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女性偉人短編

偽りのプリンセス

作者: 白百合三咲

実在の女優を書いた短編です。

初めて百合以外のジャンルに挑戦します。

 わたくしは女優。今も主演舞台の真っ最中。ここは裁判所。わたくしの役は被告人、いえ革命で裁かれているプリンセスとでも言っておこうかしら?

「被告人レーニ・リーフェンシュタール」

裁判官がわたくしの名前を呼ぶ。

「はい。」

わたくしが裁かれている罪状は「戦犯」。戦時中にナチスを宣伝するためのプロパガンダ映画に出演したこと。「戦犯?」そんな言われようないわ。だってわたくしは映画に出たかったから出た、演じたから演じただけですもの。






 わたくしの家はそれなりに裕福でほしい物は手に入り、習い事も何でもやらせてくれた。特にクラシックバレエが大好きでチュチュをつけて踊ると童話のプリンセスになれたみたいで楽しかった。発表会はいつも主役。お父様もお母様も特等席で見てくれる。終わったら高級レストランでディナーそんな時間がいつまでも続くと思っていたわ。






 16才のとき女学校を卒業すると演劇学校へと進んだ。だけど学費は出してもらえなかったから演劇学校で出会った親友ジルと出会い2人でネルゾン劇場でダンサーとして働いていたわ。

白のドレスを着て舞台で踊る。あのジョセフィンベーカーの後で踊ったこともあったわ。

でも生活は楽ではなかった。ダンサーとして働いていても学費と生活費でほとんど手元には残らなかったわ。親友のジルと2人で小さなアパートを借りた。今まで使用人がやってくれた家事には苦労したわ。パンの焼き方から洗濯の仕方、ジルは1から丁寧に教えてくれたわ。決して不幸せではなかったけどかつての裕福な暮らしが恋しくなったわ。


 そこで見つけたのが映画の仕事。ジルと一緒にオーディションを受けたわ。演目はオーストリアの王子様と一途な乙女の身分違いの恋「マイヤリング物語」。

わたくしもジルも見事合格。だけどヒロインのマリーに抜擢されたのはわたくしではなくジルでしたわ。わたくしは準ヒロイン。ルドルフ皇子の親友の身分違いの恋人ミリー。出番は多くていいけれど役柄は平民の踊り子。だから衣装はブラウスとスカートに前掛けをしただけ。

一方でジルの衣装は昔絵本のプリンセスが着ていたようなピンクのフリルのドレス、かと思えば白の純白のドレス。シーン毎に違うドレスを着ていたわ。お城のようなセット、そして隣には素敵な王子様、以前わたくしが持っていたものをジルはスクリーンの中で手にしてしまったわ。


(悔しい。どうしてわたくしではなくあの娘なの?)



 映画がヒットするとわたくしは多数の有名人達や軍のお偉方が顔を出すようなパーティーに出席するようになったわ。そこで1人の男と出会ったわ。彼の名はアドルフ・ヒトラー。ドイツ帝国の元首、そしてナチス党の指導者。






 ヒトラー閣下はわたくしにそれは良くして下さったわ。彼はわたくしを食事会にも誘ってくれたし高価な宝石やドレスだって買ってくれた。わたくしは彼が購入してくれた高級マンションに移り住んだ。

そしてこうも言ってくださったわ。

「映画で主役になりたいなら力を貸す。」


わたくしは1つ返事で承諾したわ。


その後わたくしに主役の話がやってきた。役柄はフランス国王ルイ13世陛下の妃、アンヌ王妃。


衣装は濃いピンクに宝石がちりばめられたドレス、ティアラにダイアモンドのネックレス。


(そう、これだわ。)


スクリーンの中だけでなく実生活もプリンセスとして返り咲くことができたわ。





「被告!!お前はユダヤ人達が収容所で酷い目に合ってる時に華やかな邸宅で贅沢に浸っていた。違うか?」


検察官の鋭い尋問と共に傍聴席からはわたくしに対する非難の声が聞こえる。

「傍聴席静粛に。」

裁判官の声が法廷内に響く。

「被告人、答えなさい。」

「仮にそうだとしたら何か問題おありかしら?ヒトラー閣下はわたくしの望んだものを与えてくださった。だから手にとった。それだけですわ。それにわたくしはユダヤ人を直接手にかけたわけではない。こんなことでわたくしを裁けるとお思いかしら?」




裁判官が判決を言い渡す。

「主文被告人は無罪。」

映画出演は仕事として引き受けただけ、そしてヒトラー閣下との関係についても公になっていたといえどもわたくしがナチスの党員だという証拠はない。裁判所はそう判断したのでしょう。

 当然わたくしはナチスの党員ではないし、ナチスのやり方に賛同していたわけではない。ただヒトラー閣下はわたくしの芝居を認めてくれた。それが嬉しかったから。だからナチスの作る映画に出ていた。

何はともあれ舞台はハッピーエンドで幕を降ろしたわ。



 




釈放後、わたくしはそのまま駅へと向かった。パリ行きの列車に乗るために。きっとわたくしの名前はこれからも戦犯として歴史が語り継ぐでしょう。でもわたくしは堂々として生きていこう。わたくしは何1つ間違ったことはしていないのだから、たった1つを除いては。

駅にいる新聞売りの少年から1束買う。一面には親友が写っていた。

「ジル・クラン アカデミー賞主演女優賞受賞」

写真のジルは誰よりも輝いていた。わたくしが「マイヤリング」のオーディションで負けたとき、悔しくて敗北を認めたくなくてジルがユダヤ人だという嘘の情報を社長にリークしたわ。社長は相手にしてくれなかったけど。一歩間違えれば親友の命を奪っていたわ。映画監督をしている恋人と共にハリウッドへと向かったと聞いたときは安心したわ。きっとジルはわたくしのことを許してはくれないでしょう。


「ジルおめでとう、そしてごめんなさい。」

わたくしはそっと呟いた。



「あの、すみません?」

わたくしは1人の少女に声をかけられた。

「レーニ・リーフェンシュタールさんですよね?」

「ええ。」

「私ずっとファンでした。マイヤリングの踊り子可愛くていつも姉のスカート履いて真似してたんです。」

少女はわたくしの手を握る。

「ありがとう。」

「レーニさんもう映画には出ないんですか?またレーニさんのお芝居見たいです。」

少女の顔が一瞬寂しそうに見えた。

「いいえ、映画にはまた出演するわよ。」

わたくしを認めてくれる人がいる限り決してスクリーンから姿を消したりしないわ。


                   Fin

以前書いたものですがアレンジしました。


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― 新着の感想 ―
[一言] レニ・リーフェンシュタールは女優よりも「民族の祭典」「美の祭典」の監督という印象が強く、彼女がナチス崩壊後に取材した「ヌバ」の写真集には感銘を受けた記憶があるのですが、本人の中では女優の意識…
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