【44話】パパを探しに
小夜の家。
机に向かって勉強をしていた。
小夜「…。」
黙々と勉強を続ける小夜。
すると、玄関の方から声が聞こえてきた。
家政婦「あら、おかえりなさいませ。」
?「ただいまー!」
その声にはっとする小夜。
小夜「ママ?」
部屋を出て、玄関に向かって階段を降りた。
?「元気?」
家政婦「ええ。(小夜に気づいて)あ、来た。」
大きなキャリーバッグを持ち、サングラスにつばが広い帽子を被った女性がこちらを見ていた。
小夜「ママ。」
それは母だった。
母「久しぶり。長い間、顔出せなくてごめんね。」
*
リビングのテーブルに並べられた料理。今日2人分もあった。
母・小夜「いただきます。」
家政婦「召し上がれ。」
挨拶と同時くらいに食べ始める母。
母「美味しい。やっぱり、木室さん(家政婦)の料理は最高。」
家政婦「そう言ってくれると助かるわ。」
小夜「…なんか、久しぶりだね。こうやってママと一緒にご飯食べるの。」
母「そうだね。…帰って来れなくてごめんね。」
小夜「ううん、大丈夫。」
母「あ、そう言えば。月曜の10時からのドラマ観てる?清村紀辰が主演のやつ。」
小夜「あー、観てないや。」
母の箸が止まる。
母「もう、いっつもそうよね。ま、無理に観る必要ないけど。今回は脇役だけど頑張ったのよ。」
小夜「どんな役?」
母「主人公のよく行く定食屋のお姉ちゃん。後半の方になると深く関わるようになってくるんだから。」
小夜「機会があったらみておくよ。」
母は笑いかけた。
母「あと、映画も近々公開されるの。」
小夜「映画?」
母「まだ先の話だけどね。一緒に観に行きましょう?」
家政婦がトレーを持ってやってくる。
トレーの上にはおかず。
家政婦「遅くなってすみませんね。こちら。(おかずの皿をテーブルに置く)」
小夜「あ、昨日の。」
家政婦「昨日、手伝ってもらってつくったのよ。」
母「やるじゃん。」
家政婦「最近、夕食の準備を手伝ってくれるのよ。本当に助かる。」
母「学校はちゃんと行ってる?」
小夜「うん。前よりは。」
母「良かった。」
母がテレビを付ける。
小夜「この前、音夢が家に来たよ。」
母「音夢、元気?」
小夜「うん。」
母「パパとは会ってる?」
小夜「いや。」
家政婦がキッチンから会話に加わった。
家政婦「せっかくの機会だし、二人で会ってきたらどうでしょう?」
小夜「え。」
家政婦「結依さん(小夜母)は、明日までお休みでしょう?二人で病院に会いに行ってはいかが?」
二人が顔を見合わせる。
母「…そうだよ!こっそり行って驚かそう。ね?」
小夜「お、おう…。」
母がごちそうさまをして、足早にキッチンへ向かい、食器を片付けた。
仕方なく小夜も母についていった。
*
家政婦「随分とご機嫌ね。」
母「ええ。」
3人は、街中を車で走っていた。
運転席には家政婦。助手席には母。
小夜「白駒総合病院ってどこだっけ。」
母「もう少し進んだところを右。大通り沿いよ。あんた、忘れたの?」
小夜「いや…。」
母は頗るご機嫌だった。
しばらくすると、病院が見えてきた。
母「あそこ、止めて。」
駐車場に車を止め、病院の中に入ろうとする母と小夜。
家政婦「頑張ってね。」
小夜「うん。待っててね。」
母「早く行くよ。」
母に連れられて中に入るが、あることに気づく。
母「…。」
小夜「?」
母「やばい。忘れた。」
母はすぐに車へ巻き返した。
小夜「ああ、そういうことか。」
母は忘れ物をしていた。しかも、結構大事なものを。
小夜「(それがないと、大変なことになるもんね。)」
車へ戻った母。
母「ごめん。サングラス、忘れちゃった。」
家政婦「やっぱりね。結依さん、有名なんだから気をつけてくださいね。」
母「木室さんのいうことはいつもごもっともですね。」
忘れていたサングラスをすぐに身につけ、車を出ようとした。
しかし、家政婦に止められた。
家政婦「お嬢様、前より明るくなったでしょう?」
母「…そうね。木室さんのおかげよ。」
家政婦「私はなにもしていないわ。…未だに、名前を呼ばれるのは好きじゃないみたいだけど。」
母「…そっか。」
沈黙。
母「…行くね。」
家政婦「あの子のこと、大切にしてやって。」
母「…。」
家政婦「お願い。」
母「分かってるわ。絶対手放さないわよ。」
母が車のドアを閉めた。
母「…乱夢。」
病院の入口。
椅子に腰掛ける患者の前を通る小夜。
小夜「うーん、どこだろ、パパ。」
受付をしていた看護師に話しかける小夜。
看護師「茉莉衣 陽介ドクターですね。今は入院中の患者の手当をしていると思います。」
小夜「ありがとうございました。行ってみます。」
看護師から情報を聞き、別の棟に移動することになった。
すると、母がやってきた。
小夜「あ、ママ。」
母「大丈夫?」
小夜「さっき、看護師さんに聞いたよ。別棟で入院患者の治療をしてるかも。」
母「おーけー。」
すると、1人の看護師が近づいてきた。
看護師「あのー、女優の茉莉衣結依さんですか?」
母「あ…。」
看護師「ファンです!いつもドラマ見てます。」
母のファンらしき看護師が目を輝かせて詰め寄って来た。
小夜「(あーあ…)」
母「あ、ありがとうございます…、あまり、周りの人に言わないでくれると助かります。」
看護師「はい!これからも頑張ってください!」
母「はい、では…。」
看護師2「ちょっと、何やってるの。…って、え!?」
すると、別の看護師の人がやってきた。
母の姿を見るととても驚いていた。
小夜「これは…。」
2人の看護師に捕まる母。
小夜に目で訴えて来たが、どうすることも出来ない。
小夜「先行ってるね…。」
小夜はその場をあとにした。そして、別棟へと歩き出した。
*
入院棟の廊下。父を探し歩く小夜。
小夜「(…本当にいるのかな、パパ。いつも仕事が入ってて帰ってこなかったから、会えなくても無理はないか。)」
父の名前は、陽介。
白駒総合病院で外科医として働いている。
そのため、滅多に家に帰ることはない。小夜とももう何ヶ月も顔を合わせていなかった。
患者のベッドがある部屋を覗きながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
女性「愛…?」
振り返ると、そこには車椅子に座った女性がこちらを見つめていた。




