思い出していた。
昼寝していた俺のこのボートに相乗りしていた小さな女の子。俺の様子を心配してくれたのかもしれない。
ああいうアクシデントは、まさに大学遊園地ならではっぽいよな。
彼女は驚くほど繊細な硝子細工のような美少女だった。
中学生ぐらいだろうか?
『·····遊園地ですか?』
記憶の彼女の躊躇った、か細い声が俺の脳内を刺激する。
大会社社長子息と持て囃される俺はモテ過ぎるほどモテる。でも集まってくる女の殆どが肉食系女子なんだよな。
小さい女の子って、·····はぁ、可愛いな。
ああいう無垢(?)なタイプは珍しい。本当に。
「ここのボートはこのまま遊園地に使いたいな········」
俺はゆっくり船着き場へ戻ってきた。
やっぱり起業のアイデアは洲原池のボートの上に限る。
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