vsひったくり犯
「──犯人はバイクで逃走中です!今ドローンが追跡していますが…撃ち落とされるのも時間の問題です!急いでください!」
バイクで移動中に、カナから連絡が来る。
「撃ち落とす?そんなことが出来るんですか?」
「──はい。ドローンは機動力を重視して設計されているので、耐久性はほぼ無いに等しいんです。エアガンを当てられるだけでも壊れてしまいますし」
「あ、そうなんだ…」
「──あれって結構お金かかってるんですよ!それを犯人たちはホイホイ壊していって!ちなみに壊れた分の修理費は私たちの給料から差し引かれるらしいです…なので荒木君!給料のためにも絶対に犯人をぶっ飛ばしてきてくださいね!」
「は、はい」
通信機越しにカナの殺意が伝わってくる。おお怖い。
「相手はバイクかぁ…それじゃあ荒木君、これを渡しておくね!」
すると、バイクを運転していた小田さんが何かを手渡してくる。
「これは…銃!?」
でも銃にしてはおもちゃっぽいような…
「ふっふっふ、それは特別な銃でね、人間に撃っても何も起こらないんだけど、機械に撃つとその機械を強制停止させられるんだよ〜!」
「へぇ〜!すごい!」
こんなものまであるのか、新世界島!色々とハイテクだ!
「でも、よーく狙ってよ?信号機とかに当てたらパニックになるからね?」
「機械なら何でも停止させられるんですか?」
「うん!このバイクも止まるよ。犯人が奪って逃走ってこともあり得るからね」
「なるほど…」
確かに、そういう可能性も無くはないもんな…
「そういえばアカネ、射撃の腕は?」
『うーん、経験はあるけど。私射撃は下手くそだからね…まあ何とかなるでしょ!』
やべぇ、これアカネに任せたら大惨事になるやつだ。ここは俺がやるしかないか…!
「──おーい、こちら玉木だ。俺はそのまま追跡するから、お前らは先回りしてくれ」
と、玉木さんから通信が来る。
「わかった!カナ、誘導よろしく〜!」
「了解です!ではあと300メートルほど進んだら右方向に飛び降りてください。5メートルほど下に道路があります」
…んっ?今なんて…?
「飛び降りる?」
「そうだよ?先回りするためのショートカットだよ。じゃあスピード上げるから掴まっていてね!」
と、バイクがブィィィィンと音量を上げる!
「ちょっと待って!大丈夫なんですか!?バイク壊れないんですか!?」
何を当たり前のように飛び降りようとしてるんだよ!5メートルも落下するんだぞ!?
ちなみにここは地上10メートル越え。もし1番下、つまり地上に叩きつけられたらほぼ死ぬ。
「大丈夫だよ?もう、そんなこと気にしてたら治隊やっていけないよ?はーい、行きまーす」
そして小田さんは俺の心の準備を待つことなく高さ1メートルほどのガラスのガードレールを飛び越える。
もちろんその先に待っていたのは…空気だった。
「うわぁぁぁぁぁ!」
ジェットコースターに乗った時のあの内臓が浮く感覚が俺を襲う!
「落ちる落ちる落ちるっ!」
『もう落ちてるよ?』
「あはははは!荒木君面白いね!」
逆になんで落ち着いていられるんだ!?小田さんもアカネも!
「はい、着地!」
着地した瞬間、バイクの強烈なサスペンションの反動でかち上げられる俺。
「うおおおおお!?」
そして無様にベシャッと背中から着地する。
「いててててて…」
おお、生きてる。生きてるぞ、俺。
『ライ、大丈夫?』
「おう、一応な…」
仰向けになりながらさっきまで居た道路を眺める。あんな高さから飛び降りたのか…5メートルって意外とあるな。よくもまあ無事だったもんだ。
「荒木くーん、ごめんね、落としちゃって。怪我してない?」
「はい、大丈夫です」
そして、ゆっくりと立ち上がる。すごい、バイクも無傷だ。
「よかった。じゃあ乗って乗って!先回りしないと!」
「はい!」
お給料のためにも頑張らねば!
「あー、あいつか。見えた見えた」
あのやろう、仕事増やしやがって…めんどくせぇ。
「玉ちゃんさん!そのまま合流ポイントまで追い詰めてください!サイレンも派手に鳴らして威嚇してください!」
「玉ちゃんさんはやめろ、カナ」
そして俺はサイレンのスイッチを入れる。
ファンファンファンファン!
ついでにメガホンでなんか喋っとくか。
「あーあー、そこのひったくり。無駄な抵抗はやめてとっとと捕まりやがれ。仕事増やすな。はやくトリプル・マーメイドでゆっくりしたいんだ、俺は」
「私情丸出しですね、玉ちゃんさん」
「うるせぇ。俺は正義やら平和やらそんなもんに興味無いし。給料のために働いてんだよ…あ、あいつドローンぶっ壊しやがった」
「あのやろおぉぉぉぉ!給料がぁぁぁぁぁ!玉ちゃんさん!ぶっ殺してください!慈悲は要りません!」
「…お前も私情丸出しじゃねぇか」
と、ひったくり犯が俺に向かって何か投げてきた。その何かは俺の手前10メートル付近に転がる。
「なんだ、これ?プレゼントにしては雑じゃね?」
「え!?玉ちゃんさんもしかして今日誕生日なんですか!?」
「2ヶ月後の今日だ」
「全然先じゃないですか…」
「そんなことより、何投げてきやがったんだ、あいつは…」
と、その時。ボフン!と、白い煙が俺を取り囲む。
「うおっ、煙幕か」
しかもここは風下。あの野郎、少しはデキるじゃねぇか。
「玉ちゃんさん、無理はしないでください!事故を起こしてしまったらまた給料が…!」
「へいへい、無理はしねぇよ」
煙はしばらく消えそうにないな…ここはあいつらに任せるか。
「──おい、聞こえるか、荒木、小田」
「はいはーい、小田ちゃんですよー!」
「すまん、足止め食らった。だが合流地点には向かってる。そこで仕留めといてくれ」
「えぇー!?サボり!?」
「──ちげーよ。カナの給料のために待機してんだよ。とにかく任せたぞ。それじゃ」
ここで通信が切れる。
「あーんにゃろー!私たちに丸投げしやがってー!」
「うわぁぁ、まっすぐ運転してくださいよ!」
「こうなったら八つ当たりで荒木君を酔わせてやるー!おりゃりゃりゃりゃー!」
すると小田さんはバイクのサスペンションを巧みに操り、縦横斜めと回転する!
「うわぁぁぁぁ!やめて…やめ…!」
ヤバイ、2日ぶりに荒木ダムがっ…!
と、そこへカナの通信が入る。
「あれです!前方に見えるあの緑のバイクに黒のヘルメットです!」
「なんだー、せっかくいいところだったのにー!」
な、ナイスタイミングです、カナ!
「よし、じゃあ荒木君!出番だよ!すれ違い様にあのバイクにその銃ぶっ放して!私たちが治隊ってことにアイツは気付いてないっぽいから!」
「遠慮はいりません!殺す勢いでお願いしますよ!」
相変わらずカナは殺意が凄いな…と、ここである事に気がつく。
あれ、銃がない。
確かに胸ポケットにしまっておいたのに…まさか飛び降りた時に落としたのか!?
『ライ、どうかしたの?』
「…銃無くした」
「ええええええ!?てか無くしたんですか!?あれも結構お金かかるんですよ!?」
「ごめんなさいごめんなさい!」
今更だけど、この人ほんとお金のことばっかりだな!
「うーん、このバイクごとひったくり犯に突っ込む?」
「ダメです!そのバイクは治隊の中でもトップクラスにお金が…」
『あ、私閃いた』
と、俺の口が勝手に動き出す!
「小田さん!出来るだけ跳ねてください!」
『あ、アカネ!?』
「ふっふっふ、治隊の奴らも大したことねぇな!」
追っ手も今頃は煙幕で足止め、ドローンは全て潰した!もう怖いものは無い!あとはこの端末を解析して金を引き出せば…!
「ん?なんだ、あの派手に動き回ってるバイクは…」
しかもよくよく見れば男女でイチャついてるじゃねぇか。気にくわねぇ…まあいい、今大事なのは逃げ切ることだ。アジトにさえ入れば俺の勝ちだ!
「…あ、あれ?」
さっきのバイク、後ろに男が乗ってたよな…?どこに行ったんだ?振り落とされたのか?でもどこにもそんな人影は…
と、急に俺の周りが影に囲まれる。なんだ、俺の真上を飛行機でも飛んでるのか…?
と、上を見上げた瞬間!
「ほわたあああああああああ!」
ひ、人!?しかもこいつはさっきのバイクの後ろに乗ってた…!
「やべぇ、避けきれ…!」
ゴスッ。
「う、うおお…」
「せーの!よいしょっ…と、コイツ重い〜!」
その後、気絶したひったくり犯をみんなで護送車に押し込む。
「──お疲れ様でした!でも荒木さん、大丈夫なんですか?最初だからって張り切り過ぎじゃないですか?」
「そうだよ!飛び跳ねてって言われた時何をするのかと思ったけど…まさか電光掲示板の裏ににしがみ付くなんて思わないよ!」
「まあ、その無茶苦茶な作戦のお陰で捕まえられたんじゃねぇか。礼を言うぞ、荒木。これでゆっくりコーヒーを堪能できる。ついて来いよ。奢ってやる」
「あはは、ありがとうございます」
そう。アカネの作戦は、バイクのサスペンションを生かして飛び上がり、電光掲示板に隠れるようにしがみつき、油断している犯人に蹴りをお見舞いするという大胆すぎるものだった。馬鹿力を出せるアカネだからこそ出来た作戦である。
「まったく…今回はうまくいったから良かったけど…人の体ってことを忘れるんじゃないぞ、アカネ」
『はーい、ごめんなさーい』
こいつ…反省してないな。まあお陰でお給料の仇も討てたわけだし、このくらいにしておこうか。
「──さて、荒木さん。今回はお見事でしたけど…忘れてないですよね?」
「え?何のことですか?」
「──銃の件ですよ。あの後連絡が来ました。車に踏み潰された銃の破片が見つかった、と」
「あー、そうですか。それってもしかして…」
「はい。荒木さんのポケットマネーで弁償してもらいます!中々のお値段なので覚悟してくださいね…?」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁ!」
『こればっかりは自業自得だよね』
多すぎる支出、少なすぎる収入。勘弁してください。