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僕たちは  作者: 猫眼鏡
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【60話】研究の協力


家政婦「おはようございます。朝食は出来てますよ。」

 

 リビングに降りると、テーブルの上にはトースト。眠い目を擦って小夜は起きてきた。

 

小夜「うーん…。」

 

 リビングのテーブルには、鏡餅。

 

小夜「…。」

家政婦「それ、可愛いでしょう?飾ったのよ。」

 

 そう、今は1月。

 新年を迎えて少し経ったときのことだった。

 

小夜「あー、そっか。正月か。」

家政婦「最近、あまり外にでていないでしょう?友達にでも会いに行ったら?」

 

 宿のメンバーとは、クリスマスあたりからずっと会っていなかった。

 

小夜「…そうだね。」

 

 小夜は朝食を食べ始めた。


*

 

 

 朝食を終えると、街へ出向いた。

 

小夜「寒っ。」

 

 風邪が少し強い日だったので、マフラーをして外へ出るが、やはり寒かった。

 

小夜「(…宿のみんな、元気かな。)」

 

 そんなことを考えながら、小夜は森の方向へ歩いていた。

 

 

?「…いた。あの子だ。」

 

 電柱の近くに佇む女の影。

 小夜のことを見ると、あとをつけるように歩いていった。

 

──────────────────────


 2時間前。

 

ローズ「みんな、今日からまた動き始めるけど、その前に注意事項がある。」


 水無月環境研究所の研究室。

 ローズはホワイトボードの前に立ち、レモンとマリーはそれを聞いていた。

 

ローズ「去年の冬にあったように、森になんらかの事件があった場合、必ず連絡すること。そして、すぐに現場に行こうとしないこと。」

マリー・レモン「はい。」

ローズ「年が明けてからは事務ばっかりであまり調査をしていなかったから、今日から頑張りましょう。」

 

 マリーとレモンは笑顔で返事をすると、外へ出る準備をした。

 

レモン「今から行くのは、街だけ?」

マリー「一応ね。」

 

 準備が終わると、ローズから指示をもらった。

 

ローズ「よし、あなたたち二人で、森に関わっている人に聞き込み調査よ。前も言ってたように、レモンが森で出会った少女だったり、近所の人に聞いて回って。よろしくね。」

レモン・マリー「はい。」

 

*

 

 2人は街へ出た。

 

マリー「よし、レモンくん。あたしは森の付近の人たちに話を聞いてみる。レモンくんは、裏側をお願い。」

レモン「うん!」

 

 マリーはレモンと別れた。

 手元の資料を見ながら、人の流れを眺める。

 

マリー「(レモンくんが会ったという少女…。いるかな。)」

 

 しばらくすると、街を歩く人の中で、資料の少女の情報に近い人を見かける。

 

マリー「!」

 

 薄いピンクの髪に、毛先が紫。森へ向かっていく小柄な少女。

 間違いなくあの少女だった。


マリー「…いた。あの子だ。」

 

──────────────────────


マリー「すみません、ちょっといいかな。」

 

 後ろから誰かが話しかけてきた。

 どうやら、自分の事だったらしい。

 

小夜「はい…?」

マリー「水無月環境研究所、研究員の小鮒真理と申します。私たちの研究に協力してくれませんか?」

小夜「…。」

 

 小夜は戸惑ったが、マリーの誠実な態度に、少しだけ話を聞くことにした。

 

*

 

 

 街中のカフェ。

 テーブルを挟んで、向かい合って座る。

 

マリー「いきなり申し訳ありません。あなたの話を聞いてみたくて。」

小夜「大丈夫です。で、研究というのは。」

マリー「そうね、じゃあ、始めるわ。」

 

 小夜は、少し警戒しながらマリーを見ていた。

 

小夜「(…やっぱり、この女の人は森を研究しに来た人だ。聖雷の兄と知り合い。あまり無闇に話しちゃいけないかもな。)」 

 

 すると、マリーはいくつかの画像をスマホで見せた。

 

マリー「近所にある、この森は知ってる?」

小夜「…はい。」

マリー「あなたはこの森に入ったことは…。」

小夜「あります。」

マリー「そうよね。実は、同僚があなたのことを見かけているの。」 

小夜「そうなんですね…。」

マリー「なんのために森に行ったの?」

小夜「遊びに行ったんです。」

マリー「遊びに?」 

小夜「はい。1人で森に行くのが好きなので。」

マリー「…じゃあ、あまり森のことについては知らないか…。」

 

 マリーは言葉を詰まらせた。

 

小夜「どうしたんですか。」

マリー「いえ、大丈夫よ。…あと、もうひとつ聞かせて。その森で、何かおかしなことは無かった。」

小夜「…ないと思います。いつも通りでした。」

マリー「不思議な感覚になったりしない?」


 小夜は思考を巡らせた。

 

小夜「(不思議な感覚…。研究員たちがくるのは、森にそれがあるからなのか?…だとしたら、宿の存在になにかしら気づいているということか…?)」

 

 マリーは真剣な表情をして質問をしていた。

 

小夜「(…この人が嘘をついているとは思えない。俺たちのことを少し疑っているようだな。)不思議な感覚…?感じたことないです。」

マリー「そうよね。…考えすぎかもしれないわ。」

小夜「…。」

マリー「…あまり、森へは近づかない方がいいわ。あと、これ。」

 

 マリーは、紙にメールアドレスを書いた。

 その紙を小夜に渡した。

 

小夜「え。」

マリー「もしなにかあったら、このアドレスに連絡ちょうだい。」

小夜「あ、はい。」

マリー「よろしくね。」

 

 マリーはそう言うと、珈琲を1口飲んだ。

 

小夜「あの。」

マリー「?」

小夜「森の、火事のことは知ってますか。冬におこった。」

マリー「ええ、なにか知ってるの?」

小夜「いや、ニュースで見ました。」

マリー「そうなのね。不思議な感覚のせいかしら…?」

小夜「?」

マリー「研究をし始めてからね、あの森から不思議な感覚がするのよ。調査しても、正体が分からないのよ。…それを探るためにあなたに力を借りたの。」

小夜「(そういうことか…。これは、マーリンさんに報告した方が良さそうだな。)…分かりました。」


 すると、マリーのスマホが鳴った。

 

マリー「あ。ごめんね、ちょっと待っててね。」

小夜「はい。」

 

 マリーが席を外した。

 

小夜「…。」

 

*

 

 夕方。森の中を走る小夜。

 やがて宿に着くと、リビングにいるマーリンを尋ねた。

 

小夜「マーリンさん!」

マーリン「あら、小夜ちゃんどうしたの。」

 

 マーリンは、お茶を飲んでゆっくりしていた。

 小夜はマーリンと対面するように座った。

 そして、今日あったことを全て話した。

 

小夜「…それで、いい情報を聞けた。」

マーリン「いい情報?」

小夜「うん。この森の研究を続けている理由が、ね。」

 

 小夜はニヤリと笑う。


小夜「まず、この森のことを調べているのは恐らく水無月環境研究所の研究員3名のみ。この間見たでしょう?そのうちの一人は聖雷の兄、檸檬さん。」

マーリン「そうね。」

小夜「目的は、単純に環境の調査だと思う。土とか、木とか。…でも、ただの調査だったら何回も、しかも研究員皆で森に来たりしない。」

マーリン「?」

小夜「今日話した研究員の話によると、この森は異様な空気が流れている。そう言っていた。」

マーリン「異様な空気?」

小夜「調査に来た時、俺たちが宿からの脱出とかを試みたでしょう?そのとき、マーリンさんの魔法を使ったから、変な雰囲気を感じ取ったんだと思う。」

マーリン「…成程ね。」

 

 2人は、お茶を飲みながら話した。

 

小夜「檸檬さんがここに来た時、機械が鳴ったでしょう?あれは恐らく、エラー。マーリンさんの魔法に反応したの。」

マーリン「…。」

小夜「…どうしたんですか。」

マーリン「魔法も、そろそろやめないとね。」

 

 マーリンは暗い顔をしていた。

 

小夜「無理にやめなくても大丈夫。でも、研究員たちはこの謎が解けるまでずっと求め続ける。…いつかは、この宿の存在を明かさないといけないかもしれない…。」

マーリン「…。」


 すると、リビングのドアを静かに開ける音。

 後ろを振り返ると、聖雷とシユウがいた。

 

聖雷「…。」

小夜「聖雷?」

聖雷「魔法、やめるの。」

小夜「え。」

聖雷「宿も、なくなっちゃうの?」

小夜「違う。まだ言いきれない。」

聖雷「…そっか。」

 

 聖雷は涙目だった。

 

聖雷「ごめんなさい…僕の兄ちゃんたちのせいで。」

マーリン「聖雷のせいじゃないわ。聖雷のお兄さんのせいでもないわ。」

聖雷「うん…。」


 マーリンは聖雷をなだめる。

 シユウも寄り添っていた。

 

*

 

 

 夜。

 森の中にある小さな山の頂上。

 マーリンは一人座っていた。

 

マーリン「…。」

 

 するとそこへ、誰かがやってきた。

 

?「マーリン。」

マーリン「…来てたのね。」

 

 二人は空を見ながら話をした。

 

?「……魔法をやめるのか。」

マーリン「いや、まだよ。まだやめるわけにいかない。」

?「やっぱり。」

マーリン「…でも、もう力は弱まっているわ。昔のように、鮮明にものを見たりはできない。」

?「そうか…。」

マーリン「…いつかは、この宿とさようならしないとね。」 

 

 マーリンは悲しそうな顔をしていた。

 月の光は、2人を照らしていた。

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