【80話】地下室の石碑
宿のリビング。
聖雷たちが楽しく話していると、緋月が帰ってきた。
緋月「たっだいまー!」
聖雷「おかえり!」
緋月がリビングに顔を出すと、荷物を置きに部屋へ向かった。
マーリン「ふふ、最近の緋月ちゃん楽しそうね。」
聖雷「ちゃんと学校行くようになったんだね。」
胡蝶「ああ、同じクラスに小夜がいるから楽しいらしいぞ。」
緋月は、始業式のクラス替えで小夜と一緒のクラスになっていた。
緋月が戻ってくると、テーブルの上にある木の実をつまみ食いした。
聖雷「あっ!!」
緋月「へへっ。」
胡蝶「貴様、行儀悪いぞ。」
緋月「いいもんねー。」
緋月はテーブルの横に座ると、胡蝶の顔を見て舌を出した。
胡蝶「本当に子供だな。」
マーリン「お腹すいたのかしら?」
緋月「うん!!」
マーリン「今作ってるわよ、待っててね。」
緋月・聖雷「わーい!」
2人はワクワクしながらご飯を待っていた。
聖雷「最近、ひっきー楽しそうだね。」
緋月「うん!」
聖雷「学校楽しい?」
緋月「うーん…まあまあかな。小夜っちと一緒のクラスになったんだ。だから楽しい!」
聖雷「そっか!」
緋月「今日も授業の後、小夜っちと一緒に帰ってきた。」
胡蝶「良かったな。」
緋月「でね、数学の時間に小夜っちからノートを借りたんだ。俺っちが適当に捲ってたら小夜っちの落書きがあって…」
緋月は学校での話を楽しそうに話していた。
マーリン「そろそろ準備してくれるかしら?」
聖・緋「はーい!」
聖雷と緋月は協力して棚からコップや箸を取り出し、テーブルに並べた。
胡蝶「はぁ…こういう時だけ元気がいいんだから。」
シユウ「にゃん。」
シユウは胡蝶の横で聖雷たちをずっとみていた。
昼食の準備が終わると、マーリンは鍋をお玉で混ぜていた。
マーリン「…思ったよりも多く作りすぎちゃったかしら。」
聖雷「スープ?」
マーリン「ええ、今日はスープと木の実パンよ。」
緋月「やったぁ!」
マーリン「パンもかなり余るわ。」
マーリンは少し困っていた。
緋月「大丈夫だよ、俺っちが全部食べるもん。」
マーリン「お腹壊すわよ。…そうだ。」
すると、マーリンはもう1つお皿を用意した。
マーリン「スープが出来るのにまだ時間があるし、影楼を呼んできてくれないかしら。」
聖雷「分かった!」
聖雷は緋月と胡蝶の手を掴むと、リビングを飛び出した。
*
森の中を歩く3人。聖雷はシユウを抱いていた。
緋月「かげろっちの奴、小屋にいるのかな?」
胡蝶「さあな。そこらへんをうろついてるかもしれない。」
緋月「確かに。」
聖雷「釣りでもしてるかな。」
歩き続けると、影楼の庭に着いた。
緋月「おー。」
胡蝶「釣りはしてないようだな。」
池を見ると、誰もいなかった。
3人は小屋のドアをノックした。
聖雷「…。」
緋月「おーい!かげろっちー!!」
声をかけるが、返事はなかった。
緋月「いないか。」
少し押してみると、ドアが開いた。
胡蝶「…近くにいそうだな。」
辺りを見回してみると、シユウが聖雷の腕から飛び出した。
シユウ「にゃー。」
聖雷「ん?」
シユウが小屋の裏へ聖雷を誘導した。
聖雷「あ。」
すぐ裏にある地下室の扉が開いていたのに気がついた。
緋月「なにこれ!」
胡蝶「影楼の地下室だ。下に居そうだな。」
地下室を覗いてみると、長いハシゴが下にのびていた。
緋月「かげろっちー!!」
声をかけてみるが、返事がない。
緋月の声が反響していた。
聖雷「広い…。」
緋月「かげろっち、いないのかな?」
聖雷「降りてみよっか。」
3人は地下室へのハシゴを降りてみた。
胡蝶「…勝手に降りていいのか?」
聖雷「大丈夫だよ。なんとかなるさ!」
ハシゴを降りると、そこには、白い空間が広がっていた。
狭い通路が奥まで続いている。先は見えない。
緋月「倉庫…なのに、何も無い。」
聖雷「さすがに僕も初めて入ったな…。」
胡蝶「先に進んでみるか?」
壁に手をつけながら、ゆっくり進む3人。
緋月「かげろっち〜?」
奥へ進むと、扉があった。
聖雷「扉?」
頑丈で、重そうなものだった。
緋月「よいしょ。」
緋月が扉をそっと開けた。
扉の向こうには、今までと違い、広い空間があった。
緋月「うわぁ…。」
辺りにはガラクタや、ダンボールなどが積み重なっている。
聖雷「…。」
少し部屋を探索していると、影楼がいた。
緋月「あ、かげろっち!」
緋月が影楼の後ろから近づいた。
影楼「…あ?」
振り返ると緋月たちがいることに驚いていた。
影楼「なんでてめぇらが…!」
聖雷「勝手に入ってごめん。」
緋月「ねーねー、何してたの?」
影楼は背を向けて何かをしていたようだった。
緋月「…?」
影楼は後ろのものを隠すように立っていた。
影楼「んだよ。」
緋月「…後ろに何があるの?」
影楼「別に大したもんじゃねぇよ。」
緋月「じゃあ見せてよ。」
影楼「駄目だ。」
影楼の腕の隙間から、花のようなものがチラッと見えた。
緋月「…花?」
影楼「くっ…!」
影楼が緋月たちを睨む。
胡蝶「緋月。やめておけ。」
緋月「だって…気になるんだもん。」
聖雷「影楼くん、僕達が見ちゃいけないもの…?」
影楼「いや、そういう訳では無い…。」
聖雷「…もしかして。」
聖雷がハッとする。影楼はそれを見て隠すことを諦めた。
影楼「…そうだよ。」
影楼がその場をどくと、後ろには小さな石碑のようなものがあった。
胡蝶「…。」
緋月「石?」
石碑の前にはテーブルがあった。
写真立てと、アクセサリーのついた髪留めの様なものも供えられていた。
緋月「この写真…。」
聖雷「…。」
写真立ての中にあるのは、ピンク色の髪の女の子の写真。
緋月「…もしかして!!!」
影楼「…。」
緋月「ロリコン!?」
影楼が思い切り緋月を殴ろうとした。
それを止める胡蝶。
影楼「てめぇ…今なんつった…。」
緋月「ごめんなさーーい!」
緋月が逃げ回る。影楼を押さえつける胡蝶。慌てる聖雷。
胡蝶「貴様、影楼に謝れ!」
影楼「てめぇも勘違いしてんじゃねぇよ!」
一通り誤解が解けると、影楼は緋月を追いかけるのをやめた。
影楼「…。(舌打ち)」
緋月「ごめんね、かげろっち。」
胡蝶「…はぁ…はぁ。」
聖雷「落ち着いて、みんな。」
緋月は再び女の子の写真を見た。
緋月「でもさ、この写真の女の子誰?気になる。」
胡蝶「…まぁ、そうだな。地下室にこんなに厳重に管理されているところにこれがあると、意味があるようにしか思えない。」
影楼「分かったよ。話せばいいんだろう?」
影楼は、髪留めを手に取った。
影楼「この石碑は俺が作ったんだよ。妹のために。」
胡蝶「妹?」
影楼「ああ。10年前に亡くなった、愛のために。」