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1話目 恐ろしい出会い

大幅にお話を変更させて頂きました。

深夜、草木も眠る丑三つ時、大学の寮生であるなめこ川は、消えた飼い猫を探しに校内の裏山を彷徨っていた。


裏山は街外れの小高い丘で、しかし真夜中にこうして来てみれば信じられないくらい樹々が鬱そうとしている。

小柄で臆病な少女なめこ川は、迷子になった哀れな愛猫のため勇気をふりしぼって山を登り森を進まなくてはならない。



暫く歩くと樹々の切れ間で開けた広場のような場所に出た。

かーんかーんかーん

森へ入った時から聞こえていた不思議な音が大きくなる。音がする方を眺めると、ふと、広場に明るく照らされた一角がある。


目を凝らすと白装束姿で髪を振り乱し、木にくいで何かを打ちつけている長身の女の姿が。

薄暗い明かりにぼうっと浮かんでいた。

それは俗に語られる丑の刻参り(?)のような出で立ちだ。


女の金の美しい髪が振り乱れて僅かだった照明の明かりをギラギラ霧散する。


髪が幾筋も乱れ掛かっているので顔は分からないが、白装束と手袋をした女の手には血痕のようなものが付着している。


··········女はゆっくりこちらを振り返った。


「······見たなあ〜········!」


「ぎゃ~!!」


妖怪だ妖怪だ妖怪だ

なめこ川は恐怖で動かなくなった身体にむち打ち、夜の森を藻掻きながら一目散に転げ去った。





ここはA大学総合造形コース漆教室、

ここには実に美しい青年が一人所属している。

彼は2年生、曽根カオル。

父は日本人、母はルーマニア人のハーフだ。

長身でスラリと格好の良い彼はとにかく遠目でも何処にいても目立つ。


彼の長い金髪は艷やかな黄金でハチミツのようだ。

瞳は透き通ったマリンブルーと藍色のグラデーションで、覗き込めばその色合いの美しさに目が離せずうっかり吸い込まれそうになる、らしい。

彼には誰でもあっという間に恋に落ちるのだとそんな風に噂されていた。


おまけに明るい色彩で構成された柔和な顔立ちは優しげで、周りに人を呼び寄せる。

去年入学してから1週間でファンクラブができたほどであるが、ある事情から2年生になってからは静かになってしまった。


曽根は大学内で知らない者はいないぐらいの有名人だが、

そんな曽根には秘密があった。


曽根はいわゆる、ゲイであった。

それに気づいたのはほんの去年。

漆部屋で担任の黒島教授に女性に間違われた時だった。


『君、すっごく美女さんたよね!漆を専攻してくれてありがとう!』


それってセクハラ?

いや違う。

それは、仕方ない。仕方がないのだ。

曽根は自分の輝く金の髪が気に入っていたので長く伸ばしていたから。

服装も一応はパンツルックではあるが上下共にレディースで買い揃えていたから。


オシャレが大好きな彼は、種類が豊富で綺羅綺羅しいレディースのブランドがいつも気になってしまう。

おまけに細身で腰の上部がキュッと締まった自分の体型ではこちらの方が断然似合ってしまうと思う。


だから黒島教授は悪くない。


そう思うのに、漆芸で尊敬していたはずの教授が全く別の意味で気になって仕方なくなってしまった。


このまま、女と勘違いしてもらいたい。

そう思えば、どんどん女装へ傾いていった。

口調も女言葉に変えた。


ファンクラブが大人しくなったのはそういう訳だ。


漆部屋には他に院生の海府が一人いる。

教育大学には「教育」の名のもとに意外と変わったコースが小さく幾つも存在している。総合造形コースは教育免許を取得しなくても卒業できるという、専門性に重きを置いたコースだ。

総合造形は漆教室のほかに陶芸教室・金工・陶芸・ガラス・織りと伝統工芸を習得するための幾つもの小さいコースに分かれていて、1年生は九月になるとその内から1つのコースを専攻する、今は十月なので専攻は決定したばかりだ。



なめこ川は大学の造形棟にある漆部屋を廊下側にある窓の外から覗いていた。


1年生のなめこ川は『織り』を専攻したので漆部屋に縁はないはずなのだが、同学年で漆教室専攻の高木という青年に恋をしていて、この部屋をしばしば覗き見ている。


なめこ川は簡潔に言えば小学生みたいだが、実にキュートな女の子だ。

小さなお顔は繊細に作られていて、黒い瞳はビスクドールのように睫毛がびっしり縁取っている。ほっぺはほんのりピンクで、その顔を取り巻いている黒く艷やかで豊かな髪は長く緩やかにウェーブしている。

そして華奢な身体は小動物を連想させ······

······とやはりまあ、結局は小学生という印象なのだが。


とってもシャイななめこ川は、高木にばれないよう姿を隠して覗いているのに、頭隠して尻隠さず、漆部屋の他のメンバーには大分以前からばれているのであった。


というわけで曽根は毎日のように現われるなめこ川の顔をすっかり覚えていた。

曽根は健気な少女をいつも憐れんで見ていたが、まさか昨日その少女があの現場にやって来るとは思わなかった。


曽根は、昨夜の丑の刻参りの金髪の女であった。

今やすっかり女装が板についた曽根はもちろん女物の白装束を着ていた。


なめこ川が曽根に恋するそこら辺の女の子だったら懐柔しやすかっただろう。

にっこり微笑んで『お願い、黙っててね』と言えばいい。

ちょっと付き合ってあげてもいいかもしれない

ゲイだから、できることは少ないけれど。


しかし、小学生と見紛うようなあの少女にできるアプローチとは何だろうか?

それより本当に強面の高木が好きなのだろうか?

それより高木に脅されている可能性は?


以前から大嫌いな後輩、高木について考える。


「あ〜あ、ツイてないわぁ·····」

女言葉はもはや自然と出てくる。


曽根はどうやって口封じしようかと歯噛みする思いで、窓からこっそりはみ出しているなめこ川の頭頂部を見つめていた。


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