【33話】小学生以来の
緋月「あっっっついなぁ…。」
よく晴れた日のこと。俺っちは、マーリンさんからの買い出しで、街へ来ていた。まぁ散歩でもあるんだけどね。
9月なのに、なんでこんなに暑いんだろう。
緋月「(メモを見ながら)テッシュ、包帯。100均でいいかな。」
俺っちは100均へ向かうことにした。
*
緋月「思ったより安く買えた!」
俺っちは買ったものをリュックに詰め、宿へ向かった。
すると、後ろから肩を叩かれた。咄嗟に振り返った。
?「やっぱり!」
目の前には、見知らぬ女の子が立っていた。多分、同じくらいの歳だろう。
緋月「…誰ですか?」
?「緋月くんだよね?」
緋月「え…。」
すると、女の子はにこっと笑った。
?「緋月くん、覚えてる?私。初音だよ。」
緋月「初音?」
初音と名乗る人物は、俺っちの名前を知っていた。
初音「小学校、一緒だったでしょ。」
思い出した。この子は初音。小学校の頃にクラスが一緒だった。仲がすごく良かったという訳では無いが、話したことくらいはあった。
緋月「あぁ!初音、さんか。」
初音「ふふふ、緋月くん、覚えてなかったでしょ?」
緋月はぎこちなく頷く。
初音「やっぱりね。私は覚えてたよ!」
緋月「あぁ…はい。」
久しぶりすぎなのか、ただの人見知りなのか、緊張で何も話せなくなっていた。
初音「2年ぶりに、一緒に遊ばない?まぁ、遊んだことは無いけどね。」
緋月「う、うん。」
緋月は初音に流されて、近くの公園へと連れられた。
*
夏の公園。昼間なので日差しは強かった。
日陰のベンチに座って二人は話していた。
初音「緋月くんは、今どこの中学なの?」
緋月「…お、俺っちは、如月中。」
初音「如月かー。ちょっと遠いね。」
緋月「…そう、かな?」
初音「私の家から比べたらね。一緒の学校の人はいる?」
緋月「胡蝶がいる。」
初音「桜くんか。(胡蝶の苗字)」
初音とは、遊ぶことになった。
遊ぶと言っても特別なことはしないが、お互いの近況や、好きなものについて語り合った。
初音「ははは。緋月くんって面白いね。」
緋月「そんなことないよ。でも、テストは辛かったよ…。」
初音「教えてくれる友達がいてくれて良かったね。しかも、かなり頭いいんでしょ?」
緋月「うん。学年トップだよ。でも、話してることが分からないときもあるなぁ。」
初音「女の子?」
緋月「うん。男っぽいけど。」
電話の着信音。初音の携帯からだった。
初音「ごめん、ちょっと出るね。」
初音は俺っちに背を向けて電話に出た。
緋月「小学校の頃のクラスメイトにいきなり出会うことなんて、あるんだな…。」
俺っちは、小学校の頃を思い出していた。
*
緋月「うぅ…。」
登校時間。緋月は泣きながら小学校へ向かっていた。
緋月「痛いよぉ…。」
膝には傷。道でつまづいて転んでしまった。
緋月「…でも、学校にはいかなきゃ。お母さんに心配させちゃだめだ。」
校門の前。いつもの見張りの先生が立っていた。
緋月「おはよう…ございます。」
先生「今日も遅刻。どうしてももっと早く家を出ないの。」
緋月「ごめん…なさい…。」
緋月は泣いてしまった。先生が仕方なく宥めようとする。すると、緋月の膝の傷に気がつく。
先生「転んだの?」
緋月「うぅ…。」
先生「保健室行ってから教室に行きなさい。」
緋月「…はい。」
とぼとぼと保健室へ向かった。
先生「やっぱり、あの子…。」
*
初音「終わったよ。」
緋月「へ。」
初音は、スマホをポケットにしまった。
緋月「ああ、おかえり。」
初音「ただいま。でもごめんね。今から帰らないといけなくなっちゃった。また今度遊ぼう?」
初音の思わぬ発言に俺っちは嬉しさを表に出してしまった。
緋月「え、いいの。」
初音「ふふ、素直なんだから〜。全然いいよ。」
緋月「やったぁ!また今度、公園で遊ぼう。」
俺っちは、初音とまた会うことが決まった。
初音も嬉しそうだった。
初音「じゃあね、緋月くん!」
緋月「うん!ばいばい。」
*
数日後。
初音「あ、緋月くん!」
初音が俺っちの方に元気よく手を振る。
緋月「初音!」
今日は駅で待ち合わせだった。
時計台の下で、初音と会うと隣町まで電車で移動する。
初音「わぁ、すごい。早いね。」
初音が車窓を覗き込んでいる。
緋月「電車だから当たり前だよ。まさか、あまり電車に慣れてないの?」
初音「うん。あんま乗らない。」
緋月「なら、仕方ないか。…で、今日はどこに行くの?」
初音「えへへ…ショッピング!」
緋月「ショッピング?」
初音「可愛い服が買いたいんだ。ついてくるだけでもいいから…お願い!」
緋月「いいよ。」
電車が止まり、駅に着くと、俺っちたちはショッピングをするために商店街を歩いた。
初音「人、多いね。」
緋月「そうだね。」
すると、初音が俺っちの腕を掴んだ。
緋月「なっ!」
初音「えへへ。こうしててもいいかな…?」
自然と顔が赤くなった。初音はずっと俺っちのことを見ていた。
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その頃の宿。
リビングで、胡蝶とマーリンがくつろいでいた。
そこへ、聖雷がやってくる。
聖雷「やっほー。あれ、ひっきーは?」
胡蝶「朝から居ないぞ。」
聖雷「なーんだ。せっかくの休みだし、一緒に森で遊ぼうと思ってたのに。」
胡蝶「そうなのか。」
聖雷はテーブルの周りに座った。
マーリン「胡蝶と聖雷で行ってくればいいじゃない。」
聖雷「そうする。影楼くんも来るからさ。今度いる時にひっきーを誘ってみよっか。」
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ショッピングが終わった。
初音は両手にかなりの荷物。俺っちも持ってはいたが、1人で帰れるかも心配な量だった。
帰り際に、初音の荷物を渡す。
緋月「大丈夫か?そんなに買って。」
初音「大丈夫!私の好きなもの、たくさん買えて満足したよ。緋月くん、ありがとう。」
正直、ショッピング中の記憶はほとんどなかった。ずっと初音が俺っちの腕を握っていた。それがずっと気になっていた。
緋月「お、おう。俺っちも、楽しかったよ。」
初音「また、遊ぼうね。じょあね。」
初音が家に帰ろうとした。
緋月「荷物、やっぱり大変でしょ。家まで送ろうか?」
初音「大丈夫だって。じゃあね。」
すると、初音は手を振り、帰っていった。
緋月「…うぅ。なんなんだろ、この気持ち…。」
初音と別れると、胸がぐんぐんと締め付けられるような感じがした。