オカルト研究部へ
「ええっと、文化部はD棟だから…こっちか?」
『いや、こっちじゃない?そっちは下に向かう方だよ?』
「あれ?じゃあこっちか」
『…教えてもらったこともう忘れたの?』
「いや、違うって!ややこしいんだよ、この地図!」
前にも言ったけど、この島では3次元的な生活をイメージしているため、建造物のほとんどは10階建以上だ。それは学園も例外ではない。
そして、最もややこしくしている原因は渡り廊下なんだ!想像してみて欲しい。建物から木の枝のように大量に伸びている渡り廊下を…!こんな所誰も通らないだろって所にまで生えている。慣れている人なら何とかなるかもしれないけど…今日島に来たばっかりの初心者がここをうろつくなんて無茶だ。例えるなら…野良猫が大型デパートに迷い込むようなものなんだ!
「やばい、早く行かないと部活終わっちゃう…」
『そんなに時間に余裕が無いの?』
「いや、あるにはあるんだけど…しっかり見ておきたいんだよ。オカルト研究部だし…」
わら人形が並べてあったり、お札が貼ってあったりと、怪しい雰囲気を出していたら即退散する。この身を守るために安全な部活かどうかしっかりと見極めないと。
『あー…怖いもんね、呪いって』
「もうお前に呪われてるんだけどな、俺は」
『私って呪い扱い!?』
と、アカネと雑談しながらうろちょろしてると、向こうから人が歩いてくるのが見えた。資料か何かに目を通してるせいか、俺には気づいてなさそうだ。
『あの人に道を聞いてみたら?』
「そうだな…でも大丈夫かな?また襲われたりしないかな…?」
この島に来てからまともな人に会ってない気がする。木刀で殴られかけたり、四足歩行で追いかけられたり…ここって本当に学校だよな?動物園じゃないよな?
『大丈夫だって!ほらほら早く早く!もしダメだったら私がなんとかするから!』
「それでさっき美智子さんに襲われたじゃねーか!」
俺は忘れてないぞ!お前がおばさんって呼んだせいで追いかけられたのは!
「でも…他に頼れるものはないし…」
ま、まぁ、全員が全員狂ってるなんてことあるわけないよな。さすがに…俺の地元は超平和だったし。
「す、すみません…!」
俺はおそるおそる話しかける。
「ん?なんだ、お前。何か用か?」
その人は、ボサボサの髪で白衣を着た、20代後半くらいの人だった。胸元には教員の証である青いバッジが。
「……てか遠くね?」
「お気になさらず。僕、視力と声のデカさは自信あるんで」
「…変なやつだな」
『遠すぎでしょ、ライ…』
先生と俺の距離、約7m。うん、これならいつでも逃げられる。
「あー、えーと、自分は来年度からここでお世話になる荒木雷っていうものなんですけど…」
と、自己紹介をすると…
「おー、そっか!お前がか!よろしくな!俺が次の学年でお前の担任になる下川だ!」
「あ、そうなんですか!よろしくお願いします!」
どうやら俺の事を知っていたみたいだ!しかも第一印象は悪くない!
「おう、よろしくな!本土とは違うことばっかだろうが、頑張ってついてこいよ!」
「は、はい!」
しかも、心配してくれてる!超良い人!
『この人、まともだ!まともだよ!』
「ああ!いい人っていい人なんだな!」
テンション上がるぞこれは。やったぁ!
「……うおお」
「よろしくお願いします下川先生!」
俺は軽快なステップを踏みながら接近し、両手でぎゅーっと握手する。
「そうか、嬉しそうで何よりだが…男にやられても嬉しくねぇなーこれ。次会う時は美少女になっとけよ」
ノリも良さそう。やっぱりいい人だ。
「で、お前なにか俺に用事あるんじゃないのか?」
俺のハイテンションが収まってから、下川先生はそう聞いてくる。
「あ、そうだった。実は迷子になってまして…」
「そうか!あっはは!やっぱりここに来た人はみんな通る道なんだな!俺も最初ここに来た時は迷ったよ!端末見ても全然わかんねぇしな!」
よかった、迷子になるの俺だけじゃなかったんだ、とホッとする。
「で、どこに向かうつもりだったんだ?」
「D棟です」
「ああ、部活見学に行くのか。いいね、積極的じゃん。それならすぐそこだから連れてってやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
そうして下川先生はスタスタと迷いなく歩いていく。
「やっぱりここで生活している人は違うなー」
『ほら、聞いてよかったでしょ?』
「…そうだな」
こいつに顔があればドヤ顔をしていることだろう。自慢げな声がそう物語ってる。ああ腹立つ。
「ところで、何の部活に入る予定なんだ?」
下川先生が歩きながら聞いてくる。
「オカルト研究部に入ろうかなと思ってます」
と、俺がそう言った途端、急に歩みを止める下川先生。
「…それほんとなのか?」
「そうですけど…?」
そういえば学園長もオカルト研究部と聞いておかしな反応をしていたな…骨は拾ってやるとか不穏なこと言ってた気がする。
「そうか…まあ行きたいなら止めないが。これやるよ。うちの地元の神社で貰ったんだ」
と、御守りを渡してくれる。と言うより押し付けてくる。
「あ、ありがとうございます…でもいいんですか?御守りなんてもらっちゃって…」
「いーんだよ、無いよりマシってやつだ。さて、ここでお前とはお別れだ。次教室で会う時は五体満足であることを祈ってるよ」
そうして下川先生は去っていった。
「……俺、これから死ぬの?」
「ここだな。オカルト研究部」
それからしばらく歩いた後、何とか部室の前に到着した。
「まだ中に誰かいるっぽいな。よかったー、間に合った」
『緊張してる?』
「……とっても」
正直嫌な予感しかしない。この学園変人ばっかだし、お守り押し付けられるし…
『そのお守り役に立つといいけどねー』
お守りには「安全祈願」と書かれている。一応、守ってくれそうではある。物理的にはどうか知らないけど。
「このお守りにバリア張ってくれる能力とか無いかな?」
『あー、それいいねー!カッコよさそう!』
でもまー、出るわけないよな、バリア。そんなことを思いつつ、ポケットにお守りを押し込んだ。
「すぅーっ、はぁーっ」
息を整え、精神を落ち着かせる。
『もし美智子さんが待ち伏せしてたらどーする?』
「不安になること言うなぁ!」
一応、万が一に備えてアカネに脚部だけ貸しておく。化け物が出たら蹴っ飛ばしてもらうためだ。
「…よし、入るぞ」
『私はいつでもいいよー』
そして…!
ガララっ!
「失礼します!」
勢いよく扉を開けて、すぐさま体勢を整える。
そして、扉の先に現れたものは…!
「…むっ?」
扉の目の前で人型のバケモノがぶら下がっていた。
「…誰かは知らんが、ようこそ、オカ研へ。ワイは…」
『くらえ変態ぃぃぃぃ!』
直後、反射的に俺は蹴りを繰り出していた。
「ごめんなさいごめんなさい!まさか顧問の先生だったなんて!」
「いいのよ、初見さんならびびって当然よ。あの人が悪いから気にしないで」
まさか扉の前で人が懸垂しているなんて…しっかし、あれは人だったんだな。ムキムキなボディに真っ黒に日焼けした肌、それに加えてピンクのタンクトップを着用している…まあ化け物と見間違えて当然っちゃ当然か。
「お茶入ったよー!ゆっくりしていってねー!」
と、元気な女の子が冷えた麦茶を用意してくれる。
「あ、ありがとう」
周りをよく見てみると、思ってたよりはオカルトっぽくない。キャンドルやそれっぽい置物などが部屋の隅に数個置いてあるだけで、普通の部室とそんなに大差はない。
「ちなみにあなた、転校生でしょ?」
「そうですけど…よく知ってますね?」
「ふふっ、オカ研の情報収集力はすごいのよ?このくらいなんてことないの」
「そうなんですか…じゃあ俺がここに来た理由も…?」
「いや、理由までは詳しくはわからないわ。ただ、ここに来たってことは、オカ研部に興味はあるのでしょう?ああ、自己紹介が遅れたわね。私は泉彩子。次で高校3年になるわ。アヤねぇでいいわよ」
「はぁ、よろしくお願いします、アヤねぇ」
この人はまともそうだな。なんだ、あの顧問以外全然大丈夫そうじゃないか。
「次にあの椅子の上で正座をしているのが立花秀吾君。あの子は元暗殺者なのよ」
「はいぃ!?」
急に全然大丈夫じゃなくなった!
「あ、暗殺者!?」
「ああ、勘違いしないで。今はもうそんなことはしてないわよ。ただ、いつも肌身離さず日本刀を携えているから気をつけてね」
いや、どんな紹介だよ…これって仲良くするなってこと?どういうこと…?
「で、次にあのお茶を運んできてくれた子が…」
「赤坂楓だよ〜!君と同い年だからね〜!よろしくね〜!」
「おぉ、よろしく!」
テンション高いなこの子。アカネといい勝負しそうだ。この子は元気があるだけで、全然まともな方だ。安心した。
「ちなみにこの子は凄腕スナイパーなのよ。ゴム鉄砲で蚊を撃ち落とすから」
「え、凄っ!」
「そうよ、すごいのよ。でも、油断してたらすぐにあの子目玉潰しにくるわよ。気をつけてね」
前言撤回。やっぱり全然まともじゃない!
「あのー、潰すって文字通りの意味ですか?」
「うーん、そうね。ほぼ文字通りよ。ただ失明するほどのことはしないけどね。もし不安ならゴーグル着けてくることをお勧めするわ」
ゴーグル……
「でも、アヤねぇは大丈夫なんですか?狙われたりしないんですか?」
「大丈夫よ、慣れたわ。気配で躱すことができるようになったわ」
『凄っ!どうやってるの?』
「うおっ、びっくりした!急に喋るなよ!」
てかめっちゃ食いつくじゃん!
「………」
チラッと赤坂さんの方を見てみる。するといつの間にかごっついスナイパーライフルを俺のほうに向けているではないか!
「ひぃ!?」
とっさに机に伏せる。と、俺の髪の毛を掠めて何かが俺の上を通過した感覚があった。
「チッ、外したか…」
「あら、やるじゃない!初見で躱せたのは君が初めてよ」
おおおおお怖かったああああああ。銃口向けられるってあんな気分なのか。
「…赤坂さん、ちなみに今何飛ばしたんだ?」
「んー?レモン汁の詰まったカプセルだよー?」
これを目に…うわ、なんて悪趣味な!
「ああ、惜しかった!あのカーソルが目に合う瞬間のドキドキ!興奮する〜!」
危なかった…もう少しで俺の目が終わるところだった。今後もこの人には注意しないと…
「ちなみにアヤねぇは何かしているんですか?」
「私?私は至って普通の占いよ?」
やっとオカルトっぽいことしている人見つけたな。なんだよ、日本刀やスナイパーって。オカルト要素ゼロじゃないか。
「で、今廊下で転がっているのが顧問の上田先生。筋肉大好きの元気なおじさんよ」
扉の隙間から先生の姿を見る。股間を抑えてのたうち回っている。可哀想に。なんたってあかねの渾身の蹴りをまともにくらったからな〜。
『全力で蹴っちゃったなぁ、大丈夫かな?』
「あの人の息子の踏ん張りにかかってるな。あとで応援してあげるか。息子のこと」
『そうだね、応援してあげないとね、息子を』
と、そんなバカみたいな話をしていると…
「息子息子うるせぇぇぇぇ!」
立ち上がった上田先生がこっちに向かってドスドス歩いてきた!
「お前らみんなしてワイの息子を馬鹿にしやがって!もしダメになったらお前の息子を頂くぞ、小僧!」
と、俺を指さして変態発言をする上田先生。
『………』
「落ち着けアカネ」
もう1発蹴りを放ちそうなアカネを何とか諌める。次のは多分殺意100%の蹴りになりそうと思ったから。
「先生、冗談でも気持ち悪いわよ」
「ああ、彩子ちゃん…!もっと!もっと言って…!」
股間を押さえながら不気味な笑みを浮かべる上田先生。何だこの人、気持ち悪っ!
『うええ、何この人!もっと蹴っとけばよかった!お願いライ、かかと落としさせて!』
「だから落ち着けって!」
さすがのアカネも強く拒絶する。そりゃそうか。今のこの人の顔が1番オカルトっぽいしな…
と、そこで上田先生が気になる発言をする。
「てか誰だ!さっきから!もっと蹴っとけばとか言う奴は…!」
『……えっ?』
「…誰もそんなこと言ってないわよ、先生」
ちょっと待て、今この先生なんて言った…?
「いや、確かに女の声がしたはずなんだけどな…」
『……嘘ぉ!?』
まさか、この人はアカネの声が聞こえているのか!?