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魂は誰を呼んでいる?  作者: 置き時計スプラッシュ
第1章──ようこそ、新世界島へ!
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白い蝶

「新入り君…いや、荒木君。何を見たのか教えてもらえないかな?」


 部室に帰ってきて席に着いてすぐに、真面目な顔をした上田先生にそう聞かれる。


「うう、ちょっと待ってください。うっぷ」


 アヤねぇの運転は荒いなんてものじゃない。まるで故障寸前のジェットコースターに乗っているような感じだ。


「はい、これ。元気だしなよ」


 そう言ってコップを差し出してくれる赤坂さん。


「あ、ありがとうございます」


 俺は酔い止めだと思ってグイッと一気飲みする…が。



「……!?」



 思いっきり口から液体を吹き出す!


「ブゥォエェェェェェッ!ゲホッ、ゴホッ…!」

「ぎゃー!」


 なんだこれ!?まっず!


「何をするんだーおいゴラァ!」


 その液体はそのまま目の前にいた上田先生のピンクのタンクトップに飛び散る。


「…って、うああああ!?ワイの、ワイのお気に入りの服がぁぁぁぁ!オーマイガァァァァ!」

「服が汚れただけで騒ぎすぎなのよ気持ち悪い。はやく着替えてきて」

「ぐすん、冷たいよ、彩子ちゃん…まあそんなところがいいんだけどね!」


 そう言って部屋から去っていく上田先生。上機嫌なところが本当に気持ち悪い。


 って、そんなことはどうでもよくて。


「赤坂さん!これ何なんですか!?」


 マズいし何か口の中で動いてるし…!生き物かと思ったぞ!?


「ふっふーん、それは私特製の万能薬だよー!」

「ば、万能薬…?これが…?」


 コップの中を恐る恐る覗く。そこには表現しがたい色をした液体があった。


「そう!なんと、飲めば元気、傷に塗ればたちまち元どおりっていう最高の薬なんだよ!」

「へぇー…」


 良薬は口に苦しとか言うけど…これはそんなレベルじゃない。むしろどうやったらこんな味のやつが作れるのか気になる…


「原材料何か聞いていいですか?」

「いいのー?聞いちゃって。どうなっても知らないよ?」

「…やっぱりやめときます」


 聞いたら後悔する気がした。やめとこう。


「どう?治った?」

「ん?あ、そういえば…?」


 気づけば乗り物酔いは治っていた。


「す、すごい…!本当に効き目があるなんて!」


 これは製薬会社もびっくりだな。口に含んだだけで治るとは…ほんと、原材料なんなんだろ。


「治ったなら教えてもらおうか。まずお前は何を見たんだ?」


 パキパキ丸を頭に乗せて立花さんが詰め寄ってくる。


「あー、それはですね…」


 と、あの白い蝶を説明しようとした瞬間。



「思い出したぁぁぁぁっ!」



 急に叫びだす俺。


『ア、アカネ!?』

「そうだ!やっと思い出した!あースッキリした!」


 目の前にいた立花さんはきょとんと目を丸くしている。すいません、うちのバカネが驚かせてしまって。


「どうしたぁぁぁ!」


 と、水色のタンクトップに着替えた上田先生が勢いよく扉を開けて戻ってきた。急いでいたのかヘソが見えてる。きたねぇ。


「私やったよ!思い出したんだよ!」

「そうかぁぁ!それは良かったぁぁぁ!」


 上田先生とアカネはハイタッチしながら踊り狂っていた。立花さんの視線が痛い。






「えーっと、お前の中にもう一人いるのか?」


 熱が冷めたところで、みんなからの質問攻めが始まった。


「そうです」

「今喋っているのは?」

「荒木雷です」

「中にいるのが?」

「アカネです」

「さっきワイと叫び合っていたのは?」

「アカネです」

「じゃあバイク乗ってた時にアタシに抱きついて来たのは?」

「それは荒木雷です…って変なこと聞かないでくださいよ!」

「あらあら、ごめんなさい。つい気になっちゃって」

「お前ぇ!ワイの彩子ちゃんに無許可で抱きつきやがったのか!万死に値するっ!」


 と、俺の目の前で怒鳴る上田先生。物凄い量の唾液が飛んでくる。きたねぇ。


「先生にそんな権利与えた覚え無いわよ」

「ワイは夢の中で彩子ちゃんにもらったんだもん!夢って最高っ!」


 ほんとこの先生めんどくさいな!


「じゃあ、そのアカネとやらは何者なんだ?」


 と、立花さんがそう聞いてくる。この人は余計なことは全然喋らないよな…まあ今回は助かったけど。


「それはアカネから説明してもらいますね。アカネ、よろしく」

『りょーかい!…と言いたいところだけど、明日にしない?』


 そう言われて時計を見てみると7時半を超えていた。


「そうだな…みなさん、今日はもう遅いので、明日にしませんか?」

「うわ、もうこんな時間だったの!?観たいアニメがあったのに〜!もう絶対間に合わないよ〜!」

「ほんとだ!しまった!今日会議があったのに!」


 お前はもう色々と教師失格だよ!


「そうね、部員が全員揃っているわけでもないし、明日にしましょうか」

「え、これで全員じゃないんですか?」

「あと2人いるわ。どっちの子も個性的で楽しい子達よ」

「は、はぁ…」


 この人が個性的と言うなんて…どんな人なんだろうか?


「じゃあ、今日は解散ね…と、その前に。荒木君、明日も来るってことは、ここに入部するってことでいいのかしら?」

「それは…」


 …正直不安しかない。俺は元々運動部にいたからな、他の部活でもやっていくことはできる。

 でも、ここに決めた。アカネについて知るチャンスがあるのはこの部活だけだ。変な人ばかりだが、腹を括らねば…!



「入部することにします。これからお世話になります!」



 そう宣言すると、みんなが嬉しそうに拍手をプレゼントしてくれた。嬉しい。


「そう!ありがとう!じゃあアレをしないとね!」

「おー!あれするんだー!どうなるのかな?」

「アレってなんですか?」


 俺はまた変なことをやらされるのかと思い、身構える。


「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。ただのタロット占いよ。知ってるでしょ?」


 なーんだ。ただの占いか。


「はい。軽くしか知らないですが」

「それなら話が早くて助かるわ!じゃあ始めるわよ!」


 と、ポケットからカードの束を取り出すアヤねぇ。


『なんだろなんだろ、面白いこと始まりそう!』


 へぇ、オカルトっぽいじゃないか、と思ったのも束の間。 



「今からカードを投げるから、1枚だけキャッチするのよ!」



「…えっ、なんか違いません!?」


 タロット占いって机の上で並べるとかそんなやつじゃなかったっけ?


「オリジナルが大事なのよ、占いって」

「…そうなんですか」


 やっぱり占いの世界はよくわからん。


「ちなみに何のために占うんですか?」

「コードネームを決めるためだよ!ここで荒木君は生まれ変わるんだ!わー!」


 アヤねぇに聞いたのに、赤坂さんが横入りして解説してくれた。なんだか興奮している。好きなのかなこういうの。


『でも、いいじゃんそれ!カッコイイ!』

「うん」

 

 コードネームなんて…男の子なら心躍るに決まってるだろ!




「とにかく始めるわよ!そーれ!」




 宙に舞うたくさんのカード。その中から落下する前に慌てて1枚キャッチする。


「よし…なんとか取れた!」

「よく取ったな。もし取れてなかったらコードネームは〈ドブネズミ〉になってたぞ」

「ドブネズミ…」


 よかった…マジで取れてよかった…!


「で、俺が取ったのは…?」


 と、カードを確認してみると…ん?



「トランプのカードね」



 そこに書かれていたのは、ふざけた顔をしたピエロのカード…ジョーカーのカードだった。


「…なんでトランプのカードが混ざってるんですか」

「あー、前トランプで遊んだ時に混ざったのかもな」

「そんな日もあるよねー。私達ってすぐに散らかすから」


 なんにせよ、占いはどうなるんだ。やり直しなのか…と思ったところで。



「おめでとう!あなたのコードネームが決まったわ!」



 …へ?


「いや、トランプのカードはタロットじゃないし…」

「そんなことどうでもいいのよ!」


 アヤねぇにガッと肩を掴まれる。そして興奮気味にこう言った!

 



「あなたのコードネームは〈ジョーカー〉よ!」




「ジョー…カー…」


 ジョーカーを引いたから、ジョーカー…



「ジョーカー…切り札か。悪くないんじゃないか?」



 立花さんがそう言う。


「いーじゃんカッコいい!私なんて〈愚者〉だったんだよ?」

「ワイは〈太陽〉だったなー。懐かしい。彩子ちゃん覚えてりゅ?あの時の愛の占いを…」

「うふふ、覚えてるわよ。なかなかキャッチできなくて、最終的にババ抜きみたいに引き抜いたのを」

「あぁ!暴露しないで!」


 みんなはちゃんとタロットじゃないか。なんで俺だけ…


『切り札だって!ライが切り札って素敵じゃん!』

「いや、素敵かもしれないけど…なんか仲間外れにされてる感じがしてな…」

「そんなことないわよ!むしろ誇っていいのよ!事故で混ざっていたカードを引いちゃうんだから!これはすごいことなのよ!」


 …まあいいか。ここまでベタ褒めされてやっぱり嫌です、なんて言えない。


「まあ滅多に呼ぶことはないから心配しなくて大丈夫よ。仲間はずれにもしないわ」

「そうだ、彩子ちゃんがそんなことするわけないだるぉ!」

「あははー、でも楽しかったでしょ!」

「うーん、そうかも」


 なんやかんや楽しかった。意外な名前がついたけど。


「さて、占いも終わったことだし、解散!また明日ね!」


 そして、その日は解散となった。



 




「はぁ…疲れた」


 寮に着くなり、すぐにベッドに倒れ込む。


『今日は色々ありすぎたもんね。お疲れ様』


 本当に色々ありすぎた。酔ったり追いかけられたり…こんな日2度と来て欲しくない。


『そういえば荷物いつのまにか運んできてくれてるね』

「あ、ほんとだ…ん?」


 よく見ると、俺の荷物に手紙が添えてあった。



 荒木くんへ

 荷物を忘れて行ってしまったので、届けておきました。

 そのため、勝手ながら部屋に上がらせてもらいました。申し訳ありません。

 あと、これはお誘いなのですが、風紀委員会に来てみませんか?貴方ほどの体術の使い手ならうちでは即戦力になると思うのですが…もし気があれば、私に声を掛けてくださればご案内します。

 それでは。

 二ノ宮葉月



『字綺麗だね〜』

「そうだな。しかも丁寧に封筒にまで入れてあって…律儀だな」

「で、この風紀委員の件はどうするの?」

「風紀委員…」


 俺は昼間のことを思い出す。


 あの木刀やらスタンガンやらを持ち歩いている奴らと行動を共にするのか…正直不安しかない。


『まあ、無視するのもかわいそうだし、明日声をかけに行こうよ』

「そうだな。決めるのは話してからにしようか。とりあえず寝よう」

『うん。おやすみー』





「おお田村。戻ったか」


 田村が窓から入ってくる。


「のお田村よ、いい加減扉から入ってきて欲しいんじゃが。お前のために窓の鍵を開けておくのが面倒なんじゃよ」

「そんなことどうでもいい。それよりジジイ、報告がある」

「どうでもいいとは…まあよい。聞かせてくれ」

「アレには動きはないが、奴らに動きがあった」

「奴ら…ああ、ワールドイーターどもか。どうなんじゃ?」

「今日の夕方ごろ、1体の幻像体が西海岸付近に送り込まれた」

「ほぉ、つまり増えたってことか…それで?どうなった?」

「荒木雷に見つかった」

「ほぉー、あの子にか。これはこれはなんというか、運命じゃの」

「奴ら、最近動きが活発だ。本格的に動き出す前に手を打っておくべきじゃないのか?」

「そう焦るな。すでに手は打ってある。そんなことよりワシとコーヒー飲まんか?最近よく働いてくれとるからの。休憩がてらどうじゃ?」

「そんなもの要らん。じゃあな」


 そうして田村は部屋から出て行く。


「つれないのぉ〜」


 コーヒーを少し口に含む。


「ん、さすがワシ。旨すぎる」 


 さて、寝るまで少し時間があるし、〈田村にコーヒー飲ませ作戦〉でも練るとするかの。

 タロットわかんない人は調べてみてください。検索すれば色々出てきますので。

 あと、カードを投げて占う方法なんて多分ありません。これはフィクションです。なので真似しないでください。

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