【77話】お部屋でお花見
聖雷「…遅いなぁ。」
胡蝶が出ていってから2時間が経った。
マーリン「そうねぇ。」
聖雷「胡蝶ったら、1人でお花見してるんじゃないでしょうね?」
マーリン「何かに巻き込まれてないといいけど。」
マーリンが鏡を覗いた。
そこには、胡蝶と影楼の姿。
マーリン「…。」
マーリンは、それを見て察した。
聖雷「まだかなぁ。」
すると、玄関の方で音がした。
聖雷「あ、胡蝶!」
聖雷が玄関に駆けつける。
胡蝶「ただいまー。」
聖雷「胡蝶、遅いよー。」
胡蝶「すまないな。」
マーリン「おかえりなさい。」
胡蝶はマーリンに買い物の袋を渡すと、そっと耳打ちをした。
マーリン「分かったわ。」
胡蝶「頼む。」
すると、胡蝶はリビングを出ていった。
聖雷「…?」
マーリン「聖雷、一緒に掃除をしましょう。」
聖雷「掃除?いいよ。」
マーリン「3階の掃除よ。これ、買ってきてもらったから。」
マーリンは買い物袋から重曹を出した。
聖雷「やったぁ!掃除するぞ〜。」
聖雷とシユウは3階へ駆け上がる。
マーリン「ふふ、お二人さん、がんばってね。」
リビングの影から胡蝶と影楼が顔を出す。
胡蝶「ああ。」
影楼「おう。」
3階の廊下。
聖雷「うわぁ!」
棚を開けるとホコリが飛び出した。
聖雷「汚ったないなぁ。」
マーリン「暫くつかってなかったわね。」
聖雷「緋月の部屋もなかなか汚そうだし。」
マーリン「そうね。トイレからやりましょう。」
シユウが雑巾をくわえている。
マーリン「(この間に2人が頑張ってくれれば…。)」
*
影楼「よし、やるぞ。」
胡蝶「おう。」
影楼たちは、大きな袋からブルーシートを取り出した。
影楼「お花見会場に似せるには、まずはこれからだな!」
ブルーシートをリビングの床に敷くと、真ん中に木材を立てた。
胡蝶「固定はどうやってやろうか。」
影楼「任せろ。」
すると、影楼は木材の下に粘土を敷いた。
胡蝶「なるほど。」
影楼「これで滑らない。」
木材の上に実際にとった桜の木の枝を乗せ、桜の花も乗せた。
胡蝶「これ、もいで良かったのか?」
影楼「大丈夫だ。もう枯れかかる花だったからな。日持ちはしないが今日くらいは咲いてる。」
そして、大きな袋を取り出した。
影楼「いくぞ、せーの。」
2人で合わせて袋の中身を出した。
胡蝶「うわ。」
影楼「結構あんじゃねぇか。」
桜の花びらがひらひらと部屋に舞う。
胡蝶「全力で集めたぞ。」
影楼「でかした。」
こうして2人は、お花見会場の、桜の木を作り上げた。
影楼「あいつ、どんな反応すっかな。」
胡蝶「楽しみだな。」
*
聖雷「ふぅ、できた!」
3階の廊下が水で濡れてピカピカになっている。
マーリン「よくやったわね。さ、少し休憩しましょう。」
二人とシユウはリビングに降りた。
胡蝶「来たぞ。」
影楼「あぁ。」
2人が合図すると、リビングの前に聖雷たちが来た。
聖雷「ん?どうしたの?」
胡蝶「聖雷。これを見て。」
影楼と胡蝶はリビングの扉を開けた。
聖雷「え。」
そこには、桜の木があった。
大きなブルーシートの上に、小さな桜の木が1本立っていた。枝が生えていて、桜の花が咲いていた。
床には花びらが舞っていた。
聖雷「綺麗…!」
胡蝶「どうだ?」
聖雷「…どうして、これを?」
影楼「てめぇが満開の桜を見たことないって言ったからだろ。」
聖雷「言ったけど…。」
胡蝶「1度、見せてやりたいと思ってたんだ。」
ブルーシートの上に乗り、楽しそうに桜を眺める聖雷。
花びらであそぶシユウ。
マーリン「大した物ね。」
胡蝶「…あぁ。」
影楼「胡蝶がやるって聞かなかったんだぞ。」
胡蝶「提案をしてくれたのは影楼だ。」
花びらをすくってあそぶ聖雷。
聖雷「胡蝶、影楼くん!ありがとう!!!」
聖雷はとびっきりの笑顔を見せた。
*
マーリン「はい、できましたよ。」
マーリンが持ってきたのは、木の実パイだった。
聖雷「やったぁ!」
ブルーシートに座る胡蝶と影楼と緋月。
シユウは桜にじゃれていた。
緋月「なんか、本当の桜みたい。」
影楼「馬鹿野郎、本物だ。」
胡蝶「つくったにしてはいい出来になったな。」
マーリンから、次々と料理が運ばれてくる。
聖雷「あ、やったぁ!お団子もだ。」
マーリン「作っておいたのよ。」
聖雷「やったぁ!」
みんなでお花見をしながら食べる料理は、一段と美味しく感じられた。
聖雷「うぅーん、美味い!」
緋月「俺っちも食べるー!」
聖雷「桜みながら食べる木の実パイは最高に美味しいね。」
影楼「桜無くても一緒だろ。」
胡蝶「はぁ。」
お花見会場のように賑わう4人。微笑むマーリン。
マーリン「(…これで、聖雷も幸せね。)」
聖雷たちのお花見は夜まで続いた。
リビングに舞う桜の花びら。まるで本当の桜の木から落ちたように美しかった。