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魂は誰を呼んでいる?  作者: 置き時計スプラッシュ
第1章──ようこそ、新世界島へ!
5/58

学園長

「げ、行き止まりか!」



 美智子さんから逃げ始めてものの数分で、俺は追い詰められてしまった。


『うーん…やっぱりどこに行ったらいいのか分かんないのはキツいよ…』

「こればっかりは仕方な…痛っ!?」

『ライ?ちょっと!大丈夫なの!?』

「大丈夫…じゃないかも」


 さらに不運が続く。水分補給もロクに出来なかったこともあってか、筋肉が全く動かなくなってしまった。いわゆる「()った」状態だ。


『立てないくらいなの…?』

「壁に手をついてやっとかな…痛たた…」

『そんなぁ…』


 後ろを振り返る。



「追イ詰メタゾォォォ…!」



 そこには、ゆっくりと近づいてくる四足歩行のモンスター(美智子さん)の姿があった。


『…そういえば何で私達って追っかけられてるんだっけ?』

「お前のせいだよ、お前の!」

『え、私ぃ!?』


 やっぱり自覚なかったか。正直そんな気はしてた。



「オマエ…ユルサン…」



 俺に逃げる術は無いと判断したのか、威圧するように立ち上がるモンスター。


『あ、アイツ立った!二足歩行になったよ!』

「な、なんだって!?…って、そりゃそうか」


 危ねぇ、このモンスターは一応ギリ人間だってことを忘れてた。


「ノガサン…ゼッタイニノガサン…!」


 その手はまるで獲物を捕らえようとする熊のよう。これが野生の殺気か…って何で美智子さんからそんなもん感じるんだよ、とか考えながら何とか逃げる隙を探すが、祈るくらいしか思いつかなかった。


「万事休すじゃん」


 この言葉をリアルで使う日が来るとは、俺はとんでもないところに転校してきたなぁ。


 

 と、覚悟を決めたその時!




「どおぉぉぉぉぉ!」




 バンッ!と美智子さんのすぐ隣にあった教室の扉が突然開いた!


『うわっ、びっくりした!』

「な、何だ!?」



 中から現れたのは…え?おじいさん!?



「グアアッ!?」



 突然の出来事に美智子さんは驚き、体勢を崩す!




「ほぉぉぉぉぉぉあちょぉぉぉ!」




 その隙におじいさんは謎の奇声を上げながら手に持っていた縄で美智子さんを縛り上げていく…!


「グアアッ!グアッ!」

「ほっ!ほっ!ほほほっ!」


 美智子さんは必死に抵抗する…が、おじいさんの圧倒的な力になす術はなかった。てか2人とも声すごいな。まるで動物園だ。





「グォォォ…ッ!グオォ…」


 それからしばらくして…俺の目の前にはおじいさんの手によって全身縄でぐるぐる巻きにされた美智子さんの姿があった。


『す、凄いよあの人…!』

「た、確かに…あんなの初めて見た…」


 あの流れるような技術…まるで凄腕料理人の動画を観ているみたいだった。遠目から見ればまさに魚を捌いているように…全然見えないな、うん。



「ふぅ…そこの少年、大丈夫か?」



 と、動けずにいた俺に手を差し伸べてくれるおじいさん。


「あ、ありがとうございました、助けてくださって。怪我は大したことは…痛っ!?」

「おーう、無理はするな。わしが運んでやる。大人しくしてろ」

「え、運ぶ…?」


「行くぞ、ほぉっ!」

「うわ!」


 身体が地面から離れる…こ、この状態は…!?



『お姫様抱っこだね。いやー、まさかされる側にもなるとは!凄いね、ライ!たった半日でコンプリート!』



 うるせぇ!とツッコミを入れたいけど…喋るのも辛いくらい疲れてるし、ここは黙っておくことに…あ…やばい…気が…遠…のい…て…


「………」


「おっと、眠ってしまったか。よっぽど疲れたんじゃのぉ」








「…はっ!?」



 目が覚める。


「あ、俺また寝てたのか…」

『あはは、本日二度目だね〜』


 あ、そういえば…今回はあの夢は見なかったな。


『あの夢ってどんな夢?』

「あ、こら、心覗くなって言ってるだろ。そんな奴には教えませーん」

『うーわいじわる!』



 アカネは俺の中にいるからなのか、俺の心を覗くことができる。でも、好きな時にいつでも覗けるわけではないらしい。アカネが言うには、普段は蓋が閉じているのだが、たまに開いている時があるとのこと。開く原因はわからないそう。


「てか、ここどこだ?病院…ではないよな?」


 俺はふかふかのソファーで横になっていたみたいだ。ご丁寧に毛布までかけてもらって。


『ここ?学園長室だよ!』

「え、学園長室…?」


 どうしてこんなところに…?あ、いや待てよ、確か気を失う前に俺は…


 と、その時。



「おぉ、目が覚めたか!」



 丁度頭の中で思い浮かべた、さっきのおじいさんが視界の中に現れた。


「えーっと…」



「挨拶が遅れたな!ワシはここの学園長を務めておる北島槍ノ介じゃ!お前さんワシがお姫様抱っこした途端寝おったからの!そんなにワシの抱っこが気持ちよかったか!カッカッカ!」



 と、ケラケラ笑う学園長。白髪が似合うおじいさんだ。


「…まあそんなことは今はどうでもいいか。お前さんは来年度からここに転入する予定の荒木雷じゃろ?」

「え、あ、はい。そうです」


 と、体を起こそうと体に力を入れると…


「あだあぁぁぁぁっ!?」


 全身にとんでもない激痛が走った!


『あー…やっぱりちょっと寝たくらいじゃ治らないかぁ』

「久しぶりだったもんな、あんなに暴れたのは…あいたたたた」


 身体を貸すのが少しだけなら負担はほぼ無いんだけどな…あんなに暴れたの人生で初めてだ。


「あー、寝たままで構わん。お前さんよっぽど無理したようじゃからの。筋肉が悲鳴を上げておるぞ。見てわかるくらいにな」


 そんな俺の姿を見かねてか、寝たきりのままでいいと言ってくれる学園長。


「あ…じ、じゃあ…このままで失礼します」

「うむ。無理は良くないからの」


 俺は学園長の優しさに甘えて、身体の力を抜く。うぅ…力を入れなくても痛いもんは痛いな…


「よし、まずは謝らせてくれ。うちの者が迷惑をかけた。特に保健室の連中はどうも癖が強くてな…扱うのが大変なんじゃよ」


 と、机を挟んで向かいにあるソファーに座って話し始める学園長。


「…それって美智子さんのことですか?」

「そうじゃ。あの美智子はレベルが違う。ちょっと気に入らないことがあれば獰猛になって、なかなか手がつけられなくなるんじゃ。今回はお前さんが気を引いてくれていたからワシ1人で何とか仕留めることが出来たんだがの。本来なら教師を総動員して動きを封じなければならんかったからな…」


 そう話す学園長は不機嫌そうだった。まあ…大変だろうな。あのモンスターが相手で、しかも頻繁に暴れるとなれば。


「まあ、美智子の怪我の治療の腕は確かなものじゃからな。今後関わることがあれば年齢関係の話題には十分注意してくれ」

「…わかりました」


 そういえばあの人って保健室の先生だったな。モンスターのインパクトが強すぎて忘れてた…


『そういえばあの後ユイってどうなったんだろ…?』

「まぁ…大丈夫じゃね?仁さんもいたし」


 どこか頼りなさそうだったけども、あの人。




「さて、ここからはお前さんの転入の話になるが、その前に…ほれ」



 と、話が一段落したところで学園長が俺に何かを手渡してくる。


「あ、これは…!」


 俺が二ノ宮さんから逃げた時に落とした端末だ!


「ありがとうございます!」

「大事にするんじゃぞ。それが無いと買い物もできんからの」

「あれ、そうなんですか?」


 この島での買い物は全てキャッシュレスで、この端末を通じてお金を支払うことになっているらしい。つまり、これを無くすと新しい端末を入手するまで無一文で過ごさなければならなくなることに…よかった、このままだと餓死するところだった。


「お前さんが寝ている間に二ノ宮が届けてくれておったぞ。後で礼を言っておけ」

「あ、そうだったんですか。わかりました」


 やっぱりあの人は良い人だ。敵と認識した相手にはおっそろしいほど牙を剥くけども。


「よし!では、本題に入るが…」






 数分後──



「…というわけじゃ。よし!これにて説明は終了!お疲れさん!」

「おぉ、ありがとうございます!助かりました!」


 それから俺は、本土とは異なっているこの島独自のシステムや学校の施設の詳細、地図の読み方など、この島で必要な最低限の知識を教えてもらった。


「さて、もう質問はないかの?答えられる範囲なら何でも答えてやるぞ?」

「質問…」


 うーん…他になんかあったかな?


 と、考えていた時。



「学園長って実は何かしてる?」



 無意識に質問をしていた…って!?


『おい!?』


 こいつ人の口を…!またかよ!


「…それはどういう意味なんじゃ?」


 と、俺を鋭い目で見つめながらそう聞き返してくる学園長。やばい、この人も何か気にしてるタイプなのかもしれない!余計なこと言うとさっきの美智子さんみたいに縛られるかも…!?


「いやー、あのモンスターを縛り上げる時の動きが凄くて…なんか格闘技でもやってたのかなって」

『もうあんまり喋るなお前は!』


 と、アカネに注意しながら恐る恐る学園長の様子を確認すると…


「ほぉ、なーんじゃ、そういう事じゃったか」


 特に怒る様子もなく、ニコニコと笑顔で対応してくれていた。


『…おぉ、穏便に済んだ』

「ライビビりすぎじゃない?」

『お前がビビらなさすぎんだろーが!』


 でも、さっきの鋭い視線は何だったんだ…?一瞬だったし、俺の見間違いか?

 …まあいっか、怒らせてないみたいだし、この話題は俺も少し気にはなっていた。ついでに聞いておこうかな。


「別にワシは何の経験もない、ただの学園長じゃよ。あれはたまたま美智子の不意を突けただけじゃ。お主が気を引き付けておったからの!助かったわい!カッカッカ!」


 と、笑いながらそう言う学園長。


『…なーんだ、何もやってなかったのか』

「うーん、怪しい」

『もうやめとけって。失礼だろ』

「…はーい」


 というか、学園長はこういう意味で「質問は無いか?」って聞いたんじゃないだろ。全然話聞いてなかったみたいで恥ずかしいじゃないか。


『さて、次は俺が質問を…』


 と、口を取り返そうとした瞬間。



「あ、じゃあどうしてあそこに来るって分かったの?あれ待ち伏せだよね?」



『まだ聞くの!?』


 何でもかんでも聞いていいってもんじゃないだろーが!しかもまた学園長個人の質問だし!



「ふむ…なるほど。どうやってお主らの動きを予測したか、か。確かにこの学園の建物の中には基本的に監視カメラを設置しとらん。もちろん外に設置しているものも建物の中は映らないようになっておる。プライバシーを守るためじゃからの。そこで何故ワシが美智子とお前さんの場所を特定したのかと言うと…ほれ、出てこい!」



 と、パンパンと学園長が手を2回叩く。



「…何だ」



 すると俺が座っていたソファーの後ろからいきなり人が現れた!



「うおっ!?」

「…呼んだか、ジジイ」

「全く…学園長と呼べと言っておるのに…まあ今はいい。こいつのおかげなんじゃ」


 学園長とは違ってかなり若めの人だ。20歳前後か?


『筋肉凄いね〜、スーツとっても似合ってるね〜!』

「…確かに」


 服の上からでもわかる、男の誰もが夢見る綺麗な逆三角形ボディ。普段から鍛えてるんだろうなぁ。



「紹介しよう、ワシのボディーガードの田村じゃ」

「………」



 無愛想な表情のまま俺を見つめる田村さん…いや、睨まれてるのか、これ。明らかな敵意を感じる。


「あ、よろしくおね…」


 でも、自己紹介だし…と、握手しようと手を伸ばしかけたところで。



「チッ、俺に話しかけるな。俺はお前に会いに来たんじゃない。ジジイに呼ばれたからここに来たんだ」



 冷たくそう言われ、より強く睨まれた。


「………」


 怖え!なんだこの人!もう少し優しく接してもいいんじゃないのか!?初対面なんだし…



「ねえ!もう少し優しく接してもいいんじゃないの!?初対面なんだし!」



 気がついたら思ってたことが口に出てた。あれ、この状況は…またお前かアカネぇ!


『お前何回奪うんだよコラァ!大人しくしてろ!』

「絶対嫌だ!こんな奴に言われっぱなしでいいわけ?聞け!そこの田村!」


 と、ビシッと田村さんに向かって指を差そうとするアカネ。しかし、力が入らない。


「チッ…おいジジイ、用件をさっさと教えろ。こんなやつと同じ空間に居たくない。端的に頼む」

「いや、ただ紹介しとるだけじゃが…」


 しかも、田村さんは全く俺を相手にしてくれない。あ、やばい、このままだとアカネがヒートアップする。


「ちょっと、コラー!聞けぃ田村ぁ!」


 そう叫びながら立ち上がろうとするアカネだが…さっきの指と同様に、体は動いてくれない。


『おいっ、無茶するな!』

「だって、こいつライのことをバカにしたんだよ!?舌打ちまでしてさ…許せるわけないじゃん!一発殴らないと気が済まない!」

『わかるけど落ち着け!今は筋肉があだだだだだだ!』


 痛すぎて心の中でもまともに喋れない。そんな俺の様子を悟ったのか、アカネは大人しくなった。


「…ごめん、落ち着く」


 そして、筋肉の痛みが少し緩くなった。


『ふぅ…ごめんな、今は堪えてくれ』


 俺だって体が元気なら遠慮なく殴らせている。いや、俺の意思であの野郎を殴りたい。


「…田村、わざわざ呼び出しといて悪いんじゃが、1度席を外してくれんか?」


 と、俺の様子を見かねたのか、田村さんにそう指示する学園長。よかった…このまま田村さんがそばにいるといつアカネが暴れ出すか分かったんもんじゃない。


「…ああ」


 と、田村さんは今度は普通に扉から出ていった。さっきはどっから出てきたんだよ、あの人。


 そして、学園長は俺に向き直り…


「…本当にすまないな、田村は昔からああいうやつなんじゃ。他人に心を開かないというか…誰も信じないんじゃ」


 申し訳なさそうに俺に話し始める。どうやら田村さんのあの態度には何か理由があるみたいだ。


「田村は昔大変な目に遭っておっての、正直見てられんかった。そこでワシは田村を雇って面倒を見ることにしたんじゃ。これでも昔と比べればマシになったほうなんじゃよ」


『あれでマシなんだ…』

「酷い時はどんなのだったんだろうな…」


 初対面でアレだからなぁ…全く想像出来ない。


「…話が逸れてしまったの。本題に戻るが、お前さんが美智子に追われているのを知らせてくれたのは田村じゃ。そこでワシはお前さんが来る場所に待機しておった」

「来る場所って…どうしてわかったんですか?」

「田村がここに来ると教えてくれたからの。少々不安じゃったが、本当に来たからびっくりしたわい」

「へぇー!」


 田村さんすげぇ。校内はかなり広いのによく特定できたな。


「すごいですね、田村さん」

「カッカッカ、そうじゃろう!性格に難ありじゃが、彼以上に頼れるボディーガードはいないわい!」


 確かに性格はどうであれ優秀な人に守られたら安心するだろうな。


『私はゼッタイ嫌だけどね!あんなやつに守られるなんて!』

「お前の意見は聞いてない」

『ふん!次会ったら2度と喋れないように喉をえぐり取ってやる!』

「ちょっとは落ち着けよ!?」


 こいつはこいつで色々とやべぇな。本当にやりかねん。田村さんの前では体を奪われないように気をつけねば。





「さて、質問はもうおしまいかの?」



 と、俺の目の前でコーヒーの準備を進めながら聞いてくる学園長。


「あ、最後にひとつだけ…」


 やっと質問できる…思い出せてよかった。


「おー、いいぞいいぞ。言ってみろ!」

「それは、部活についてなんですけど…」



 俺が1番聞きたかったこと…それは部活だ。これのためにこの島に来たと言っても過言ではないくらい俺にとって重要なことだ!


「おー部活か!青春じゃのぉ!カッカッカ!」

「はい。それで1つ気になる部活があって…」



 招待状と共に送られてきた学園のパンフレットの中に新入生用の部活紹介の冊子があった。予想以上に部活動の数は多く、殆どを流し読みしただけだったが、1つだけ気になる部活動を見つけた。



 オカルト研究部。



 部活動の中ではかなりマイナーな部類に位置する部で、この部活が無い学校も少なくはないと思う。実際元々通っていた高校には多分無かったし。

 で、俺はこの部活動を見つけた時、アカネが何なのかを知るチャンスだと思った。今までもアカネを知ろうと動いたことはあったが、医者は頼りにならなかったし、ネットの情報もどれを信じればいいか分からなかった。

 もうほぼ諦めかけてた時に転がり込んできたこのチャンス。無駄にするわけにはいかないと思って、俺は転校を決めたんだ。



「おお、もう既に入りたい部活が決まっておるのか!結構結構!ちなみに…どこなんじゃ?」

「オカルト研究部です!」


 俺は自信を持ってそう伝える。すると、学園長のニコニコ笑顔が一瞬で真顔へと変化した。


「…どうかしたんですか?」

「いや、お前さん、あの部活動だけはやめておいた方がいいぞ」

「えぇっ!?」


 まさかそんなことを言われると思ってなかった。やめておいた方がいいだなんて…!?


「ど、どうしてですか?」


 うーむ、と学園長は考え込む。なんだなんだ、この学園のオカルト研究部ってアレなのか?よくわからん魔法陣を描いて、人間を贄として悪魔を召喚したり…とか、そういうガチなやつなのか!?


「まあ、百聞は一見に如かずじゃ。実際に見てくるが良い」

「は、はぁ」


 「他の部の方がいい」とは言わずに、そんなことを言う学園長。それって…1度見ればヤバさが分かるってことだよな。

 そんなにやばい部活なのか?何だか怖くなってきた。俺まだ死にたくないし、やっぱりやめておこうかな…?


『面白そうじゃん!ライがオカルト研究部に入りたかったなんて聞いてないよ!なんで教えてくれなかったの?』

「お前のせいだよ、お前の!」

『あれ、私何かした?』

「…黙ってなさいっ!」

『何で!?』


 …もういいや、なんかこいつと話していたら怖くなくなってきた。行くか、オカ研。






 その後、せめてものお詫びと、学園長がマッサージをしてくれた。すると体の調子が驚くほど良くなった。本調子ではないが、自力で走れるほどに。


「…凄いですね、学園長は本当に何とやってないんですか?」

「カッカッカ、ただの学園長じゃよ!」


『…やっぱ怪しいよ』

「…だよな」


 けど今はいいや、なんか良い人っぽいし。


「ありがとうございました。では失礼します」

「このままオカルト研究部の方に向かうのか?」

「はい。そのつもりですけど…何か問題がありますか?」

「いや、問題は無いが…頑張れ、死んでも骨は拾ってやるからの」

「…ありがとうございます?」


 応援ってより心配だな、これ。めちゃくちゃ不安だ。と、そんなことを考えながら俺は学園長室を出た。



『本当に謎だらけの人だったね!私も正体が何なのか気になっちゃったよ!』

「そうだな…でも今はオカルト研究部が先だぞ。部員が帰る前に行かないと。ちょっと急ぐぞ!」

『はーい』






「入っていいぞ、田村」


 ワシが呼ぶと、ガチャ…と、窓から田村は入ってくる。まったく…いつも変なところから入ってきおって…扉から入ってきてほしいのじゃが。


「…話は終わったのか」

「まあの。やはりこのご老体にマッサージはキツいわい」


 肩をコリコリと回す。時々パキパキと鳴る音が心地良い。


「そんな事はどうでもいい。それよりアイツはやはり…」

「ああ、あの人の変わりようは間違いないじゃろう。既に中に居る。ただ、誰かは分からんかったのお」

「…確かにあんなやつはデータには無かった。放っておいては危険だ。今すぐ…」

「まあ、今はそんなに慌てる必要はなかろう。変に圧力をかけて痛い目には遭いたくないじゃろ?おそらくじゃが、あの中の者は中々腕が立つものと思われる。とにかく様子見じゃ。余計なことはしないように。わかったか?」

「…御意。では俺は()()の調査に戻る」

「気をつけてのぉ〜」


 ワシは手を振って田村を見送る。



「簡単に死ぬんじゃないぞ、荒木雷よ」



 さて、冷める前にコーヒーでも飲むとするかね。

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