第18話 彼だからこそ
私は、エルクル様にくすぐってもらおうとした。
しかし、その提案は恥ずかしいものであると気づいた。流石に、彼にくすぐられるのは駄目な気がする。
「誰か、別の人を呼びましょうか? 女性なら、問題ないですよね?」
「女性なら……」
そこで、エルクル様は別の人を呼ぶという提案をしてくれた。
その提案に対して、私は少し考える。別の人にくすぐられて、いいのだろうかと。
正直、私の無表情は気味が悪いものだ。もしかしたら、くすぐられても気味が悪い笑みしか出ないかもしれない。
そういう時、エルクル様以外の人はどういう風に考えるのだろうか。
「エルクル様、申し訳ありませんが、やはりエルクル様がくすぐってくれませんか?」
「え? 何を言っているのですか?」
「その……私は、他の人を信用しきれません。この特訓をエルクル様に頼んだのは、あなたが私の顔を気味悪がらないからです。他の人では駄目なのです。エルクル様でなければ……ならないのです」
私は、エルクル様以外の人をこの特訓に参加させたくなかった。
恐らく、彼以外の人は私を気味悪がるだろう。そういう人に対面すると、私も嫌な気持ちになる。
お互いに、嫌な気持ちになるのだ。そのような気持ちになる人を、わざわざ巻き込む必要もないだろう。
「ですが、僕がくすぐるというのは……」
「問題ありません。そもそも、私達は夫婦になります。これくらいのことで、どうこう言っていては、先が思いやられます」
エルクル様にくすぐられるという行為については、許容することにした。
そもそも、彼と私は夫婦になる。夫婦になるのだから、肉体的接触を恐れる必要などないのだ。
「……わかりました。そこまで言うなら、くすぐらせていただきます」
「はい。よろしくお願いします」
「失礼します」
エルクル様は、決意した表情で、私の体に触れてきた。
その体温が、伝わってくる。少し手が震えているので、彼も緊張しているようだ。
もちろん、私も緊張している。これからくすぐられるという緊張もそうだが、彼に触れられているという事実も、中々緊張するものだった。
しかも、今触られているのは腋の下辺りだ。こんな所、普通は触られない。それも、この緊張を増長させる理由なのだろう。
「いきます」
「はい……」
エルクル様の言葉とともに、彼の手が動き始めた。
私の体に、くすぐったい衝撃が訪れたのだ。