【56話】体調不良
ある日の夜。宿のリビングにて。
緋月「かんぱーい!」
緋月はコップを片手に、みんなに乾杯をした。
聖雷「かんぱーい!」
胡蝶「…乾杯。」
影楼「しつけぇな。クソガキが。」
緋月「たまにはいいじゃない〜。」
影楼「チッ…。(舌打ち)」
テーブルを囲むように座り、料理を食べていた。
今夜はパーティのようだった。
緋月「乾杯って、面白いね。」
小夜「なんのお祝いでもないけどね。」
マーリン「365日どんな日でも、なにかしらのお祝いの日なのよ。」
聖雷「ということは、今日はなんの日なの?」
マーリン「そうねぇ…。苗が大きくなった日かしら。」
この日の午前は、皆で植た苗の様子を見に行っていた。ジョウロで水をやるのはもちろん、全員がその場に行くのは久しぶりのことだった。見に行った結果、前よりも苗が大きく成長していたのだった。
聖雷「えー、そんなの、毎日だよ。」
マーリン「うふふ。」
影楼「まぁ、誰かに荒らされてなかっただけマシだな。」
緋月「そうだね。」
皆、テーブルの上の料理を食べながら楽しそうに会話している。
緋月「このお刺身、あと1切れだけど食べていい?」
影楼「ちょ、ずりぃぞ。俺様とじゃんけんだ。」
小夜「これ、美味しいね。」
聖雷「朝一でとった木の実だからね。」
シユウ「にゃー。」
緋月と影楼はじゃんけんをし、小夜と聖雷は話しながら食べている。
その中、胡蝶はゆっくりと食べていた。
聖雷「あれ。胡蝶、今日はお刺身じゃんけん参加しないの?」
胡蝶「…あぁ。今日は大丈夫。」
聖雷「そう言ってると、あいつらに全部食い尽くされるよ。」
胡蝶「いや、いいんだ。」
聖雷「ふーん。」
影楼と緋月は取っ組み合いになっていた。
影楼「なんでてめぇが勝つんだよ…。」
緋月「やったぁ!かげろっち、じゃんけんよっわ〜い。(笑いながら)」
影楼「てんめぇ…!!!」
皿の上の刺身を影楼がとる。そして、咥えながら緋月から離れる。
緋月「あっ!」
影楼「ふん。」
緋月「待てーー!」
テーブルの周りで2人が追いかけっこをする。
聖雷「わぁ、やめてよ、二人とも。」
緋月「俺っちの刺身ー!!」
小夜「ひっきー、落ち着いて。」
胡蝶「(咳をする)」
なんとか宥める聖雷と小夜。微笑むマーリン。
聖雷「もう…。胡蝶、なんとかしてよー。」
胡蝶「おう…。」
胡蝶は、元気が無さそうだった。あまり食事をしていない気もしていた。
聖雷「胡蝶…?」
胡蝶が咳き込む。小夜が背中をさする。
小夜「胡蝶、大丈夫か。」
胡蝶「……あぁ。(弱々しく)」
聖雷「影楼くんたちが走り回るからだよ。」
二人が走るのをやめた。
緋月「ご、ごめん。」
影楼「…フッ。(刺身を食べながら)」
すると、マーリンが胡蝶の元へ近づく。
マーリン「ちょっとごめんね。」
マーリンは胡蝶のおでこに手を当てた。
マーリン「…熱は無さそうね。調子が悪いかしら。」
胡蝶「少し。」
マーリン「食べられそう?」
胡蝶「(首を横に振る)」
マーリン「それなら、もう今日は休んだ方が良さそうね。」
胡蝶の様子を見て、皆が静まった。
聖雷「…大丈夫?」
胡蝶「あぁ。問題な…」
再び咳き込む胡蝶。
緋月「あああ…、早く部屋に連れて行った方がよさそう。」
小夜「そうだね。」
小夜と聖雷は胡蝶を支えて部屋へ連れていった。
影楼「…あいつ、大丈夫か?」
緋月「昼までは元気だったのにね。」
マーリン「元気になるといいけど…。」
その夜、胡蝶は先に部屋で眠った。
夕食を終えると、マーリンは胡蝶の枕元に水を置いて皆が眠りについた。
*
翌日。リビングで朝食の準備をする聖雷とマーリン。緋月はテーブルを拭いていた。
そこへ、胡蝶がやってきた。
緋月「(胡蝶に気づいて)あ。」
胡蝶「おはよう……。」
胡蝶は顔は赤く染まり、ふらふらしていた。
マーリン「ちょっと、胡蝶?大丈夫!?」
マーリンは慌てて胡蝶の元へ駆け寄る。
胡蝶「…調子が良くないみたいだ。一度…病院に行こうと思う………。」
真っ直ぐ立つことが辛いのか、壁に手を置いていた。
マーリン「行きなさい。一人で行ける?」
胡蝶「……あぁ。…だが、…家に帰らないといけない。今日、行ってくる…。」
意識が朦朧としているのか、胡蝶はあまり目を合わせてくれなかった。
すると、玄関へ向かって歩き出した。
マーリン「本当に大丈夫?必ず帰ってきてね。」
胡蝶「……ああ。」
そして、胡蝶は宿を出ていった。
心配そうにしている緋月と聖雷。
聖雷「…胡蝶、昨日からちょっとおかしかったかも。」
緋月「風邪かな?」
マーリン「熱がありそうだったわ。病院まで無事行けるといいんだけど。」
*
緋月「ただいまー。」
宿へ帰ってきた緋月。
リビングから、聖雷たちの声が聞こえた。
聖雷・マーリン「おかえり!」
自分の部屋へ向かうために階段を上がる。
2階に来たところで、ふと胡蝶の部屋に目を向けた。ドアは閉まっていた。
緋月「…胡蝶、いるのかな。」
緋月は自分の部屋に荷物を置き、リビングへ帰ってきた。
緋月「ねぇ、胡蝶って帰ってきてるの?」
聖雷「うん。」
緋月「大丈夫だったんだね。」
聖雷「いや、それが…。」
マーリンは食器を拭く手を止めた。
マーリン「緋月ちゃん、それがね。胡蝶はインフルエンザだったのよ。」
緋月「え。」
緋月は驚いた。
マーリン「病院で検査しに行ったら、インフルエンザが陽性だったのよ。流行っているらしいから、不思議ではないけど、不運ね。」
聖雷「だから、部屋で寝込んでるよ。」
緋月「そうなんだ…。」
聖雷「すぐ元気になるよ。大丈夫。」
緋月「……そうだね。」
その日の食事を終え、夜になった。
心配になった緋月は、胡蝶の部屋を訪ねてみることにした。
緋月「…胡蝶?」
部屋の前で名前を呼んでみるが、返事はなかった。中をみると、眠っていた。
緋月「そりゃ、そうだよね。」
冷却シートをおでこに貼り、布団にくるまって寝ている胡蝶。
辛そうな感じだった。
緋月「…良くなりますように。」
緋月は胡蝶の部屋を出た。
緋月「くしゅん!!(くしゃみ)」
廊下に響く緋月のくしゃみ。
緋月「今日寒いな…。俺っちも、布団にくるまって寝よっと。」
緋月は自分の部屋に戻り、眠りについた。