【57話】インフル・インフェクション
翌日の朝。
マーリンはいつも通り、朝食の準備をしていた。
聖雷「おはよー。(欠伸をしながら)」
マーリン「おはよう。」
聖雷がリビングに入ってきた。
聖雷「昨日の夜、あまり眠れなかったよ。」
マーリン「あら、珍しいわね。」
聖雷「なんか、胡蝶のことが心配になっちゃって。」
すると、マーリンが聖雷の異変に気づく。
マーリン「…聖雷。あなた、鼻声よ。どうしたの?」
聖雷「えっ?あー、昨日寒かったからね。なんか、鼻水出てきちゃって。」
マーリン「布団にくるまって寝ないとダメよ。2階はここより寒いんだから。」
聖雷「そうだね。ちゃんと布団かけるよ。」
マーリン「…ならいいけど。」
すると、緋月が起きてきた。
緋月「…おは、よう……。」
聖雷「あ、ひっきー、おはよう!」
聖雷が緋月の方を振り返った。
聖雷「え。」
緋月は、顔が火照っていて、だるそうにしていた。
マーリン「緋月ちゃん、まさか。」
緋月「なんか…、頭がガンガンするんだ。鼻水も止まらない……。」
マーリン「とりあえず、部屋で寝てなさい。ごはんは持って行ってあげるから。」
緋月「はい…。」
緋月は部屋へ戻った。マーリンは、少し焦った様子で聖雷たちの様子を伺っていた。
*
影楼の小屋。
影楼「…クソッ。」
ベッドの上に寝転がり、天井を眺める影楼。
遊びに行こうとしても、冬なのであまり迂闊に外へ出かけられないので、暇を持て余していた。
影楼「…冬だから、木の実はあまり収穫できねぇもんな…。」
すると、小屋のドアを叩く音。
それに気づいた影楼はベッドから起き上がり、ドアを開けた。
マーリン「影楼。」
影楼「あ?」
マーリン「…助けて欲しいのよ。」
マーリンを家にあげて、宿の現状をマーリンが話した。
影楼「…チッ。(舌打ち)」
マーリン「残念ながら、全滅よ。胡蝶から、緋月ちゃんに移って…。昨日から、聖雷も似たような症状で寝込んでる。」
影楼「んで、俺にどうしてほしいんだよ。」
マーリン「…ウイルスによく効く木の実をとってきてほしいのよ。」
影楼は少し考えた後に、立ち上がった。
影楼「…ったく。仕方ねぇな。」
マーリン「ごめんね。影楼。」
影楼「待ってろ。」
小屋を出た二人。森の中を一通り回り、木の実を収穫したあと、宿へ向かった。
*
宿のキッチン。
影楼「…こんなもんでいいか。」
マーリン「えぇ。」
鍋で木の実を煮詰める。
その横で食事を用意するマーリン。
マーリン「本当にありがとうね。」
影楼「おう。」
煮詰めた木の実を皿に分け、お盆へのせる。
影楼「…食わせてくる。」
マーリン「えぇ。」
影楼は、3人の部屋へ向かい、枕元へ煮詰めた木の実の皿を置いてきた。
マーリン「…影楼がいなかったら、私だめだったわ。」
影楼「まさか、マーリンさんがチタタプの実を知らねぇとはな。」
マーリン「実は、木の実の知識はあまり無いのよ。聖雷の方が詳しいから、こういう時に困っちゃう。」
影楼「…覚えときな。薬用の木の実だから、体調悪ぃ時に飲ませればだいたい良くなる。役に立つからよォ。」
マーリン「ええ。」
その後、影楼は3人の部屋を周り、体調の具合を聞いて行った。体温を測ったり、冷却シートを替えたり、精一杯看病をしてくれた。
マーリン「ふふ、影楼は本当に心配性ね。」
*
それから数日が経った。
マーリン「ふふふーん♪(鼻歌)」
朝食の準備をするマーリン。
すると、胡蝶たちが起きてきた。
胡蝶「おはよう。」
マーリン「あら、おはよう。」
聖雷「ふぁー、よく寝た。」
胡蝶は完全に回復し、聖雷も症状が落ち着いてきた。
聖雷「朝ごはん何?」
マーリン「ふふ、目玉焼きトーストよ。」
聖雷「やったぁ!」
聖雷は布巾を持ってテーブルを拭いた。
胡蝶「マーリン様、ご飯食べ終わったら掃除をしてもいいか?」
マーリン「えぇ、いいわよ。」
胡蝶「寝込んでて、全然やってなかったからな。」
すると、緋月が起きてきた。
緋月「うーん…。」
聖雷「あ、ひっきー!おはよう。」
マーリンが緋月に近づき、おでこに手を置いた。
マーリン「うん、問題なし。」
緋月「えへへ。下がったよ。」
マーリン「3人とも、落ち着いたようね。」
胡蝶「あぁ。」
聖雷「胡蝶は完治したり、僕は明日で完治かな。ひっきーはもう熱は無いからね!」
マーリン「一時期はどうなるかと思ったわ…。」
聖雷「…マーリンさんは移らないもんね。」
マーリン「でも、心配したのよ。」
4人は笑い合う。
緋月たちはテーブルの周りに座った。
緋月「かげろっちに無理やり食べさせられたやつ、めちゃくちゃ苦かった…。」
聖雷「あぁ、チタタプの実でしょ?」
緋月「なにそれ。」
聖雷「薬みたいな木の実だよ。」
胡蝶「俺も、苦くて水と一緒に飲み込んだ。」
緋月「水と一緒に飲んだんだ。俺っち、かげろっちがスプーン持って口に運んできてたから、そのまま食べたよ。」
聖雷「あはは。影楼くんらしいなぁ。」
3人が話していると、マーリンがトーストを持ってテーブルに並べた。
マーリン「はい。」
聖雷「わーい!」
緋月「ありがとう!」
3人「いただきます。」
3人は挨拶をしてトーストを食べる。
緋月「…そういえばさ。」
聖雷「?」
緋月「かげろっちは、最近来てないの?」
すると、キッチンからマーリンが顔を出した。
マーリン「…そうね。前は看病しに来てたんだけど…。」
*
その頃の影楼の小屋では。
影楼「クソが…。」
ベッドに横になる影楼。
頭の上には氷と水の入った袋。
小夜「影楼、できたよ。」
小夜は、ベッドの横に皿を差し出す。
中身は、チタタプの実を煮詰めたもの。
影楼「ありがと…ゴボッ!!(咳き込む)」
小夜「あぁ…。(慌てて)」
咳き込む影楼。背中をさする小夜。
影楼「くそ…。なんで俺が……。」
3人のインフルエンザが良くなるかわりに、影楼がインフルエンザにかかっていた。
誰から移ったのか。それはもう考えないことにしていた。
ウイルスとの戦いは、まだ少し、続きそう…。