【7話】俺の家族と友達の家族
聖雷たちの宿に泊まってから数日後。
俺は区民プールに来ていた。
バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、クロール。
一通り泳いだので、プールサイドで休憩する。
小夜「(…体力が落ちたな。ちょっとの期間、泳がなかっただけでこれか。)」
久しぶりに泳いだからか、疲れるのが早かった。
プールを別に習っているわけではないので、自由に泳いでるだけだ。
泳いでいる間、少し考え事をしていた。
ここ最近、俺は同級生と会ったり、宿を見つけたり、猫がしゃべったり、色々なことがありすぎた。
今まで自分の見ていた世界がすべて崩れていくようで、どうも信じ難いことばかりだった。
そんなことを考えながら泳いでいると、時間はあっという間に過ぎていった。
すると、プールにアナウンスが流れた。
アナウンス《まもなく、閉館致します。》
小夜「もう閉館か。」
俺はプールサイドに上がり、タオルを取り、更衣室へと向かった。
*
更衣を終え、俺は自転車で家に帰る。
外へ出ると、太陽は落ち、昼のような暑さはもう無かった。
小夜「(涼しいな。)」
家に着いた。
中へ入り、自分の部屋に向かおうとすると、家政婦に呼び止められた。
小夜「どうしたの?」
家政婦「先程、奥様から電話がありまして。かけ直してくれませんか?」
母から電話があったようだ。家政婦は、電話の子機を渡してきたので、受け取った。
俺は、母に電話をかける。
小夜「…ママ、元気かな。」
3コール待ったところで、母が電話に出た。
母《もしもし。》
小夜「ママ。俺だよ。」
母《元気だった?》
小夜《ああ。ママこそ、仕事忙しいでしょ。元気?》
ママの声は、電話越しでも分かるくらいの嬉しさが伝わってきた。
母《元気よ。あなた、学校はちゃんと行ってる?勉強はついていけてる?》
小夜「うん…。学校は行ってないけど、勉強は大丈夫。自分でいつもやってるから。」
母《そう。良かった。》
小夜「ママは、仕事どうなの。忙しい…よね。」
母《まあね。来月までドラマの撮影もあるし、チョイ役だけど、映画も出るのよ。》
小夜「映画か。」
母は、比較的有名なテレビ女優。
事務所に所属していて、ドラマや映画などで活躍している。
それもあって、ほとんど家に帰れずにいる。
母《そう。大変なのよ。》
小夜「…次はいつ帰ってくる?」
母《まだわからないかな。今、海外なのよ。日本に戻れても家に帰れるかはわからない。》
小夜「そっか…。」
母《とと(父)は元気?》
小夜「会ってない。最後に会ったのは…いつかな。去年だったかも。」
母《元気だといいけど…。》
小夜「うん…。」
すると、電話越しにマネージャーであろう人の声が聞こえてきた。
母《ごめん。そろそろロケだから。電話切るね。元気でね。》
小夜「じゃあね…。」
母は電話を切った。
小夜「はぁ…。」
俺は黙って部屋に戻る。
正直、母に会えなくて寂しい気持ちがあった。
俺の両親はどっちも仕事が忙しく、ほとんど帰ってこないので、家政婦に家を任せていた。
小さい頃からずっと。
時々、両親が家にいれば、ちゃんと学校も通ってたのにと思うこともあった。
…でも、俺は両親がちゃんといる。
世の中には、片親だったり、親に裏切られた子供だってたくさんいるのだ。
そう考えると、俺は恵まれている方だ。
小夜「ひっきーたちは…どうなんだろうか。」
緋月は、親からの虐待だ。
噂でしか聞いたことがないが、学校で、緋月はいつも長袖を着ている。
夏服の制服姿は誰も見たことがなかった。
聖雷は、なぜ宿で暮らしているのかは分からないが、多分、それなりの理由があるのだろう。
友達の親と自分の親のことを考えると、俺は本当に恵まれていると感じた。
そんなことを考えていると、家政婦が部屋の前にやってきた。
家政婦「夕飯が出来ましたよ。」
小夜「はーい。」
家政婦はリビングにもどった。
これ以上家族のことを考えるのはやめよう。
そう思い、俺もリビングへ行った。