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対象者は妻だった  作者: サエキ タケヒコ
5/6

5 サマーランド


「俺は本当に死んでいるのか」


 俺は少女に尋ねた。


「そうよ」


 なんとか自分が死んでいるという事実を受け止めようとした。


「だとしたら、どうしたらいい」


「奥さんのことをまだ愛しているなら自由にしてあげて」


 眼を閉じた。


 今までの人生が早送りで駆け抜けた。

 妻との出会い。

 最初のデート。

 そして、結婚式……。


「すまなかった」


 見ると妻の死体も女の子の姿も姿を消した。




 殺風景な部屋に一人でいた。


 ビジネスホテルの一室のようだった。


 俺は部屋を出ると街を歩いた。


(あの子が言ったように俺は本当にもう死んでいるのか)


 歩いてみても街並みは普通だった。


 死後の世界とは思えなかった。


 生きていた頃の現実と全く変わらない。


 ここは死者が最初に訪れるという霊界の一種なのだろうか。



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