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対象者は妻だった  作者: サエキ タケヒコ
1/6

1 浮気調査


「対象者が会社を出ました」


 イヤホンから相棒の声が聞こえた。


「了解」


 俺はマイクに向かってつぶやいた。


 しばらくして改札で待ち伏せていた俺の前に対象者が姿を現した。


 今回の対象者は特徴の無い三〇代半ばの男性だった。


 俺は対象者の尾行を始めた。




 渋谷で対象者は電車を降りた。


 対象者はカフェに入った。


 俺も店に入る。


 今回の調査の目的は浮気調査だった。


 対象者はスマホを気にしながら店の外を見ていた。


 たぶん浮気相手と待ち合わせしているのだろう。


 興信所で探偵をしているのは会社をリストラされたからだ。俺は大手企業に勤めるサラリーマンだった。それだけが、ある意味俺取り柄だった。


 俺には不釣合いな美人の妻と結婚できたのも、安定した大企業に勤めていたおかげだ。


 だから、俺は会社をクビになってもそれを隠した。


 毎朝定時出勤してハローワークに通った。


 中年男性の再就職はきつかった。


 そんな時、中華料理店のカウンターの下にあった油染みの付いたスポーツ新聞の求人欄で見つけたのが今の仕事だ。


 「正社員募集・年齢学歴不問・高収入保証」


 その言葉に吸い寄せられたのだ。


 応募すると、採用はあっけないくらい簡単に決まった。


 だが妻には隠していた。


 興信所の仕事は俺に向いていた。


 浮気調査は面白かった。


 俺の調査で地位や金のある連中がその座から転がり落ち、すべてを失って行くのを見るのは愉快だった。


 俺は腕利きの調査員になって行った。




「ごめん、待った」


 対象者に女が声をかけた。


「いや」


 その女の顔を見て凍りついた。


 対象者がコーヒーのカップを乗せたトレイを持って立ち上がる。


「私、やるわ」


 女がトレイを持って下げに行った。


 俺はとっさに顔を隠した。


 その女は俺の妻だった。


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