襲撃?
「おい、アカネ。この人何なんだ?」
『いや、知らないよ!初めてだよ、こんなの!』
どういうことだ。俺の頭の中に語りかけてきているはずの声がなぜ上田先生にも聞こえている?
「なあ、彩子ちゃん…ワイ、なんか変なこと言ったか?」
と、寂しそうにアヤねぇに尋ねる上田先生。
「先生はいつでも変なこと言ってるわよ。とっととその見苦しいピンクのタンクトップから着替えてくれないかしら?」
「ああ、厳しい…!だがそれがイイっ…!」
上田先生が体をクネクネさせながら嬉しそうにしている。見れば見るほど気持ち悪いな、この人。
「楓ちゃん、やっていいわよ」
そんな上田先生を見てアヤねぇがこれ以上ない不快な顔を示し、赤坂さんに合図を送る。
「ラジャー!」
すると赤坂さんのごっついスナイパーライフルから小さなカプセルが先生に向かって発射される!
ピチャッ。
「うぎゃぁぁ!目がぁぁ!」
よく見えなかったが、どうやら右目にヒットしたらしい。
「はっはっはー!思い知ったか!柑橘類の力を!」
「よくやったわ!楓!」
きゃっきゃと喜ぶ2人と転がるおっさん。なんか話題が逸れたな…まあいいか。今はもっと優先すべきことがあるしな。
「…はぁ、うるせーぞお前ら」
そこで、正座していた立花さんが立ち上がる。
「おいダルマ。今日は襲撃は無いんだな?じゃあ帰らせてもらうぞ」
「上田先生って呼べって言ってるのに…いいよ、もし来たら電話するから」
「襲撃?」
なんだそれは。オカルトっぽくオバケとかが襲ってくるのか?
「ああ、荒木君は知らなかったわね。説明してあげるわ。襲撃っていうのはね…」
と、その時!
ウー!ウー!ウー!
「うわっ!なんだなんだ!?」
急に部屋中からサイレンが鳴り出す!
「…チッ、タイミング悪いな。いくぞダルマ」
「先生って呼んでって言ってるのに…あ、待って待って!」
「あ、私も行く〜!」
と、3人は颯爽とどこかへ走って行ってしまった。
「丁度いいわね、襲撃が何なのか見せてあげるわ!百聞は一見に如かずよ!さあ、ついて来て!」
「え?あ、はい!」
なんなんだ?襲われるのか!?
『いざとなったら私がどうにかするからね!』
「お前のどうにかするは信用できん」
『大丈夫だって!お化けでも怪物でも何でも来いだよ!』
「やめろ、フラグ立てるな!」
そんなことを話しながら俺はみんなについていく…!
それからしばらくして──
「この島にもバイクってあるんですね。移動手段は全て電気自動車かと思ってましたよ」
俺はアヤねぇの運転するバイクの後部座席から質問する。
「あらそう?なんなら自転車もあるわよ?やっぱりこの島に来ても自転車やらバイクやらに乗りたがる人っているのよねー、私みたいに!」
近未来的な街とか言うから電気自動車だけが行き交うものだと思ってたが…ちょっと予想とは違ったな。
『でも道路とかはガッツリ3次元だよねー。凄いね、こんなの海の上に造るなんて!』
「ほんとにな。人間ってすごすぎ」
この島のほとんどの道路は地面から離れている。イメージするなら超高い高速道路ってところだ。ちなみに今俺は地面から大体10メートルほど離れたところを走っている。しかもガードレールはガラス張り。怖すぎる。
「あら、かなり時間ギリギリね。飛ばすわよ!」
「うわっ!?」
急にスピードアップする!俺は思わずアヤねぇに抱きつく。
「荒木君結構積極的なのね?そういうの嫌いじゃないわよ?」
「いや、これは…」
「もう、冗談よ。可愛いわね!」
「……」
『らーいー?何やらしいこと考えてるのー?』
「考えてねぇよ!」
とは言ったものの…ああ、いい匂いだったな…って!
「だぁぁぁー!いかん!いかんぞ荒木雷!」
思いっきり自分の頬を殴る。
『…何やってんの、この変態』
ほんと、自分でも何やってるんだろ。
「さあ、着いたわよ!」
と、浜辺にバイクをアカねぇは止める。
「は、はい…ありがとうございました…」
その後、数分の間アヤねぇによる素晴らしすぎるドライビングテクニックを披露してもらった。華麗に車を躱し、カーブもスピードを落とさずスムーズに、ゴールする時にはクルッと一回転してピタッと止まった。
『凄かったね!私感動しちゃった!』
「ああ、凄かったな…うっぷ」
おかげさまで俺は酔ってしまったがな…なんとなくバイクに乗った時からこうなることは予想がついていたが。
「おー、ついてきたのか!新入り君!」
すでに到着していた3人がこちらに近づいてくる。
「わー、顔色悪いけど大丈夫?」
「大丈夫よ。ちょっと酔っちゃったみたい」
「あー、また荒っぽい運転したのー?かわいそうに…」
赤坂さんから哀れみの視線を感じる。
「…同情するなら酔い止めください」
「冗談言う余裕はあるようだな。とっとと終わらせるぞ」
「えー、なんかしゅーご君って荒木君に冷たくない?」
「早く帰りたいだけだ。それよりダルマ、ヤツはどこにいるんだ?」
「そろそろ出てくるハズなんだけどな...おっ、時間になったな。来るぞ…!」
「来るって…何がですか?しかもこんな浜辺に…?」
見渡す限り何も起こりそうにない。いるのは俺たちと…ん?
「何ですか?この猫?」
いつの間にか黒猫が俺の足元にいた。
「ああ、この子。パキパキ丸って名前で、オカ研で飼っている猫よ」
パキパキ…?
「その名前私が付けたんだよー!素敵でしょ?」
「……」
「なんで黙るの!?」
お前もかわいそうにな、こんな人が名付け親なんて。
「この子は一週間ほど前かしら?急に現れてオカ研の部室に住みつくようになったのよ。不思議よねぇ、この島に野良猫なんて」
たしかに。この島には船じゃないと来れないはず。船に紛れてここに来たのか?
と、その時!
「うお……!」
ビュッ!と、突風が俺達を襲う!
思わず目を細める…と、何かが見えた。
「あれは何だ…?蝶?」
雲一つない青い空の中に白い蝶が舞っている。それはまるで自分を見つけてくれと呼びかけているように…
しかし、風が止むと蝶は水に溶けるようにすーっと消えてしまった。何だったんだ?今の。
「アカネ、見えたか?今の」
『うん、見えた。あれは…えーっと…なんだっけ?』
「どこかで見たことあるのか?」
『うん。多分私の元の世界の…なんだっけ?』
…えっ?
「おい、今の蝶がお前の世界のってどういうこと!?」
『ちょっと、落ち着いて!』
急に大声を出したせいでみんなの注目が集まる。
「ねえ、新入り君。もしかして君は見たのかね?」
「は、はぁ、ちっちゃな白い蝶が…」
みんなジリジリと俺に近づいてくる。猫を除いて。
「あの、さっきの蝶がどうかしたんですか?確かに急に消えて不思議には思ってますが…?」
「「「うおおおおおおお!」」」
「やったわ!ついに手がかりが!」
「よくやった新入り君!これでまた一歩踏み出せそうだ!」
「すごーい!すごーい!ばんざいばんざい!」
「やるじゃねぇか、お前!」
なぜか胴上げされる俺。冷静そうな立花さんまでこんなになるとは…!
「な、なんなんですか!?」
「それは帰ってから説明するわ!さあ、バイクに乗るのよ荒木君!」
「え、帰りは電気自動車の方が…」
「バイクの方が早いわよ!早く!時間がもったいないわ!」
「うおあヘルメット無理やり被せ…ぶふぁ!?」
『…ライ、ファイト』
その後、訳もわからない状態のままバイクに乗せられ、案の定素晴らしいドライビングテクニックで酔う俺であった。