【81話】秘密基地
影沼翔、6歳。
*
おれは、ごく普通の家庭に生まれた。
父と母はちゃんといるし、どちらもすごく優しい。
そして、2つ下の妹がいた。名前は、愛。
父は仕事が忙しく、母は体が弱くて入院を繰り返していたので、家で2人で留守番をすることが多かった。
影楼「ただいまー!」
おれが家に帰ると、妹は幼稚園から帰ってきたばかりだった。
愛「おにーちゃん、おかえりなさい!」
愛は、帰ってくるとすぐにおれに抱きついた。
影楼「さみしくなかったか?」
愛「うん!みてみて。おばさんにもらったの。」
愛は、袋を持っていた。中身はみかんだった。
影楼「みかんだ!」
袋から出し、みかんを剥くと、愛と半分にして食べた。
愛「おいしい!」
影楼「おばさんがくれるのはおいしいね。お礼あげなきゃ。」
妹と2人で過ごしてきたのもあって、この歳にしてはしっかりしていた方だった。
掃除や洗濯などは1人で出来るように教えられていた。
影楼「みかん食べたらすぐきがえするんだぞ。」
愛「はーい!」
愛はみかんを一口で食べるとタンスから洋服を出した。
影楼「今日は母ちゃんとあえるんだ!」
おれたちは楽しみにしながら家を出た。
*
おばさんと一緒に手を繋ぎ、おれたちは大きな病院に来た。
影楼「愛、母ちゃんのびょういんだぞ。」
愛「うん!」
病院に入り、エレベーターで上に上がると、入院患者のいる棟へ移った。
廊下を歩きながら、ネームプレートのところを見ていると、影沼の文字が見えた。
影楼「あった!」
部屋に入ると、母ちゃんがすぐそこで待っていた。
影楼「母ちゃん!」
おれたちは母ちゃんに飛びついた。
母「大きくなったね、翔、愛。」
母ちゃんはおれたちの頭を撫でた。
おばさん「相変わらずこの子たちは元気よ。」
母「良かったわ。ごめんなさいね、家へ帰れなくて。」
おばさん「大丈夫よ。いい子にしてたから。ね?」
愛「うん!」
母「うふふ。」
母ちゃんのベッドの横には車椅子があるのに気が付いた。
影楼「これ、母ちゃんの?」
母「そうよ。」
影楼「いす?」
母「車椅子っていうのよ。」
愛「くるま?」
母「えぇ。今度からこれに乗るのよ。」
母ちゃんは、車椅子に乗ることになっていた。
退院したとしても、あまりずっと動いてることはできないらしい。
母ちゃんと走ったりできないのは、少し悲しかったが、仕方なかった。
母「そうだ!翔、愛。少し公園で遊びましょうか。」
愛「ほんと?やったー!!」
影楼「え、でも。」
母「大丈夫よ。」
おばさん「体は平気なの?」
母「ええ。外出許可をいただいくわ。」
母ちゃんはおれたちをつれてナースステーションのところに行き、許可をもらった。
*
影楼「わーい!」
滑り台であそぶ愛とおれ。
母ちゃんが車椅子でおれたちを見ていた。
母「気をつけてね。」
影楼「うん!」
母ちゃんは、遊具であそぶのを見守ってくれていた。
おばさん「いいの、出てきちゃって。」
母「大丈夫よ。それに、ずっとあの子たちがあそぶ姿を見てなかったからね。」
おばさん「そうよね。旦那さんはまだ帰ってこないの?」
母「連絡があったけど、最低でもここ1週間は日本にいないらしいわ。」
おばさん「そう…お世話なら任せてね。」
母「いつもありがとうございます。」
おばさんは、積極的におれたちのことを見てくれていた。食材をくれたり、公園に連れて行ってくれたり、家族のような存在でもあった。
*
影沼翔、8歳。
影楼「はぁ…はぁ…。」
おれは学校が終わると、とある場所に向かって走っていた。それは森だった。
住宅地の近くにある、少し暗い森。
興味本位で入ってみたら、すごく楽しかったのだ。その日から、おれの秘密基地制作は始まった。
影楼「よーし、きょうもつくるぞー!」
木の枝を拾い集めて、紐で結んで、屋根を作ったり、木の実をとってあそんだ。
誰もいない森なので、秘密基地が壊されることもなかった。
影楼「ひみつきちができたら、愛に1番に見せるんだ!」
いつしか学校終わりの日課になっていた。
ランドセルを背負ったまま、学校から森へ走って行き、ポケットに隠しておいた工具や紐を使って秘密基地を組み立てた。
そして、夕方になると、家へ帰った。
*
影楼「ふぅ…。」
森に入ってから3時間以上が経ち、辺りは暗くなりかけていた。
木の枝や木材を組み合わせて紐で結んだものを集めて、小屋のようなものが完成した。
子供2人が入れるくらいの大きさだったので、影楼たちにとってはピッタリの秘密基地だった。
影楼「やっとかんせいした…。あしたは愛にみせに行こう!」
そう言うと、影楼は森をあとにした。