1、縁談
カーリー・ムーアが部屋でくつろいでいると、ドアがノックされた。
「私だ、カーリー。今日は良い知らせがある」
「なんですか? お父様」
カーリーがドアを開けると、父親のムーア男爵が笑みをたたえて立っていた。
「カーリー。お前の婚約者が決まった。ガレシア侯爵の息子、アレス・ガレシア様だ」
アレスという名前を聞いて、カーリーの顔が曇った。
「え? あの乱暴……いえ、勇ましいアレス様ですか?」
カーリーの問いかけに、父親は得意げに答えた。
「ああ、そうだ。……ん? カーリー、さえない表情だが何か不満でもあるのか?」
「……いいえ、お父様」
カーリーが無理に笑うと、父親は上機嫌で言った。
「さあ、今夜はご馳走だ。カーリー、おめでとう」
「ありがとうございます、お父様」
「来週にはお前とアレス様の顔合わせをする予定だから、きちんと体調を整えておきなさい」
「はい」
「それでは、また後で話そう」
父親はドアを閉めると、廊下を歩いて行く音が遠ざかっていった。
「お父様……婚約者をきめてくるなんて、突然すぎますわ」
カーリーはため息をついた。
窓から眺める風景にも、別れが来ることなど考えていなかった。
「チャーリー様は病弱だけれど温厚で、情が深く優しいと聞いたことがあるけど……」
カーリーは飲みかけの紅茶を一口含み、ごくりと飲み込んだ。
「……アレス様は乱暴で、口が悪いと言う話でしたわ……」
憂鬱な表情で、カーリーはベッドに腰掛けた。
「とりあえず、夕食の時にお父様から詳しい話が聞けるでしょう……」
そう言って、カーリーは目を閉じた。