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ごなじみ。  作者: 依尾
5/6

初日 ‐七年前‐

  



 

  そもそもの始まりは7年前の春だった。




_____________





 『だーかーらー、だーいじょうぶだって。2年も1人暮らししてたんだし、家がでかくなるだけだよ』



 専門学校を卒業して早1週間、2年住んだアパートを出たのが今日の朝。

 久々に歩く見慣れた町を、キャリーケースをゴロゴロと響かせながら進む。



 『周ちゃんこそ今日から海外で仕事でしょ?そっちこそ気を付けて。…はーい、また連絡する』



 電話が切れたのを確認し、スマホをバックの中に突っ込む。


 「しばらく日本を離れることになった」と、叔父、周ちゃんから連絡がきたのはつい先月の事。

 早くに両親が他界し、高校卒業まで二人で暮らしていた我が家には、私が家を出てからずっと周ちゃんが一人で暮らしていた。しかし、どうやら彼は出張で海外に行くらしい。今年就職で戻ってきた私と入れ替わりになってしまったのだ。



 『…ついた』



 久しぶりの実家。いや、去年の夏に一度帰ってきたのでそんなに懐かしくもないか。ただ、改めて見ると一人で住むにはデカすぎる。



 『えー…っと、鍵は』


 

 雑に入れといたせいか、なかなか出てこない鍵をひたすら漁る。

 ふと目に入った駐車場に、見慣れない車が一台。周ちゃんのかな?去年までは無かったはずだけど。買ったんだろうか。



 『あった』



 ようやく見つかったそれを鍵穴に差しガチャガチャと回す。


 …そういえば、あの人達こっち居るんだっけ。


 僅かな苛立ちと共に浮かんだのは、幼馴染4人の存在で。半年前までは頻繁に連絡を取っていたのに、急に音信不通になりやがった彼ら。もしや彼女でも出来たのか?とは思ったものの、今までの経験上、寧ろ出来たらすぐ連絡がくるはず。


 ま、いいや。あとでお宅訪問しに行こ。彼らの家はここからほぼ徒歩圏内だ。



 『ただいまー』



 返事がないのは分かっていても、やっぱり言ってしまうのは積み上げられた癖で。

 扉を全開にして、引いてきたキャリーを玄関に上げる。



 『あー、ちょっと疲れたな』



 腰を下ろして、ふうっとひとつ息を吐く。

 とりあえず、荷物を片さなければ…


 疲れた頭でぼーっと宙を見る。





 「あ、おかえり」





  ……ん?


 一瞬耳を疑ったが、聞こえた声にふと顔を上げる。

 恐る恐る振り向くと、リビングのドアから顔を出している音信不通だった幼馴染。



 『え、、依咲?』



 予想外にびっくりし過ぎて、声がかすれてしまった。



 「うん、久しぶり。荷物もう届いてるよ」


 『へ、あ、ほんと?…って違うでしょ!いやいやいやいや、何で居るの?!』



 音信不通だったくせに、急に目の前に現れ平然と会話をしている依咲。

 動揺している私とは裏腹に「早く上がれば?」とキャリーを運んでくれている。

 


 「?何でって、




 

 「わりぃ!遅くなった」



 後ろで勢いよく開いたドアにびっくりして振り向く。今度は久々に見る従兄の姿が。



 『…は?雪兄?』


 「おう、柊、久々だな。おまえの分もあるぞ」



 「何が?」と頭にはてなを浮かべていると、急に差し出された袋。



 『あ、これ』


 「懐かしいだろ。学生の時めっちゃ食ってたやつ。あそこのばーさん結構歳いってんのに、まだバリバリ現役で弁当作ってたぞ」


 

 懐かしさを感じながら、美味しそうな匂いにお腹がぐうっと鳴る。 

 ……違う、そーじゃなくて。



 「ねぇ、ここ、私の家だよね?」



 流されそうになった空気を割って二人を見上げる。以前会った時より目線が高くなっているのは気のせいだろうか。…へぇ、まだ、伸びるんだ。成人したのに。


 思考が違う方向に飛びそうだったが、とりあえずそれは置いといて。



 「?お前の家だろ」


 

 何言ってんだ?と怪訝そうな顔で私を見た雪兄。んんんっ、そーじゃないよね。なんで私がそんな顔されなきゃいけないの?質問が悪かった?



 『いや、だからさ、何で私の家に二人がっていう…




 ________ガチャ




 「ねえ、なんでベル鳴らしてんのに誰も出ないわけ?」



 再び開いた玄関のドア。これまた音信不通だった幼馴染。



 「玲、お帰り。ベル?聞こえなかったけど」


 「あー、壊れてんのかもな。俺、後で見とくわ」



 どうやら鳴らなかったインターホンに「そーいや柊は鳴らさなかったよね」と依咲がこっちを見る。

 ……いや、何で呼び鈴鳴らすのさ、私の家なんですけど。本来誰もいないはずだったのに誰が出てくるんだよ。


 思いつつも声には出さず黙っていると、やっと目が合った女子顔負けの幼馴染。



 「久々だね、柊。顔酷いけど、大丈夫?」



 うっすらと笑みを浮かべた綺麗なお顔。久しぶりに会った第一声がそれですか。



 『酷いって?』


 

 普通なら怒るとこだけど、彼はそうじゃない。

 一応聞き返してみる。

 


 「…疲れてるんでしょ」


 

 目元を指しながら「隈出来てる」と溜息を吐いた玲ちゃん。

 うん、変わらないね。



 『ありがとー』


 「何が」



 心配してくれる所は、昔と変わらず優しいまま。



 


 ……それにしても、もはや何からツッコめば、、

 

 これだと、あと一人も現れ、



 「あら、皆揃ってるじゃない」



 うん、出てくると思った。思ったよ。


 声のした方を見れば、2階から颯爽と降りてくる4人目の腐れ縁。まさか家の中に居たとはね。



 「殿、もしかして寝てた?」



 若干馬鹿にした依咲の言い方に「音楽聴きながら掃除してたのよ」と苛立ちで眉をしかめながら「揃ったなら呼びに来なさいよ!」とぶつぶつ小言を吐いている。


 


 「おかえり、柊。久しぶりね」



 気が済んだのか、ようやく目線を合わせたこいつ。

 いや、もう、言いたいことは沢山あるけど…



 『何故、全員うちに居る?』



 私の問いにキョトンとした4人。

 え、だってここ私の家でしょ?鍵だって私が持ってるし。

 むしろ何で入れたの?あ、引っ越しの手伝いに周ちゃんが寄こしたのか?

 沈黙の中、ひたすら考えてた私を見て口を開いたのは依咲だった。



 「もしかして、柊、聞いてないの?」



 『何が?』と声を漏らした私に、「まじか」と盛大な溜息をついた各々。

  いや、こっちが溜息つきたいんですけど。



 「周さん、お前に何も言ってねーのか」


 『周ちゃん?…どういうことか説明して頂いても?』



 「これ見せたが早いか」と雪兄に渡されたのは一枚の紙。




 “チビども


  柊がこっち帰ってくっから、俺居ない間頼んだ。

  

  部屋空いてっから一部屋ずつやるわ。       周 ”



 『……』


 「で、付いてたのが部屋と家の鍵」



 雪兄のポケットから出てきたのは二つの鍵。



 「届いた時はびっくりしたけど、俺は実家出たかったし、大学も近いから丁度いいやって。で、こいつらにもそれ言ったら」


 「俺らも何かと便利だし、越してこよーかなって。玲も俺も職場近いし、殿も雪と同じ理由」



 同じく3人も「これ」と鍵をかざして見せた。

 


 『……住むってこと?』


 「まあ、そうだね」



 依咲がしれっと真顔で答える。

 


 『え、ほんとに?』


 「冗談で荷物運ぶと思う?」



 玲ちゃんが指差したのはすでに運ばれてきたのだろう段ボールの山。



 『ドッキリとかじゃ…


 「無いわね」



 腕組みながらにっこり笑いやがった殿。



 『まじか』



 段々と力なく俯いた私の顔を依咲が心配そうに覗き込む。


 

 「…嫌だった?」


 『……嫌ではないけど』


 

 「柊一応女だし、男ばっかだもんね」と呟いてる玲ちゃん。一応って何だ、失礼な。

 まあ、そこは今更なんで別にいいんだけど…


 

 「いや、むしろ俺ら居た方がいいだろ。そいつ一人にするとやばいぞ。飯、コンビニ弁当ばっかだし。ほぼ家から出ねぇし」


 『ちょ、雪兄何で知って…』


 「周さんに聞いた」


 『…周ちゃーん』



 「そうなの?」と依咲がこっちに視線を遣る。玲ちゃんと殿は「ああ…」と納得した顔で私を見た。



 「ま、お前の見張りも兼ねてこれからここに住むから」


 

 私からしてみれば、これからは小姑みたいなのが一緒に住むって事で…



 『私の、平穏な、日常が…』



 「諦めろ」



 ポンっと肩を叩いた雪兄は「ほら、片付けるぞ」と背伸びをしながらリビングに消えてった。

 呆然と暫くそれを見つめていると、



 「じゃ、これからよろしくね」と依咲が私のキャリーを持って行き、


 「僕、髪にはうるさいから」と耳元で囁いてった玲ちゃん。


 最後には「月一でショッピングね」と上から目線で殿が笑みを残して後を追う。



 ほんと、展開が早すぎて…



 『この家、むしろ狭いんじゃ…?』



 すでに静かじゃなくなったこの家と、ほんの少し前とは違う感覚に、自然と嬉しさがこみ上げたのはここだけの話で。


 「早くしろ」と雪兄に呼ばれるまで、私は暫くその感情に浸っていた。


 

 


  

 





 





 



  

 



 



  











 

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