【55話】再生の手助け
檸檬「ふぁ〜。(欠伸をする)」
水無月環境研究所。
朝の9時。檸檬は出勤した。
檸檬「おはようございます」
研究室のドアを開け、挨拶をしながら入った。
マリー「レモンくん…。」
研究室には、マリーが1人だけだった。
檸檬「ん?」
マリー「大変なことになってるの。ニュース見た?」
檸檬「いや。何があった。」
マリー「その…これ見て!(テレビを見せる)」
マリーは、檸檬の腕を引っ張り、テレビの前に誘導した。
テレビ《…朝のニュースです。昨晩、水無月区の森で、森林火災が起きました。》
檸檬「…え。」
檸檬はテレビに近づいて見た。
テレビ《12月5日金曜日の夜、「森から煙が出ている」という通報があり、近隣住民の間での消火活動が行われました。警察は、放火事件と見て捜索を進めています。》
檸檬が後ずさりする。
檸檬「嘘だ…。」
マリー「…本当よ。」
檸檬「記事はある?」
マリー「はい。」
机の上に置いてあった新聞を見せた。
檸檬「…。」
マリー「早めに消火してくれたから、森の一部だけで済んだ。」
檸檬「放火…。」
檸檬はショックを受けていた。
マリー「そうなのよ。放火。でも、犯人はまだ見つかっていないのよ。」
檸檬「…許せないよ。」
マリー「でも、罪に問われないのよ。あの程度じゃ。」
檸檬「?」
マリー「確かに、木が燃えた。でも、全焼でもないし意外と狭い範囲なのよ。捕まりはしない。」
檸檬「そんな!」
マリー「…今日、見に行ってみましょう。確かめた方がいいわ。」
ローズ「それはダメよ。」
後ろを振り返ると、ローズが立っていた。
檸檬「理事長!」
マリー「理事長、何でですか。」
ローズ「今は警察が捜査してるのよ。私たちが関与していい問題じゃない。」
マリー「でも…。」
ローズが資料を机に置いた。覗き込むマリーと檸檬。
ローズ「報道で発表されている現在の森の写真よ。」
写真には、黒焦げになった木。
檸檬「…。」
マリー「これはひどい…。」
ローズ「でも、思ったよりもダメージは少ないわ。まだ再生できる範囲。…良かったわね。」
檸檬「理事長。」
檸檬は不安そうな顔で言った。
檸檬「僕達がこの森を見ることが出来るのは、いつですか。」
ローズ「そうねぇ…。多分、捜査が終わったら大丈夫だと思うわ。1週間はかかるかもしれない。」
マリー「それでも、待とうよ。その間は情報集めね。」
ローズは、マリーと檸檬に肩に手を置いた。
ローズ「そうね。今出来ることを全力でやりましょう。」
*
一週間後。森の入り口の前で。
檸檬「…。」
マリー「少し入ったところよ。」
檸檬「森の外観は変わらないね。」
ローズ「入りましょう。」
森の中へ入っていく3人。少しすると、一部だけ木が無いところを見つけた。
檸檬「ここは…?」
そこは、不自然に木が無い場所だった。
すると、足元に柔らかい感触。
マリー「ん?」
下を見ると、色の違う土があった。よく見ると、苗が植えられた後があり、芽が出ていた。
檸檬「芽…?」
ローズ「もしかして。」
3人がまわりを見渡す。
ローズ「…ここが、火事の現場?」
現場だということに気が付き、驚く。
檸檬「木が…無くなってる?」
マリー「誰かが手入れしたのかな。」
マリーが土を触る。
マリー「これは…間違いなく人口の土のようね。それに、湿ってる。」
ローズ「再生活動を誰かがしたってこと。」
マリー「みたいね。」
檸檬「じゃあ、警察が…?」
ローズ「それはない。だとしたら…近所の人かも。」
マリー「こんなに本格的にやるかしら。」
ローズ「有り得なくはないわ。」
檸檬は辺りをくまなく調べていた。
檸檬「うーん…焦げているところとかは無さそうだね。でも、木の破片とかはある。」
ローズ「焦げた木を切り倒して、新しい苗を植えたってことね。」
マリー「なんか、いいような悪いような…。」
ローズ「まぁ、再生しようとしていることは良かったわ。私たちも、手助けをしましょう。そして、今後も研究を続けましょう。」
マリー・檸檬「はい。」
3人は、森の様子を観察した後、研究所へ戻って行った。
*
街の中。胡蝶は1人、歩いていた。
制服姿で、手にはスクールバッグ。
久しぶりに学校に行っていた。
胡蝶「(やはり、一度家に帰らなければならないか…。)」
学校帰り、あまり気が進まないが、荷物を置きに家に帰ることにした。
胡蝶の家。
玄関の前に立ち、すりガラスの向こうを眺める。
胡蝶「…やはり、いるか。」
胡蝶は躊躇いつつも、玄関のドアを開けた。
胡蝶「…ただいま。」
すると、中から母が出てきた。
母「暦ちゃん!」
母はいきなり胡蝶のことを抱きしめた。
胡蝶「ちょ…っと。」
母「会いたかったわ。おかえり。」
胡蝶はあまりいい顔をしなかった。
*
自分の部屋に荷物を置き、母に連れられ、リビングの椅子に座る胡蝶。
母は上機嫌で、キッチンで夕飯の準備をしながら話をしていた。
母「本当に、帰ってきてくれて良かったわ。心配したのよ。今日のご飯は、カレーよ。あ、そうだ。お隣さんからもらったお饅頭もあるのよ。暦ちゃんのために、5つももらっちゃった。あとで一緒に食べましょう?」
胡蝶「母さん。」
母「ん?どうしたの。…お腹が空いちゃったの?それなら、向こうの棚に羊羹があるわよ…」
胡蝶「母さん。」
胡蝶の態度に母が気づく。
胡蝶「…母さん。今日は、帰ってきたんじゃない。ただ、荷物を置きに来ただけだ。だから…」
母「どうしてあなたはいつもそうなの。」
夕飯の準備をしていた母の動きが止まる。
胡蝶「言っただろう、もう家には戻らな…」
母「私があなたをどれだけ心配したと思ってるのよ!」
母は、鬼の形相で胡蝶を怒鳴った。
胡蝶「…。」
胡蝶の肩を掴み、問い詰めていた。
母「どうして、帰ってこなかったの。父さんが良かったから?私が嫌だったから?ねぇ、暦ちゃん。」
胡蝶は母のことを睨んでいた。
母「ねえ、なんで分かってくれないの。あなたのことを、こんなにも愛しているのに。あなたはなにもしてくれない。」
ヒステリックに喚いていた。母は声を出して泣いていた。
胡蝶は、逃げるように家を出た。