【54話】空斗の決心
シユウと会ってから1年が経った。
シユウ「にゃー。」
聖雷「シユウ!」
僕は6歳になるところだった。
幼稚園では年長さんになって、いよいよ来年から小学生。
聖雷「シユウ、これ、あげる。」
森の中。僕とシユウが一緒にいられる秘密の場所。
幼稚園が終わると、真っ先に森へ向かった。
シユウ「にゃ?」
僕はシユウに花で作った冠をかぶせた。
聖雷「えへへ、シユウかわいい。ようちえんでつくったんだ。」
シユウは冠にじゃれて遊んでいた。
聖雷「ようちえんにね、アネモネってお花がさいてるの。とってもきれいなんだよ。」
すると、シユウが僕のことをじっと見つめてきた。
聖雷「…どうしたの?」
シユウ「…。」
シユウは、冠を口に咥え、森の奥へ歩いていく。
少しふりかえり、僕のことを見た。
聖雷「…?」
「ついてこい」と言っているような気がして、僕は後を追いかけた。
*
聖雷「シユウ〜?どこまでいくの?」
しばらく歩くが、シユウは止まる気配がない。
そして、森の中でも僕が来たことがないところまで来た。
聖雷「どこ、ここ。」
シユウ「にゃぁ。」
さっき、シユウと会った場所よりも遥かに離れた場所に来ていた。
そして、目の前には太くて背の高い木。
森で見た木の中でも、1番立派で大きかった。
聖雷「…。」
すると、大きな木の奥から、誰かが出てきた。
僕は驚き、思わず目を瞑った。
聖雷「ひっ…。」
恐る恐る目をあけると、そこには、大きな猫が座っていた。
聖雷「え…。」
紫色の毛に、長い尻尾。ピンク色と水色の帯を纏った、大きな猫。
シユウ「にゃぉん。」
大きな猫は、僕を見て、にっこりと笑っていた。
聖雷「…シユウのおともだち?」
シユウ「にゃー。」
大きな猫は、シユウよりも大きかった。多分、大人の猫さんなのかな。
よく分からないけど、不思議な感じがした。
大きな猫「にゃぉーん。」
僕は、紫色の大きな猫と出会った。
この出会いが、僕の今後の人生を大きく変えることになった…。
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*
空斗「聖雷兄ちゃん、ひっきー兄ちゃん。」
聖雷たちのいるリビングに、空斗が駆け寄ってきた。
聖雷「空斗くん?」
空斗「……伝えたいことがあるんだ。」
空斗は力強く手を握った。
空斗「僕、ここで暮らす。」
聖雷・緋月「!?」
空斗「決めたんだ。」
後ろから園長が歩いてくる。
園長「空斗くんと、お話したのよ。」
聖雷と緋月は空斗のことを心配そうに見つめた。
空斗「…聖雷兄ちゃん、ひっきー兄ちゃん。」
聖雷「…。」
空斗「助けてくれて、ありがとう。」
空斗は満面の笑みで二人にお礼を言った。
聖雷と緋月は空斗に抱きついた。
聖雷「空斗くん…。よかった。」
緋月「…強くなるんだぞ。」
空斗は、孤児園に引き取られることになった。
初めて会った時の姿とは比べ物にならないくらいに笑っていた。
園長は優しく見守っていた。
*
孤児園の玄関前。
園長と空斗が緋月たちを見送る。
緋月「今日はありがとうございました。」
園長「いえいえ、また来てちょうだいね。」
聖雷「うん!」
すると、空斗が2人の前へ歩いていった。
空斗「僕が大きくなったら、兄ちゃんたちとまた会いたいよ。」
聖雷「ふふ、そうだね。」
聖雷は空斗の頭を撫でた。
空斗「…僕、もう泣かないから。強くなるから。………だから。」
緋月が空斗の手を握る。
緋月「待ってるぞ。」
緋月と聖雷は孤児園を出た。
空斗と園長は手を振っていた。
空斗「……ありがとう。兄ちゃんたち。」
*
帰り道。森の中を歩く緋月たち。
緋月「空斗くん、喜んでたね。」
聖雷「…うん。」
緋月「園長さんも、嬉しそうだった。」
聖雷「…そうだね。」
そして、新しく木を植えたところまで来た。
聖雷「…。」
聖雷は今日植えた、苗をなんとなく見ていた。
緋月「…後悔してる?」
聖雷「そんなことない。」
緋月「じゃあ、どうしたの。」
聖雷「ただ…。」
緋月が聖雷のことを察した。
緋月「…昔のことを思い出したんだね。」
聖雷「……うん。」
辺りはオレンジ色に変わっていった。
近くの石に腰掛け、二人は話をしていた。
聖雷「…僕は、シユウと、マーリンさんと出会って人生が変わったんだ。孤児園もそうだけど…。でもあのままずっと孤児園にいたら、どこかの里親が僕を引き取ってくれていたかもしれない。」
緋月「そうだね。」
聖雷「空斗くんは、どうなっちゃうのかな…。」
緋月は聖雷の目を真っ直ぐ見た。
緋月「そんなの、誰にも分からないよ。」
聖雷「…。」
緋月「空斗くんの命を救うことが出来た。それだけでも、いいじゃんか。」
聖雷「…。」
緋月は聖雷の肩に手を回した。
緋月「…不安なのは分かる。でも、俺っちたちは応援することしかできない。だったら、全力で見守ろうよ。ね?」
聖雷は笑顔になる。
聖雷「…そうだね。」
すると、緋月は立ち上がり、近くにあったジョウロを持った。
緋月「よし、空斗っちのためにも、早く森を再生しないとな〜!」
聖雷「…そうだよね。空斗くんが大きくなった時に森が元通りになってないと、悲しいもんね。」
緋月「聖雷っち、わかってる〜。」
苗に水をあげる緋月。
それを見て、聖雷も手伝った。
二人はまた、森の再生に向けて頑張ることにした。