【51話】同じ境遇の子供たち
宿のフロア。
マーリン「何となく話は分かってるわ。」
聖雷「助けたいんだ。連れて行ってもいいかな。」
マーリン「断る理由もないわ。行きなさい。」
聖雷と緋月は喜ぶ。マーリンは少し不安そうに笑った。
聖雷「じゃあ、孤児園に行ってくるよ。」
聖雷と緋月は宿から出ていった。
マーリン「…本当に、大丈夫なのかしら。」
*
小夜「聖雷って、孤児園出身なの?」
胡蝶「あぁ。」
小夜「知らなかった。」
胡蝶「確か、兄と一緒に孤児園で暮らしていたが、兄が里親に引き取られて、聖雷が残されたとか。」
影楼「…知らなかった。」
胡蝶が少し驚く。
胡蝶「影楼でも知らないのか。」
影楼「…あんま話したことねぇからな。つか、聖雷自身も過去を話すような奴じゃねぇ。」
小夜「そうだね。」
空斗は黙って話を聞いていた。
空斗「…僕と、同じなのかも。」
全員は空斗の方を見た。
空斗「ママとパパがいなくて、おうちが無い…一緒なのかも。」
小夜が優しく空斗に話す。
小夜「そうだね。」
すると、聖雷と緋月が戻ってきた。
小夜「ひっきー、聖雷。」
空斗「…。」
聖雷は空斗の目を見る。
聖雷「これから、僕のお世話になったところに行こうか。」
空斗「…。」
聖雷「お庭も、おうちも、家族も、全部あるよ。」
空斗「…本当?」
聖雷「うん!」
空斗「死ななくても、いいの。」
空斗を真っ直ぐ見つめる聖雷。
聖雷「死ぬ必要なんてない。絶対。だから、一緒に来て。」
空斗「……うん。」
*
街から少しはずれたところ。周りには木や住宅が立ち並んでいた。
その中にぽつんとある、柵で囲まれた小さな家。
孤児園「こねこはうす」に到着した。
緋月「ここが、孤児園。」
孤児園の門の中に入った。
民家のような家の横には、広い庭のようなものがあった。子供の声が聞こえた。
聖雷「懐かしいなぁ。」
緋月が横を見ると、空斗は暗い顔をしていた。
空斗「…。」
緋月「大丈夫だよ。」
空斗「…うん。」
緋月は空斗の手をしっかりと握り、ドア横のインターホンを押した。
すると、中から1人の女性がでてきた。
女性「はーい…」
聖雷「お久しぶりです。園長。七星聖夜です。」
園長「…聖雷?」
聖雷「うん!!園長、お久しぶり。」
園長はかなり驚いた様子だったが、聖雷ということがわかるとすぐにハグをした。
園長「元気だった?」
聖雷「うん!」
園長は緋月と空斗に目を向けた。
園長「そちらの方は?」
聖雷「…友達のひっきーと、この子は空斗くん。」
空斗が頭を下げる。
聖雷「実は園長に相談があって、ここに来たんだ。」
園長「…とりあえず、入って。話を聞くわ。」
園長に連れられて孤児園の中へ入る3人。
*
孤児園のリビング。
園長からの提案で、空斗を外で遊ばせることにした。
園長と緋月と聖雷は椅子に座って、話を始める。
聖雷「急に押しかけてごめんなさい。」
園長「いいのよ。ちょうどお昼ごはんが終わったところだし、子供たちもあそんでいるところだわ。」
園長は3人分のお茶をいれていた。
園長「聖雷は、元気?今何してるの?」
聖雷「元気だよ。まだ友達の宿で暮らしてるよ。」
園長「働いてるの?」
聖雷「うん。仲良くやってるよ。宿には、ひっきーもいるんだ。」
聖雷がひっきーの紹介をする。
緋月「えへへ。」
園長「あら、聖雷をよろしくね。ひっきーちゃん。」
テーブルにお茶をおいた。
園長「話を逸らしてごめんね。相談って。」
聖雷「空斗くんを、引き取って欲しいんです。」
園長「空斗くんを。」
緋月「はい。…俺っちたちは、親じゃないけど。」
聖雷と緋月は今日起きた出来事を細かく話した。
園長「…そんなことがあったのね。」
聖雷「どうしても、空斗くんを救いたくて。」
園長はお茶を飲みながら話した。
園長「その気持ちは凄くわかるわ。空斗くんも、それで助けられると思う。…でも、あの子がここでやって行けるかよ。」
緋月「…。」
園長「今の孤児園は、空斗くんと同じくらいの子供もたくさんいる。大半が親に捨てられた子なの。空斗くんと同じ境遇の子ではあるけど、本人の覚悟も必要よ。」
聖雷「…そうですよね。」
園長「あなたも、最初は不安だったでしょう?」
聖雷「…。」
窓を見ると、庭が見えた。
庭には、空斗が施設の子と遊んでいた。
聖雷「空斗くん…。」
緋月「楽しそうだね。」
聖雷「…。」
園長「自殺をしたいほど追い詰められても、無邪気な子供ってことには変わりないようね。」
空斗は、元気に走っていた。笑顔だった。
園長「一度、本人と話してみないとね。ここで引き取るのか。」
聖雷「…そうですね。」
園長は立ち上がり、空斗と話しに庭に行ってしまった。
緋月「…聖雷っち。」
聖雷「ん?」
緋月「俺っち、聖雷のこと、なにも知らなかったよ。孤児園で暮らしてたことも。」
聖雷「…。」
子供たちと園長が戯れる。空斗も一緒になって遊んでいた。
聖雷「…話さないとね。ちゃんと。」
聖雷がお茶を1口飲み、ゆっくりと話し始めた。
聖雷「僕は、母に捨てられて、この孤児園に引き取られたんだ。」