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終話 無垢なるものへ

 最終投稿から一年振りになりますが、ラスト原稿が上がっていなかったので、

少し手直しをして終話として投稿します。猫視点です。



 始めに白羽の矢が立ったのは僕だった。


 僕の生まれた国は魔導王国。

 魔術により国を守り、魔術により国を富ませる。

 そんな国。

 建国の王が魔術により国を平定した事により、脈々と受け継がれし建国法がある。

 十箇条からなるそれは、国力を維持するものとして、建国の王が制定した。


 一、王太子は王子の中から一番魔力の高い者とする。

 一、一は正室、側室、愛妾の子を問わない。

 一、一は王の子で有る証を有する。即ち真紅の瞳を有する者。

 一、王子が王の証を有しない場合、王の兄弟、甥の中からこれを選ぶ。

 

 まだ六項目続くのだが、概ね全て王太子になる条件が書かれている。

 念の入った事だと思う。

 建国の王は余程魔力に自信があったのか。

 それとも魔力に絶大な信頼を置いていたのか。


 どちらにしろ魔力至上主義な事は確か。

 僕は王の子であり、そして王の証を有していた。

 そして僕の母は魔女だった。

 王宮に勤める司書だったが、人間ではなく紅魔女だった。

 王と司書は一夜を共にした。

 そうして僕が生まれた訳だ。

 人間と魔女の行為は禁忌とされる。

 けれど魔女は知っている。

 魔女は妙齢になると、住処を離れ人間の番を探すのだ。

 人間に紛れ込み、そっと妊娠し、そうしてまた住処に戻る。


 そうやって血を繋ぐ。

 何故なら魔女に男系は存在しない。

 人と血を繋いで行く。


 百年以上前に制定された法を、百年後に生きる僕たちは非常に律儀に守っていた。一人の人間が決めたルールを守る義務がどれほどあるのか分からない。


 けれどーー


 もしかしたら。

 この国は禁忌を犯すことにより、魔術大国として立国しているのではないだろうか? 国母は全て魔女なのではないだろうか?


 そんな風に考えを巡らすようになるのに時間は掛からなかった。

 しかしそれは。

 表に出してはいけない事。

 古の王は知っていた。

 歴代の王も知っていた。


 注意深い人間なら気づき、注意深くない人間は気づかない。

 今世の王は知らなかった。


 たった一晩の過ち。

 魔女は子供が出来る日を知っていて、男を惑わす。

 男に一夜の夢を見せる。

 そして朝、男が目を覚ます前に、住処へ帰る。


 しかしー


 母は捕まったのだ。

 街道で捕縛され連れ戻された。

 無理矢理愛妾にされ、妹まで孕まされた。


 何故?


 魔女だから?

 魔女だとバレていたから?


 王が知らないだけで、周りはみんな知っていた?


◇◇


 僕の小さな妹は口が利けなかった。

 言の葉を紡げない者としてこの世に誕生した。


 魔女は生涯に一人しか子供を産まない。

 二人目の妹は、魔力過接続症という特異体質で生まれたのだ。

 過剰に魔力との接合が起こり、魔導に飲み込まれた状態でこの世に生まれ落ちる。


 僕の妹は、僕より六歳年下だった。

 彼女は僕の手を握り、僕の瞳をそっと見つめる。

 綺麗な花を摘んで来ては僕に見せ。

 おいしいお菓子があると言っては僕の手を引く。

 空を見たり、草原に寝転んだり。

 彼女は無垢な子供だった。


 僕たち親子を殺すには、魔力の高い僕を一番に封じる必要がある。

 僕に首輪を掛けたなら、彼らが勝つ。

 僕に首輪を掛けられなければ、僕が勝つ。


 僕は僕の父により首輪を掛けられた。

 けれど。

 僕は本気で抵抗したのかな?

 父を殺す気で戦うべきだった。

 父を殺さなければ、母と妹が殺される。


 父を殺す覚悟が出来なかったから、母と妹は死んでしまった。

 僕は命を選択すべきだった。

 父を殺して、無垢なる命を守るべきだった。


 僕は取り返しのつかないミスを犯した。

 無辜なる者が死に、殺人者が生き残る。


 母と妹の罪状は『姦淫』と『不義の子』

 王の子ではないと。王以外の子を身ごもったと。


 妹は最後まで猫の僕を胸に抱き、庇うように逝ってしまった。


 王家も王族も魔導大国も笑わせる。

 妹は王の子で、僕も同じ王の子。

 僕たちは双子のように似ていたのだから。


 猫になって、六歳年下の妹に庇われた僕が、何より一番罪深い。


 猫になろう。

 身も心も。

 この空の下。

 

 そうでなければ、僕は僕の罪に負けてしまう。

 無垢なるものへ。

 妹がいた場所へ。

 


  


エピローグを書く予定です。



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