【52話】新しいおうち
七星聖雷、0歳。
僕の家族は、街の中の小さなアパートで暮らしていた。この日は、母がお出かけに連れていってくれるらしい。
母「透夜。早く支度しなさい。」
透夜「うん!する!」
僕が0歳の時、兄の透夜(檸檬)は3歳。母の言葉でかばんを取りに行った。
すると、赤ん坊の聖雷が泣き出してしまった。
母「あらあら、聖雷。」
母が僕をあやした。すぐに泣き止んだ僕は、母に抱き抱えられ、透夜と手を繋ぎ、外に出た。
外は人でいっぱいだった。
透夜「ママー、いっぱい。」
母「そうね。いっぱいね。」
母は、透夜から目を離さないように注意深く見ていた。
やがて、僕達は街のはずれに来た。
透夜「ママー、すべりだい?」
母「違うわ。今日は公園じゃないの。」
透夜「ブランコ?」
すると、母が足を止めた。
目の前には、小さな家。
ドアの横のインターホンを鳴らすと、1人の女性が出てきた。
母「うちの子をよろしくお願いいたします。」
そう言うと、僕をその女性に渡した。
女性「あなたが聖雷くんね。よろしくね。」
僕は母のところへ戻りたくて、必死に足をバタバタさせた。泣き叫んだ。
しかし、ママは振り返ってくれなかった。
*
女性「お誕生日おめでとう。」
僕の目の前には大きなケーキ。ろうそくが1本立っていた。
透夜「おめでとう!!」
透夜が覚えたばかりの拍手をしている。
女性「聖雷くんは、1歳になったんだね。ここへ来てからも1年、素敵な記念だわ。」
僕がおばさんとお兄ちゃんと暮らすようになってから1年。
まだママは帰ってこなかった。
僕がろうそくの火を消すと、部屋の明かりが点く。
女性「はーい、お上手だったわ。ケーキ切るわね。」
おばさんは、キッチンへ向かった。
透夜「せいらは1さい。ぼくは4さい。どれくらいちがうのかなぁ。」
透夜は、もう4歳になっていた。
来年から、ようちえん?に通うらしい。
女性「はーいできたよ。聖雷くん。いただきますしようか。」
*
透夜「ただいまー!!」
透夜が帰ってくると、真っ先に僕のところに来た。
透夜「せいら、ただいま。」
聖雷「おかーり。」
透夜は、幼稚園でつくった工作を見せてくれた。
透夜「ぼくね、これつくったんだ。かっこいいでしょ?」
聖雷「うー。」
作品を持って廊下を駆け回っていた。
すると、おばさんが来た。
女性「透夜くん。ちょっといいかしら。」
透夜「えんちょ!これつくったの!」
透夜が最近、おばさんのことを「えんちょ」と呼び出した。
園長「上手ね。飛行機?」
透夜「よく飛んでるんだよ。」
園長「そう。…透夜くん、おいで。」
えんちょに抱き抱えられる透夜。
僕もついて行って見ることになった。
孤児園のリビング。
透夜は子供椅子に座っていた。
聖雷「うー?」
えんちょの前に座っているのは知らない女性と男性。
園長「…えぇ。この子は七星透夜くんです。先日、5歳になったばかりでして。元気な男の子ですよ。」
女性「ふふ、こんにちは。(透夜に)」
透夜は黙って女性のことを見ていた。
女性「まだ、慣れないわね。ごめんね。ちょっとずつ、慣れていきましょう。」
男性「それで、園長さん。明日12:00に受け渡しですね。」
園長「はい。よろしくお願いいたします。」
すると、女性と男性は帰っていった。
透夜が僕に気づき、椅子から降りて近寄ってきた。
透夜「せいら!」
透夜の声に気づき、園長が近寄ってくる。
園長「あら、聖雷ちゃん。こんなところにいたの?」
透夜「ぼくについてきたんだよ。」
園長「それはよかったわね。向こうで遊んできなさい。」
透夜「はーい!!」
僕は透夜に連れていかれた。
…さっきの話は何だったんだろう。
その時の僕は何もわからなかった。
翌日。
僕が起きると隣に透夜はいなかった。
聖雷「にいちゃ?」
僕は透夜のことを探した。お庭にも、おトイレにも、ともだちのお部屋にもいなかった。
すると、園長先生が僕のことを呼んだ。
園長「聖雷くん。」
園長は僕のことを抱き抱えた。
リビング。
透夜と昨日の見知らぬ女性と男性がいた。
園長「透夜くん。」
透夜「あ、せいら!」
園長が僕のことを降ろすと、透夜が抱きついてきた。
透夜「せいら、きょうはかくれんぼできなくてごめんね。」
聖雷「にいちゃ。」
透夜は僕のことを撫でた。
園長「…そろそろ、お願いいたします。」
すると、園長が再び僕のことを抱き上げた。
女性「ありがとうございました。」
透夜が、女性と男性と手を繋いだ。
透夜「せいら、ぼく、ママとパパとおでかけしてくるね。」
そう言うと、3人は玄関へ向かっていった。
聖雷「にいちゃ!にいちゃ!」
その頃の僕は、お兄ちゃんと離れたくなかった。
ママと同じように、帰ってこなくなる気がした。
園長が僕のことを落ち着かせるために、必死にあやした。
僕はずっと泣いていた。
そして、孤児園の扉が閉まった。
僕がおばさんとお兄ちゃんと暮らすようになってから2年。
お兄ちゃんに家族ができた。
やっぱりママは帰ってこなかった。




