【31話】パニック・バースデイ
緋月「ごめんなさい〜。」
街の中を走る緋月。
緋月「てか、どこで忘れてきたんだろ。…あ。端の休憩スペースのベンチか!」
休憩スペースを目ざしてひたすら走った。
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ロウソクを買い終えた胡蝶。
胡蝶「(なかなか良いのが見つかった。)」
胡蝶はデパートを出た。
すると、こちらへ向かって走ってくる緋月。
胡蝶「緋月?」
緋月「胡蝶ー!」
胡蝶の元へ行くと、足を止めた。
緋月「聖雷のプレゼント、さっきのベンチに忘れてきちゃった。」
胡蝶「貴様…!」
胡蝶と緋月はデパートの中に入った。
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影楼「ったく、何やってんだか。」
小夜「ひっきー、ちょっと抜けてるね。」
影楼「結構だが。」
2人は生地を作り終え、焼こうとしていた。
小夜「焼いてる間、装飾をしちゃおっか。」
影楼「あぁ。」
パイをオーブンに入れた。
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その頃の聖雷たち。
聖雷「うおおお!!」
聖雷は勢いよく釣竿を上へ引っ張る。すると、糸先には小魚。
聖雷「やったぁ!」
小魚をバケツにいれる。喜ぶ聖雷。シユウは針のついていない釣り糸にじゃれている。
マーリンは、聖雷に隠れて鏡を見ていた。
マーリン「(パイ作りは順調のようね。プレゼントは…問題でもあったのかしら。)」
聖雷「マーリンさん!釣ったよ!」
マーリン「あぁ、(鏡をしまう)良かったわね。」
聖雷「やっと1匹目。今日は釣れない日なのかな。」
マーリン「…まだ分からないわよ?」
聖雷「でも、こんだけ時間かかってて釣れないのは、運が悪い日なんだって。影楼くんが言ってたよ。」
マーリン「…そうなのね。」
すると、聖雷が釣具をしまい始める。
マーリン「聖雷、もうやめるの!?」
聖雷「うん。釣ってても意味ないし。」
マーリン「待って。」
マーリンは時間を稼ぐために聖雷をとめた。
マーリン「…まだ分からないわよ。あと、せめて5匹くらいは釣りましょう?みんな、楽しみに待ってるのよ。」
聖雷「でも、もう釣れないよ。」
すると、シユウが聖雷の服の裾をかじった。
シユウ「にゃー。」
聖雷「シユウ…。」
聖雷はシユウを撫でながら少し考えた。
聖雷「うーん…、もうちょっとがんばってみようかな!シユウも食べたいんだよね。よーし!」
聖雷が再び釣りを始めた。マーリンは安心した。
マーリン「良かった…。」
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緋月「ない!」
デパートの端の休憩スペース。
さっき座ったベンチには、何も無かった。
胡蝶「本当にここに忘れたのか。」
緋月「うん。どうしてないの…。」
休憩スペースの近くを見て回る。
すると、プレゼントと同じくらいの箱が入っている袋を持った男性を見かけた。
緋月「あ。」
緋月はすぐに追いかけた。
胡蝶「緋月!」
胡蝶も緋月を追いかける。
男性を追いかける緋月。すると、男性はエレベーターに乗った。
緋月「待って!」
緋月はエレベーターに乗ろうとする。しかし、ギリギリのところで扉がしまる。
緋月「くそっ…。」
胡蝶「あの人を追いかけているのか。」
緋月「プレゼントと同じ大きさの袋持ってた。」
エレベーターは上へ向かっていた。
緋月「上だ。」
緋月はまた走り出した。階段へ向かい、上を目指す。
何回に行くのかがわからないので、1階づつ、エレベーターの階数を確認する。
胡蝶「…まだ上だ。」
緋月「くそっ…。」
エレベーターの光はどんどん上へいく。
4階、5階…階段で上がる。ペースが落ちる緋月と胡蝶。
緋月「さすがに、もう止まってくれ…。」
ようやく7階に着く。エレベーターのところに行くと、7階のランプが光っていた。
緋月「…!」
胡蝶「7階で止まるな。」
エレベーターの前で待ち伏せる。扉が開いた。
緋月「来た!」
しかし、エレベーターの中にさっきの男性はいなかった。
胡蝶「…いない?」
緋月「嘘、確かに見かけたのに。」
すると、エレベーターとは反対方向に、その男性が現れた。
胡蝶「緋月、あそこ。」
その男性に近づこうとした。すると、目の前に子供が横切る。
子供「パパー!」
子供が男性の元へいく。男性が子供を抱き上げる。
男性「いい子にしてたか。プレゼント、買ってきたぞ。中身が気になるか?」
子供「うん!」
男性「前から欲しがってた、ウサギのぬいぐるみ。買ってきたぞ。ちゃんとピンクのウサギだからな。」
子供「やったぁ!パパ、だいすき。」
男性が袋を子供に渡した。
緋月「…。」
胡蝶「ただのいい父親だったな。」
緋月「じゃあ、聖雷へのプレゼントは…?」
胡蝶「…分からない。」
緋月「ごめんなさい…俺っち、馬鹿で…。」
胡蝶「今更遅い。探すぞ。」
胡蝶が落ち込む緋月を引っ張り、再び探しに行く。
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宿の二人。
小夜が装飾品を渡し、影楼が貼り付ける。
小夜「うんうん、いい感じ。」
影楼「身長高ぇって悪くねぇな。」
小夜「羨ましいな。」
影楼「そうか?」
すると、オーブンのアラームが鳴る。
小夜「あ、焼きあがった。」
鍋つかみを装着し、オーブンを開ける小夜。
パイを中から取り出す。
小夜「うわぁ…!」
影楼「上手くできた方だな。」
小夜「うん!」
焼けたパイをキッチンの台に乗せた。
小夜「…あとは、プレゼントだけだね。」
影楼「あのクソガキ、ちゃんと持ってくるんだろうな。」
小夜「大丈夫だよ。きっと…。」
二人は不安でいっぱいだった。
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プレゼントを探し始めてから1時間。二人は諦めきっていた。
胡蝶「…どこを探してもない。これはまずい。」
緋月「お店の人も知らないって…。」
胡蝶「盗まれたか、誰かが間違えて持って帰った。それくらいしか考えられないだろうな。」
二人は、聖雷のプレゼントを買った文房具売り場に来ていた。
財布を取りだし、中身を見る。
緋月「…しょうがないかな。」
緋月はさっき買ったものと同じものに手をかけようとした。
?「すみません、さっき忘れ物をしていかれましたか?」
振り返ると、女性が立っていた。
女性「休憩所のベンチのところに、これ、忘れていきましたよ。」
女性はプレゼントの入った袋を緋月に差し出す。
緋月「あ…。」
嬉しさのあまりに言葉が上手く出ない。
胡蝶が緋月のかわりに受け取った。
胡蝶「本当にありがとうございます。」
女性「先程、買っていかれたのを見かけまして。そのあと、休憩所にあったので一旦保管しておきました。」
胡蝶「保管って…。」
よく見ると、プレゼントを買った時にお会計をしてくれた店員さんだった。
緋月「あの時の店員さん?」
女性「えぇ、今は仕事中じゃないけどね。」
緋月「俺っちたちのために取っておいててくれたんですか。」
女性「ほおっておけなかったから。」
緋月は頭を下げた。
緋月「ありがとうございました。」
女性はにっこりと笑った。