【4話】少年と子猫
少年「君たちは…?」
少年は驚いた顔でこっちを見ている。
小夜「俺たちは…、宿主のマーリンさんに用があって、来ました。」
緋月「そうそう。」
少年は、少し考えると、何かを思い出したかのように2人のことを見た。
少年「もしかして。小夜さんと、緋月さん?」
小夜と緋月は固まった。
少年「この前、雨宿りに来た人達だよね?マーリンさんから聞いたんだ。」
緋月「そう!」
少年「やっぱり。ちょっと気になってたんだ。」
緋月と聖雷は笑いながら軽く握手を交わした。
緋月「俺は緋月。藤本緋月。こっちは、茉莉衣…」
小夜「小夜。よろしく…。」
少年「僕は、聖雷。この宿のお手伝いでもあり、住んでるんだ。」
少年はシユウを床に下ろす。
聖雷「この子はシユウ。僕の相棒だよ。」
緋月がシユウを触ろうと試みる。
だが、逃げられてしまった。
聖雷「ごめんね。シユウ、人見知りなんだ。でも、すぐ仲良くなれるよ。」
シユウは宿の部屋の方へ戻っていった。
聖雷「ここで話すのもアレだし…マーリンさんが帰ってくるまで、僕の部屋にいる?」
緋月「いいの?喜んで!」
緋月はずかずかと部屋の方へ行く。
小夜「あの、これ。マーリンさんへのお礼です。」
小夜はマーリンさんへの紙袋を渡した。
聖雷「ありがとう。渡しておく。とりあえず、小夜さんも上がっちゃって。すぐお茶淹れるね。」
聖雷の部屋に、小夜と緋月はあがることになった。
*
小夜「お邪魔します…」
聖雷の部屋のドアを開けると、緋月があぐらをかいて座っていた。
緋月「ゆっくりしてきぃや。」
小夜「いや、お前の家じゃない。」
部屋を見回すと、星座のポスターや、宇宙の写真。自然の写真がたくさん貼ってあった。
小夜「…。」
本棚には、星座のことに関する本が並んでいた。
小夜「(すごく興味深い…。)」
部屋の隅には、シユウが丸くなって座っていた。
小夜がシユウの方が見つめていた。
小夜「(猫、可愛いなぁ。)」
シユウが小夜の方へ寄ってくる。
シユウを撫でる小夜。
それにつられて緋月も撫でようとするが、シユウに逃げられてしまう。
緋月「俺の事嫌いなのかなぁ…。」
小夜「ふふ。」
部屋に聖雷が入ってきた。
手にはお茶。小皿に木の実。
聖雷「お茶を淹れてきたよ。」
聖雷はお茶と小皿をテーブルにおく。
緋月が小皿の木の実に気づく。
緋月「おぉ!ガラムの実か。」
聖雷「よく知ってるね。もしかして、この前マーリンさんが出してた?」
緋月「そうそう!この前初めて食べたんだけどよ、めちゃくちゃ美味しかった。」
聖雷「それは良かった。また取りにいかないとね。」
聖雷と緋月は木の実を摘んだ。
聖雷はシユウにも木の実を1粒、与えた。
緋月「子猫ちゃんも食べるんだね。」
聖雷「もちろん。」
木の実を食べ、お茶を飲みながら、聖雷と2人は話をしていった。
小夜「聖雷さんは、宿でどうやって暮らしているんですか。」
聖雷「マーリンさんのお手伝いしてる。宿の費用はお金じゃなくて、手伝って払ってる。」
緋月「お金じゃないんだ。」
聖雷「うん。マーリンさんがお金もらっても、街へ出ないから持ってる意味が無いからね。その代わり、どうしても街へ買い出しへ行く時は僕とシユウが行ってるよ。」
緋月「へぇ。」
聖雷「お手伝いとは言っても、木の実を収穫したり、掃除をしたり、近くの湖で魚を釣ったり。生きるために必要なことを協力するって感じかな。」
小夜「(湖…?)」
聖雷「あとは、宿だけじゃなくて、近くに住んでいる人もいるから、その人と協力して建物をつくってりしてる。」
小夜「(湖…?近くに住んでいる人…?聞いた事のないことばかりだな。)」
緋月「近くに誰か住んでんの?」
聖雷「うん!一応ね。ほとんど寝てるけど。」
小夜「関係ないが…、ひとつ聞いてもいいかい。」
聖雷「いいよ。」
小夜は、部屋のあちこちに貼られているポスターや写真を指差す。
小夜「星や、星座が好きなのか?」
聖雷は嬉しそうに答える。
聖雷「そうだよ!ここから見る星はすごく綺麗なんだ。」
小夜「俺も、星は好き。」
聖雷「本当?一緒だね。」
緋月「星座ってなんだ?」
聖雷「星座はね、星と星を線で繋げてできたものだよ。色んな形があるんだ。例えば…。」
聖雷は本棚から1冊の本を取り出し、ページをめくる。
聖雷「あったあった。」
その本を、緋月と小夜に見せた。
聖雷が本の星座を見せながら話した。
聖雷「これは有名な星座だよ。はくちょう座。ほら、白鳥みたいな形でしょ?」
緋月「潰れたカエルにも見えるけど。」
聖雷「あはは。でも、昔の人はそう見えたんだ。はくちょう座は、夏の夜に見られる星座で、天の川の上の方にあるんだ。はくちょう座の中でも、特に明るい星があるでしょ。その星はデネブって言って、近くにある、こと座とわし座の明るい星を繋ぎ合わせると、夏の大三角形っていう大きな形ができるんだ。」
緋月「うーん…。難しすぎてよく分からないなぁ…。」
小夜「今の会話で分からなかったらかなりの馬鹿だよ。」
緋月「でも、空には星があるってことは分かった!」
聖雷「つい語りすぎちゃったな。ごめんね。でも、星はすごく綺麗なんだ。」
緋月「そっか!俺の目でも見えるかな。」
聖雷「見えるよ。きっと。」
そこへ、マーリンが帰ってくる。
マーリン「あらあら。小夜ちゃんに緋月ちゃん。いらっしゃい。」
小夜「マーリンさん、お邪魔してます。」
マーリン「いいのよ。お菓子、ありがたくいただきましたわ。」
聖雷が本をしまい、シユウのもとへ行く。
聖雷「マーリンさんが来るまで、宿のこととか、星座の話とかしてたんだ。ね、シユウ。」
シユウ「にゃぁ。」
マーリンが、緋月と小夜の正面に座る。
マーリン「小夜ちゃん、緋月ちゃん。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど。」
小夜「?」
緋月「?」
マーリン「時間があったらでいいわ。」
すると、緋月が嬉しそうに答える。
緋月「全然いいっすよ!ね、小夜っち。」
小夜「まぁ、時間はあるからな。」
マーリン「ありがとう。宿の食糧を調達したいのよ。」
緋月「食糧?」
マーリン「木の実とかよ。収穫の仕方は教えるわ。もちろん、聖雷たちも一緒に手伝ってもらうわ。」
聖雷「うん。」
こうして、マーリンさんの手伝いとして、食糧調達をすることになった。