【41話】文化委員のおしごと
緋月「小夜っち!」
9月が終わり、だんだんと涼しくなってきた。
夏服も冬服に変わり、肌寒い季節が始まった。
小夜「ひっきー。じゃ、行こっか。」
ブレザー姿の二人。一緒に登校していた。
緋月「寒くなってきたね。」
小夜「そりゃ、10月だもんね。」
緋月「俺っちたちが学校に行かない間に冬服になってるし。」
小夜「でも、週一で学校行くって決めたんでしょ?」
緋月「うん。小夜っちと一緒なら大丈夫だよ。」
それは、10日くらい前のこと。
*
胡蝶「さて、どうしようか。」
胡蝶の前に星座で座る緋月。
胡蝶「今回の件で、散々勉強やら当番をサボった罰として、なにか代わりにやってもらうぞ。」
緋月「はぁ…。」
胡蝶「貴様、反省しているのか。」
緋月「反省してます!してますよ!」
胡蝶は代わりにやることを考えていた。
緋月「一件落着じゃなかったんだ…。」
胡蝶「…何か言ったか。」
緋月「いえ、なんでも。」
緋月は初音と桐崎のことがあってから、全てが終わったと思っていた。
だが、違った。サボったものの罰はまだ受けていなかったのである。
胡蝶「…よし、わかった。1週間に1回、きちんと学校に行け。いいな。」
緋月「えー。」
胡蝶「…俺が言えないことだが、学校で勉強をしてこい。」
緋月「…。」
胡蝶「お前が学校に行かないのは、だるいからだろう?だったら、だるいことを罰としてしてもらう。」
緋月「はーい。」
緋月はだるそうに返事をした。
緋月「小夜っちも道連れにするね。」
胡蝶「ああ。(小夜も一緒なら大丈夫だろう。)」
*
緋月「…俺っちが道連れにしちゃったんだけどね。」
そうこうしているうちに、学校に着いた。
下駄箱で靴から上靴へ履き替え、それぞれの教室についた。
*
昼休み。
E組の教室では、緋月がパンを食べていた。
緋月「(だるー、早く宿に帰りたいな。)」
すると、クラスメイトが緋月に近づいてくる。
生徒「藤本くん。文化祭のこと、まだ誰からも聞いてないよね。」
緋月「う、うん。」
生徒「これ、読んどいて。」
クラスメイトが1枚のプリントを差し出す。
緋月「ありがと。」
緋月はそれを読んだ。
緋月「うーんと、………。(読む)待って、何これ!」
内容を把握した緋月。そして、すぐに立ち上がり、廊下へ飛び出す。さっきのクラスメイトに話しかけた。
緋月「ねぇ、何これ!何で俺っちが文化委員になってるの!」
緋月の声が廊下中に響き渡る。
生徒「…委員会入ってなかったし、クラスのことをなんにもやってなかったからそう決まった。全員で決めたんだよ。」
緋月「…。」
そう言うと、クラスメイトは立ち去った。
緋月「うぅ……。」
F組の教室。昼休み。
小夜は自席で資料集を読んでいた。
すると、廊下から誰かが駆ける音。
緋月「小夜っちぃぃぃぃ〜〜〜。」
小夜「…。」
緋月は教室の中にいる小夜を見つけると、他クラスの教室に堂々と入ってきた。
小夜「…ひっきー、ここ、他クラスなんだけど。」
緋月「いいじゃん別に!」
小夜「はぁ…。」
小夜は資料集を閉じる。
小夜「なんの用?」
緋月「実はね、小夜っち…」
緋月は、文化祭の実行委員になったことを小夜に話した。
小夜「…ひっきーが文化委員?」
緋月「うん。勝手に入れられた。」
小夜「なんてクラスだよ。」
緋月「俺っち以外の人はいるんだけど、ケチな人なんだよね。」
小夜「そうなの?」
緋月「プリントのメモを見る限り、俺っちへの圧がパない。」
プリントのメモには、こう書かれていた。
「出し物を何にするかを考えて、計画を立ててね。」
小夜「確かに無責任だ。」
緋月「どうすればいいんだろう。小夜っち〜。」
小夜「うーん…。」
昼休みは、小夜に頼って文化祭の企画を考えてもらった。
そして、宿に帰ってからも。
*
聖雷「何それ。」
テーブルの上に置いてある資料に目を向ける聖雷。
緋月「学校の文化祭の企画書。押し付けられた。」
聖雷「へぇ。文化祭か!」
緋月「うん。11月の頭にある。」
聖雷「文化祭、いいなぁ。僕もいってみたい!」
聖雷はワクワクした様子で資料を見ていた。
緋月「そっか、聖雷っちは学校に行ったことないもんね。」
聖雷「うん。幼稚園ならあるけど。」
緋月「よく言葉が分かるよね。」
聖雷「マーリンさんに教えてもらったりしてたよ。あとは、本読んだりとか。」
緋月「難しい本が読めるなんてすごいよ。」
その夜、緋月は企画について考え続けた。
頑張る緋月を優しく見守るマーリン。
そして、翌日。
緋月「やっほー!小夜っち。」
小夜「おはよ。」
緋月は小夜のいるF組の教室を訪れた。
緋月「昨日、考えた結果なんだけど…。」
小夜「おけ。聞くよ。」
緋月「よっしゃ!ありがと。」
前の空いてる席に座り、小夜の方を向いた。
緋月「俺っちね、出し物をいくつか考えたんだ。でも、最終的にやりたいのはひとつになった。」
小夜「うん、それで?」
緋月「俺っち、木の実タルト屋さんやろうかなって思うんだ。」
小夜「タルト?」
緋月「うん。俺っちたち、森で暮らしているから木の実をよく食べるじゃん。でも、街で暮らしている人たちは木の実の美味しさを知らないの。だから、木の実のタルトにしたの。」
緋月はメモ用紙を小夜に見せた。
小夜「へぇ、木の実を使うんだね。」
緋月「でも、木の実だけじゃなくて、違う味も考えたよ。イチゴとリンゴ。木の実だけだと買わないかもしれないからね。」
小夜「すごくいいと思う。ただ、もうちょっと企画書を詳しく書かないと納得してもらえないかも。」
緋月「それはこれからやるよ。でも、聞いてくれてありがとう。」
そう言うと、緋月は自分のクラスの方へ走っていった。
小夜「ひっきー、成長したな…。」
*
ホームルーム。
担任「えー、うちのクラスの文化祭の出し物の内容が決まったようなので、黒板に資料を貼っておく。各自確認するように。それでは、さようなら。」
挨拶が終わると、皆が黒板に貼られた企画書に集った。
生徒1「木の実タルト?」
生徒2「タルトだ!美味しそう!」
生徒3「えー、もっと面白いのがよかった。」
生徒4「めんどくさそー。」
企画書の内容に、意見を言うクラスメイトたち。
生徒1「木の実なんて、どこで手に入れるんだよ。」
緋月「森でとるの。いっぱいあるんだよ。」
生徒3「食べたことないし。わかんない。」
やはり、みんなあまり乗り気ではないようだった。しかし、緋月はこれくらいではくじけなかった。