【6話】喧嘩腰の再会
電車の中。
吊革に掴まり、高校のパンフレットを見ていた。
緋月「高校かぁ。めんどくさいなぁ。」
聖雷たちの宿に泊まってから数日後。
俺っちは、夏休みの宿題として、とある高校の説明会に参加するため、電車で向かっていた。
夏休みの宿題ではなくても、高校には行けと母から言われていたので、結局説明会に参加せざるおえないんだけどね。
そう思いながら、高校までの道のりをパンフレットで確認していた。
アナウンス《次は〜志麻〜。志麻〜。》
俺っちは、志麻駅で降りた。
駅の改札を通り、出口から外へ出ると。
緋月「うわぁ…。」
高層ビルが立ち並んでいた。
緋月「迷いそうだな…。」
パンフレットの地図を頼りに、志麻高校まで向かった。
*
高校の正門の所で先生に挨拶をし、中へ入った。
受付を済ませ、資料をもらい、説明会の教室へ案内された。
教室に入り、中の椅子へ座る。
説明会には、かなりの人数が来ていたが、知ってる友達なんて一人もいなかった。
…はずだった。
俺っちは、さっき配られたパンフレットを見た。
緋月「(うーん…。授業に実習が多いな。うわ、マジかよ。英語の分厚い本を翻訳する授業があるの!?…あ!でも、修学旅行がハワイだ!でも学費が高いなぁ、どうしよう。)」
そうこうしているうちに、説明会が始まった。
学校の紹介やら、受験の情報やらがモニターに映像で映し出される。
俺っちは半分聞いていなかった。
ふと、壁に貼ってあるポスターに目を向けた。
その瞬間、あることに気がついてしまった。
ポスターの壁の前に座っている人。
その人に見覚えがあった。
緋月「あ。」
長い髪に鋭い目。一見、女の子のような見た目をしている。
小学校の頃の友達だった。
そいつは、こっちに気づいていないみたいだった。
緋月「まさか、あいつ。この高校狙ってんのか?」
*
説明会が終わって教室を出た。
そして、さっき見かけたあいつを驚かせようと考えた。
緋月「(後ろからだーれだってやってやろ!)」
俺っちは、そいつを後ろから目隠しした。
そいつは、慌てた様子で抵抗した。
緋月「だーーれd」
?「糞が。」
俺っちはそいつの目を隠しながら固まった。
?「糞って言ってるんだ。」
そいつは俺の手を振り払う。
俺っちはそいつと顔を合わせた。
?「やはり。予想通りの糞だった。」
ああ、やっぱり変わんねぇな。こいつは。
緋月「大当たり。お前となんか会いたくなかったんだけどねー。」
?「俺もだ。気色悪い。」
緋月「なんだ?おい。気色悪いって言ったか?馬鹿野郎!!」
俺っちの友達。…ではあるけど、お互いがお互いを嫌っている。
こいつは胡蝶。一応男だ。
女装をしているが、本人の意思ではない。
胡蝶「廊下で騒ぐな。今すぐ失せろ。」
緋月「ばーか!ばーか!」
とりあえず、俺っちたちは外に出ることにした。
街の中、多少距離を開けて歩く俺と胡蝶。
胡蝶「ついてくるな。」
緋月「ついてってねーよ。俺っちもこっち行く用があるの。」
胡蝶「貴様の用など知らぬ。遠回りすればいいだろう。」
緋月「やだね。そっちが遠回りしろ!」
胡蝶「(イライラ)…。」
お互いイライラしながら同じ道を歩く。
次第に歩く速度が早くなっていく。
緋月「競ってんじゃねぇよ。」
胡蝶「貴様こそ。俺はこれが普通のスピードだ。無理してるんじゃないか?」
緋月「(イライラ)…。」
しばらくこの戦いは続いた。
街の中、喧嘩腰で早歩きで歩く2人がいたので、周りの目が痛かった。
俺っちは体力の限界で、立ち止まった。
緋月「もう無理…。」
胡蝶「はぁ…。」
胡蝶も疲れて果てていた。
緋月「調子に乗るからだ。」
胡蝶「貴様こそ。」
俺っちたちは近くの椅子に座った。
並んで座ったが、ちょっと距離を開けていた。
緋月「疲れた…。」
胡蝶「…。」
少し休んで、息が整ったところで。
胡蝶「…お前、今学校行ってんのか。」
緋月「…は?」
胡蝶「だから、」
緋月「今は夏休みですー。学校ありませーん。(煽る)」
胡蝶「違う。普段の話だ。」
胡蝶は、いつもより落ち着いて話していた。
緋月「…行ってない。」
胡蝶「…。」
緋月「高校は行かないとまずいけど。」
胡蝶「…親か。」
間。
緋月「あーあ。ばれちったか。」
胡蝶「やはり。」
緋月「胡蝶はやっぱ、俺っちのことよく分かってるね。大好きなんだね。」
胡蝶「それは違う。」
緋月「胡蝶は学校行ってる?」
胡蝶「…。」
間。
緋月「行ってないんだ。」
胡蝶「…ああ。だが、剣道は続けてる。」
緋月「父の?」
胡蝶「そう。」
緋月「まだやってたんだ。」
胡蝶「ああ。」
緋月「胡蝶のお父さんとは、まだ別居?」
胡蝶「ああ。…正直、今後も同居はできないと決まっている。」
緋月「母か。」
胡蝶「ああ。隠れて着替えてはいるんだが。」
緋月「うーん。」
胡蝶「家を出る時はこの格好だ。」
緋月「反抗しても無駄なんだ。」
胡蝶「パニックになるからな。そうなると、俺でも手をつけられない。」
緋月「…大変だな。」
俺っちは、胡蝶といっぱい話した。
久しぶりだからというのもあるのか、比較的素直に話し合えた。
あっという間に日が暮れてきた。
緋月「いっぱい話したね。」
胡蝶「ああ。」
胡蝶が時計を確認した。
胡蝶「そろそろ俺は失礼する。」
緋月「わかった。」
胡蝶「…有難う。」
胡蝶がベンチから立つ。
緋月「…胡蝶、笑ってたね。」
胡蝶が俺っちと顔を合わせる。
胡蝶「…ああ。おかげさまで。」
胡蝶が俺っちに背を向け、去っていった。
帰る時に、チラッと顔が見えた。
笑っているような気がした。
緋月「胡蝶の奴。…相変わらずだな。」
俺っちは家に帰ることにした。
胡蝶と話してたら、自分の嫌なことが何ともない気がしてきた。
*
家着いた。玄関のドアを開けた。母の靴があつた。やけに静かだった。
母はまだ寝てるのだろう。
静かに靴を脱ぎ、部屋に上がった。
緋月「…ただいま。(小声で)」
家の中は、いつも以上に荒れていた。
紙や、ものが床に散乱している。
その状態で、俺っちは全てを理解した。
緋月「(…まずい。)」
すると、奥の部屋から母がでてきた。
怒りに満ちた、母が。