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僕たちは  作者: 猫眼鏡
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【86話】楼に佇む


 影楼の小屋。

 テーブルを囲うようにして3人は座っていた。

 

緋月「…かげろっち、そんなことがあったんだ。」

影楼「悪ぃかよ。」

聖雷「そんなことないよ。」

緋月「…話してくれて、ありがとう。」

影楼「おう。」

 

 影楼は、過去のことを聖雷たちに話していた。

 

胡蝶「…確かに昔、森で子供が亡くなったニュースを聞いた気がするな。」

聖雷「そうだね。かなりのビックニュースだった。」

影楼「だから街の人達はこの森のことを怖がっていたんだ。」


 すこしの沈黙。

 

緋月「…妹さんにお線香、あげていこうか。」

胡蝶「そうだな。」


 影楼たちは地下室へ行こうと席を立った。

 すると、小屋のドアがすこし開いた。

 

胡蝶「?」

 

 恐る恐る見てみると、小屋の外から覗く小夜がいた。

 

影楼「小夜?」

小夜「……ごめんなさい。」

聖雷「どうしてここに?」


 小屋の中に入れると、小夜は頭を下げて謝った。

 

小夜「ごめんなさい。…話、聞いてました…。」

影楼「…。」

小夜「小屋に入ろうと思ったら、皆が話してて…それで、聞いてたの。」

影楼「…俺こそ、すまない。こんな暗い話をしてしまって。」

 

 小夜は涙目になっていた。

 

小夜「…影楼、そんなことがあったんだね。知らなかった。」

影楼「……引いたか?」

小夜「そんなことない。」

 

 小夜は、影楼の目をちゃんと見て言った。

 

小夜「影楼、自分のこと全然話さないから、どうやって接すればいいのかよく分からなかったんだ。でも、話を聞いてもっと知ることが出来たの。」

影楼「…。」

 

 すると、聖雷が影楼たちの間に割って入った。

 

聖雷「そうだね。僕たちも、影楼くんのことを知るいい機会になったかもしれないね。」

影楼「聖雷…。」

緋月「かげろっちの秘密を知っちゃったもんね。もう俺っちたちは友達から離れられないね。」

影楼「緋月…。」

胡蝶「話してよかったかもしれないな、そうだろ?」

影楼「…。」

 

 影楼は優しく笑うと、小夜たちを抱きしめた。

 

影楼「…てめぇらがいて、良かったかもしれねぇな。」


 影楼は全員の頭をぐしゃりと撫でる。

 小夜たちも影楼に抱きついた。

 

*

 

 

緋月「よーし、やるぞ!!」

 

 皆がモップやブラシを持ち、石碑の前に立った。

 

影楼「あまりやりすぎんなよ。てめぇらのうるせぇ声で石碑が割れたら許さねぇぞ。」

聖雷「なんだそれ。」

 

 5人は、地下室にある石碑のまわりを掃除することになった。

 ブラシを構え、石碑の周りをゴシゴシと掃除する緋月と聖雷。

 

聖雷「石碑の周りも結構汚れてるかもね。」

影楼「あんま掃除してねぇからな。」

緋月「土がいっぱいあるね。」

影楼「そろそろ俺も掃除しようと思ってたんだ。助かったよ。」


 石碑を雑巾で丁寧に拭く胡蝶と小夜。

 

胡蝶「…本当に、ただの石なんだな。」

影楼「まあな。妹がその下に埋まっている訳でもねぇ。ただの石にヘアゴムを供えたただけだ。」

小夜「影楼のわりに、そんな事するんだね。」

影楼「あ?」

小夜「ごめんなさーい。」

 

 5人は一生懸命掃除をした。

 そして、数十分後。

 

聖雷「ピカピカ!」

 

 石碑の周りや石碑はピカピカになっていた。

 

緋月「前より全然綺麗になってる!」

影楼「ありがとうな。妹も喜んでるぞ。」

 

 そして、小夜はテーブルの上に木の実とジュースをお供えした。

 

小夜「妹さん、良かったね。」

 

 5人は手を合わせ、石碑に向かって祈りを捧げた。

 

影楼「……。」

 

 目を開くと、顔を見合せた。

 

緋月「かげろっち。」

影楼「?」

緋月「…俺っちたち、ずっと友達だよ。」

影楼「…おう。」


 影楼は、にこりと笑った。

 

聖雷「影楼くん、今日はいつもより優しいね。」

影楼「うるせぇ。」

胡蝶「こらこら。」

小夜「えへへ、照れてるね。」

 

 5人は笑い会うと、地下室を後にした。

 

緋月「…あ!!!」

 

 地下室から上がろうとすると、緋月が大声を上げた。

 

胡蝶「どうした。」

緋月「ごはん!」

聖雷「あ。」

緋月「そうだよ、俺っちたち、かげろっちをご飯に誘おうとしてたんだ。」

影楼「あ?」

聖雷「マーリンさんがね、パンが余ってるから、一緒にご飯食べないかって…。」

 

 影楼は少し鼻で笑った。

 

影楼「そういうことか。構わねぇが。」

胡蝶「随分と時間がかかってしまったな。」

緋月「あはは…(苦笑い)」

聖雷「今から、宿に帰ろう。ね?」

影楼「わーかったって。」

緋月「小夜っちもね。」

小夜「うん!」

 

 5人は宿へ帰ることにした。

 

*


  

 その日の夜。

 影楼は小屋の屋根から月を見ていた。

 

影楼「…綺麗だな。」

 

 真っ黒な空に浮かぶ、白い光。

 今夜は満月だった。

 

 屋根の頂点に腰掛けながら、今日のことを思い出していた。

 

影楼「…友達………か。」

 

 今まで、友達というものが分からなかった。

 道端で同級生と会っても、喧嘩しか起きなかった。クラスメイトと会っても、話すことしかしなかった。

 でも、緋月たちは違った。

 

影楼「…はぁ。馬鹿だなぁ、あいつらは。」

 

 俺は月を眺めながら、母のことも考えていた。

 

影楼「…ちっとはお見舞いに行ってやるか。」

 

 楼の上に佇む影。

 その影は光と混ざり、空へ伸びていった。

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