4 本当の依頼者
「大丈夫か」
「ウーン」
「またあの夢をみていたのか」
「ええ」
妻の声だった。
俺は部屋を見渡した。
誰もいなかった。
妻の死体が横たわっているだけだ。
「うなされていたぞ」
「平気よ」
妻が誰かと話をしている声がする。
「出て来い」
姿の見えない相手に対して言った。
わけのわからない恐怖にとらわれた。
(まだ死んでいないのか)
俺は妻の死体の首に再び手をかけようとした。
「やめなさい」
子供の声だった。
振り返ると七歳くらいの女の子がいた。
「お前は誰だ」
「あなたの依頼者よ」
「依頼者だと?」
「今回の浮気調査は私が頼んだの」
「どういうことだ」
「奥さんに頼まれたからよ」
「妻に?」
「そう。あなたに行くべきところに行ってもらうためにね」
「何を言っている」
「あなたはもう死んでいるの」
「死んでいるだと?」
女の子は頷いた。
「あなたは尾行中にトラックにはねられたの。即死だったわ。でもその事に気が付かないで奥さんに取りついて苦しめていたのよ」
「そんな馬鹿な」
「奥さんをもう自由にしてあげて。新しい恋人もできたの」
「でも俺は今さっき妻をこの手で殺したばかりだ……」
「それは奥さんの夢の中でのことよ」
俺は混乱した。