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ごなじみ。  作者: 依尾
1/6

彼ら

5人の日常

 


 


 いつからだろう…

 気付けばずーっとそばにいて

 うんざりするほど数十年

 もはや空気みたいな存在か…?




 「いや、空気て」



 ソファに座っている私の前で、毛先の長い絨毯に寝そべっている彼は、本から目を離すことなく私の独り言に答えた。



 『あ。声に出てた?』


 「ばっちり」


 『まじか』



 見出しに“カメラ特集”と書かれた雑誌を先程まで機嫌良さそうに読んでいたのだが、それをゆっくりと伏せ、依咲はこっちに視線を向けた。



 「何、柊うんざりしてんの?」


 『や、年数の長さを表そうかと思って』


 「まあ、確かに長いよね。…二十年くらい?」


 『そうだね。幼稚園で皆揃ってたし』



 改めて考えると、結構長い付き合いだなぁと思う。物心つく頃には既に居た存在な訳で。特に依咲とは3歳の頃から一緒にいるので、お互いの事はおそらく、家族よりも知っている。


 『もう27か~、お互い歳を取りましたな』


 「ほんと誰も出ていかないよね、この家」


 『…このままいくと五人とも独身貴族まっしぐらじゃん』



 そう、この家の住人は全部で五人。依咲と私とそのほか3人。



 『何でだろうね。四人とも引く手数多だったのに』



 中身は置いといて、小さい頃から無駄に外見が良かった彼ら。学生の頃は女の子の注目の的だった。



 『特に殿なんか王子とか呼ばれてたし』


 「あー、…まだ男だった時代ね」


 「ちょっと!今も男でしょーが!」



 急に話に割り込んできたこの男も腐れ縁の一人で。

 


 「殿、居たの?」


 「居たでしょ!ずっと最初から」


 『え、全然気付かなかった』


 「…ずっと同じリビングに居たのに?」


 『んー…存在が眩しすぎて私には見えてなかったみたい』


 「は?」



  身内の贔屓目を除いても、結構なイケメンである彼。今では、その容姿を生かしてモデルの仕事をしている。



 「そうだね。殿は見た目がお金になるぐらいの人だから、俺らには眩しすぎて見えてなかったのかも、ごめんね?」


 「いや、眩しすぎて見えないって何?」


 『存在が鬱陶し…、神々しすぎて庶民には見えないってことかな』


 「聞こえてるわよ」


 「殿が美しすぎるって事だよ」


 「…そりゃどうも」



 もういいわ、と半ば不機嫌そうに前髪を掻き上げて溜息をつく。その一連の動作だけで普段は黄色い声を浴びているはずなのに、長年ともに居た我々からしてみればこの扱いである。 



 『殿が両生類になったのってさ~』


 「誰が両生類よ」


 「やー…、だって見た目は男じゃん?中身は、


 「男でしょーが!話し方の事なら知ってんでしょ?」


 『あれでしょ?モテすぎた学生時代の女除けにオネエ装ったっていう』


 「大丈夫だよ、誰も殿の中身なんて見てないって。見てたのは外見だけだもの」


 「何が大丈夫なのよ!?酷すぎでしょ!普通に傷付くわ」





 「おい!うっせーぞ。何騒いでんだ」


 「ただいまー」


 


 勢いよく開いたドアの先に、一見ガラの悪そうな金髪さんと中性的な美人さんが立っていた。



 「柊、お前声に出てんぞ。誰がガラの悪そうな金髪だって?」


 『え。また出てた?こりゃ失敬』


 「僕のは褒められてるのかな?」


 『もちろんですとも。おかえり玲ちゃん』


 「俺は」


 『…雪兄もおかえり』



 出揃った我が家の住民。色々あってこの一軒家をルームシェアして暮らしている。私以外男ばっかりなのだが、何せ二十年近くも一緒だと逆に気を遣わなくて楽なので、私は結構この生活を気に入っている。ちなみに雪平は私の従兄だ。




 「で、何騒いでたんだよ」



 脱いだコートを椅子に掛けてキッチンに向かった雪兄。多分お茶を淹れるのだろう、ヤカンから視線を外すことなく質問をこっちに投げる。


 

 『えー、…何だったっけ依咲』


 「殿がモテ過ぎて両生類に生まれ変わった話」


 「ちょっと!略し過ぎでしょ!」



 怒る殿は置いといて、「は?」と顔に出している雪兄と玲ちゃん。



 『もともと長い付き合いだよねーって話してて』


 「そうそう。で、殿は昔からモテたよねーって話題になり、」


 「『いつから両生類にっていう…』」


 「ぶはっ!!両生類ってそーいう!」


 「…」



 雪兄はツボに入ったのか涙を浮かべながらヒ―ヒ―と腹を抱えて笑っている。一方で玲ちゃんは「ああ、そういう事」と一笑してお茶の用意をし始めた。



 「ちょっと雪平笑いすぎ!てか玲も!何なのよその反応」


 「柊と依咲もうまい事言うな」


 「『どうも』」


 「縁ちゃんこそ、まともに相手するからダメなんだよ」


 『うわ、玲ちゃん酷っ』


 「いちいち反応する殿が悪いってことだよね」


 「…え、私が悪いの?」




 若干不機嫌そうな殿のを余所に、雪兄が昔を思い出すように口を開いた。



 「縁の口調は大学からだよな。女寄ってくんのは高校ん時もだったけど、大学で数が大幅に増えたもんな」



 ちなみに殿と雪兄は、学部は違えど同じ大学出身だ。



 「…講義出るだけで迷惑かけてたしね」


 「ああ、席無いから立ち見する女子もいて大変だったもんな」


 『は?』



 そんなに?公害レベルじゃん。何、大学の女子ってそんな暇だったの?



 「でもなんで急に口調変えようってなったの?殿の思い付き?」


 「なんか縁のまわりで騒いでた奴らが“見た目はもちろん、中身も男前でかっこいい”とか言ってたから…」


 『へぇ』


 「見た目は変えらんねぇから中身変えれば?って話になって」


 『え』


 「…その時たまたま見てた雑誌の特集が“おねぇ男子”だったのよ」


 『「「…」」』



 普通見た目を変えるとかするんじゃないの?とは誰もツっこまず。若干天然な殿とアホな雪兄の合作で出来た産物だったとは。



 「無言はやめろって」



 お、珍しい。



 『口調が男に戻ってますよ?』


 「もともとこっちが素なんだよ。恥ずかしいからいちいちツっこむなって」


 「縁のおねぇ口調は本来外行き用だったもんなー。今じゃ通常これだけど」


 『素が恥ずかしいの?でも家の中じゃ結構戻ってるよ殿』


 「え」


 「それこそ長く一緒に居るからじゃない?うちだと気を遣わなくていいから気が緩むんでしょ。ね、依咲」


 「そうね。俺からしたら、おねぇ口調の方がよっぽど恥ずかしいけど」


 「あんたは一言多いのよねほんと」


 『あ、おねぇ口調に戻った!』


 「柊!あんたも黙ってて!」

 



 大人になって変わるものと変わらないもの。

 

 長年一緒にいる彼ら幼馴染達の日常で少しづつお届け…




ここまでご覧いただき有難うございます。


ゆっくり進めていきたいと思いますのでお付き合いいただければ嬉しいです。

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