006 猫と金色のまり。
期間が随分と空いてしまいました。
季節が冬を通り越して、もう春の入り口です。
少女が一人泣いている。
金色のまりを落としてしまった。
そこは深い深い森の泉で。
底は誰も見たことがない。
終わりのない泉。
果てと繋がっている所。
そこに大切なまりを落としてしまったから。
悲しいのです。
大切なものだから。
いつも一緒だったから。
「ねえねえ、お嬢さん?」
泣いている少女に森の蛙が声を掛けます。
「あなたは、泉に大切なまりを落としてしまって悲しいのですね?」
少女は一人頷く。
「ええ。悲しいの。いつも一緒に遊んでいた綺麗な綺麗なまりだから」
「そうですか? ならば僕が取ってきて上げましょう。けれど忘れないで。僕が君のまりの為に底のない泉に潜ったことを。けっして忘れないで下さい。この蛙がしがない命をかけた事を。そうして僕が戻って来たならば、僕と一緒に食事をして、僕と一緒に寝室に入り、最後にキスをして下さい。約束です。底の底、果てから戻って来た僕をきっと忘れないで」
そう言い残した蛙は、ドボンと音を立てて、泉に潜って行きました。
そこは、終わりのない泉。
果てに繋がる所。
僕の命をあげるから。
どうかあなたの一欠片の心を下さい。
約束です。
グリム童話の『蛙の王子様』
ドイツという国で、ずっと昔から語られてきた昔話。
蛙は王とも王子とも言われてるけれど、元は人間という事には違いない。
ドイツでは王子様は蛙に変えられ。
隣国では猫に変えられる。
魔女はそんな遠い異国の事に思いを馳せていました。
腕の中の少年が王家の人で。
呪いで猫になったという。
………。
猫。
呪いでなるにはあまりにも可愛すぎる。
魔女は前世の頃に。
何度も。
何度も何度も何度も。
猫になりたい。
そんな風に思ったものだ。
猫は良いな。
毎日寝ているね。
寝子と書くくらいだもの。
よく寝る子なんだね。
ご飯を食べて。
顔を丁寧に洗って。
洗う時の仕草もまた可愛い。
飼い主に、福を招いてくれている。
一生懸命洗ったら、日向でお休みなさい。
ぽかぽか暖かくて。
陽の光が降り注いで。
体が温かくなった頃。
飼い主を温めに来てくれる。
そんな猫になりたかった。
ペンネームを考えた時、
ひなたのゆきだるま(溶けていく切なさというかそういう系)
ひなたのねこ(ひたすらに温かい。もふもふ和む系?)
と迷いました。
ちなみにこの作品は後者を目指しています。