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9、約束

 応接室には、三つの席が用意されていた。

「それでは、どうぞ」

 アレスは椅子を引くと、カーリーに座るよう促した。

「ありがとうございます、アレス様」

 カーリーが椅子に座った後、アレスとチャーリーもそれぞれの席に着いた。


「それでは、カーリー様にお持ち頂いたクッキーの毒味をさせていただきましょう」

「え?」

 カーリーはアレスの言葉にショックを受けた。しかし、婚約者とはいえ、まだ正式に合うのは二回目なので警戒するのも仕方が無いと思い直して微笑んだ。

「アレス、毒見だなんて失礼だよ」

 チャーリーがカーリーを気遣った。


「兄上、人をすぐに信じるのは危険ですよ」

 アレスはジャムクッキーを一つ囓った。

「……!!」

 アレスの動きが止まった。

「アレス?」

「アレス様!?」


 カーリーとチャーリーが、アレスの顔をじっと見つめている。

「……美味しいです。カーリー様。試すようなことをして申し訳ありませんでした」

 アレスはにっこりと二人に笑いかけた。

「ああ、驚いた」

「まったく、酷いですわ、アレス様」

「あはは、失礼しました。こんな美味しいクッキーは初めてです」


 アレスはそう言ってから、紅茶を一口飲んだ。

「これなら兄上も食べて大丈夫でしょう」

「いただきます、カーリー様」

 チャーリーもクッキーを一つつまみ、サクリ、とかじった。

「うん。ジャムの風味が口に広がって、クッキーの甘さも控えめでとても美味しいです」


「喜んで頂けて良かったですわ」

 カーリーはホッとして、じぶんもクッキーを口に運んだ。

「カーリー様はお菓子作りが得意なのですか?」

 チャーリーが訊ねたので、カーリーは答えた。

「渡した相手が喜んで下さったら良いな、と思いながらお菓子を作るのは楽しいです」

 アレスがそれを聞いて言った。


「ご自分用には作られないのですか?」

 カーリーは俯いた後、頬を染めて答えた。

「……材料を量ったり、粉をふるったり、生地を練ったりするのは大変なので……自分のためには凝ったお菓子は、あまり作りません」

「素直ですね」

 チャーリーが可笑しそうに笑った。


 アレスは頷いている。

「でも、このあんずのジャムクッキーは本当に美味しいですよ」

 アレスは二つ目のクッキーに手を出していた。

「アレスはクッキーが好きだから……。僕の分も食べていいよ」

 カーリーは、心配になってチャーリーに訊いた。

「あの、お口に合いませんでしたか?」


「いいえ。とても美味しいですよ? ただ、僕はあまり食べられないので……」

 アレスが口を挟んだ。

「兄上は食が細いんだ。体も弱いし。先々代の当主が魔女の恨みをかった所為でね」

「え?」

 カーリーはアレスの顔を見て、首をかしげた。

「僕の体が弱いのは、魔女の呪いの所為だって、アレスは言うんです」


 チャーリーは困ったように、カーリーに説明した。

「お父様もおっしゃっていただろう!」

 アレスはチャーリーに言った。

「まあ、まあ。アレスが怒っても、僕の体が良くなるわけじゃないんだから」

 チャーリーは苦笑して、アレスをなだめた。

「そうですか……チャーリー様、お薬は飲んでいらっしゃるのですか?」

「ええ」


 カーリーは考えた後、アレスとチャーリーに言った。

「私、薬草学が得意ですの。それに回復魔法が使えます。もしかしたら、チャーリー様のお体を治せるかも知れません」

 アレスが言った。

「それは凄い。回復魔法が使える人間に会ったのは初めてだ。兄上を治していただけるのなら、何でもしよう」

 カーリーはアレスとチャーリーに言った。

「少し時間をください。薬草と魔法について調べてみますわ」


「ありがとう、カーリー様」

 チャーリーがにっこりと笑って言った。

「お礼は治ってからにしてくださいませ」

 カーリーはお茶会を終えると、自分の屋敷に帰っていった。

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