【3話】面談とお礼
緋月「ふぁー。よく寝た。」
朝。いつものように緋月は布団から出る。
隣の寝室のドアを少しだけ開けて、中を覗く。
そこには母が寝ていた。
緋月「よし。まだ起きてないか。今のうちに家出よう。」
緋月はリビングへ向かう。
冷蔵庫の中を確認し、なるべく音を立てないように朝ごはんをつくる。
すると、テーブルに置いてある紙に気づく。
緋月「ん?」
母の書き置きだった。
緋月「『昨日、担任の先生から電話がありました。今日、学校へ面談に行ってください。』…って…。」
緋月は紙をぐちゃぐちゃにし、ゴミ箱に捨てると、直ぐに着替え、荷物を持って家を出ていった。
*
学校。先生や、補講の生徒だけしか出入りしないので、いつもより人が少ない。
緋月「ひっさしぶりだ…。」
階段をのぼり、教室に入る。
教室には誰もいない。
緋月は自分の机の引き出しを漁る。
緋月「へぇ、こんなのやってたんだ…。」
恐らく、夏休み前に授業でやったというプリントが机の中に入っていた。
机の中の引き出しは、プリントでいっぱいになっていた。
担任「藤本。」
緋月「はい。」
担任の先生が教室に入り、机を移動する。
緋月はプリントを引き出しにしまった。
しばらくして、面談を始めた。
*
緋月「ぷはぁ…終わった…。」
面談が終わり、教室を出る。
緋月「しっかし、夏休みの宿題があったか…。すっかり忘れていたよ。」
面談の内容はざっくり言うと、夏休みの宿題の配布と、終業式に配られた大事な資料をもらっただけだった。あとは、担任からの学校へ来いという内容の言葉。
緋月「仕方ない、1回家帰って荷物置いてくるか…。」
緋月が学校を出ようとすると、校門の前に1人の人が立っている。
よく見ると、それは小夜だった。
緋月「小夜っち?」
小夜「ひっきー?」
小夜は、少し驚いた様子で緋月の方を見た。
小夜は、制服姿にトートバッグを持っていた。
緋月「今日学校だったってことは…。」
小夜「うん。面談。」
緋月「小夜っちも終業式来てなかったんだね。」
緋月と小夜は笑いあった。
緋月「これから帰り?」
小夜「まぁ。」
緋月「暇だし、ついていくとしますか。」
小夜「俺、これからマーリンさんの宿に行こうと思うんだけど…。」
緋月「どうして?」
小夜「この前のお礼。家のお菓子だけど。」
緋月「いいね!また行きますか!」
緋月と小夜はもう一度、マーリンさんの宿に行くことになった。
お菓子を持って、森へ向かう。
小夜「この間、マーリンさんの宿に行った時のことを考えてたんだけど…。少し、会話に違和感を感じたんだよね。」
緋月「違和感?」
小夜「マーリンさんは、『この宿は、森で迷った人にしか見えない。』と言っていたよね。」
緋月「そうだね。」
小夜「私たちは、雨宿りをしたいということしか言っていないのに、なぜ、俺たちが森で迷っていた事が分かったのか。」
緋月「…。」
緋月は少し考えた。
緋月「森に来た人が、だいたい迷うからじゃない?」
小夜「家の近くなのに?」
緋月は黙った。
小夜「初めてこの森に来る人なら迷ってもおかしくない。でも、よく森に来る人で、道が分かっているひっきーを迷ったことにするのは難しくないか?」
緋月「…。」
すると、緋月が何かに気づいた。
緋月「あれ、こんな道、前通ったっけ。」
辺りを見回す2人。
小夜「やっぱり。宿の存在、マーリンさん自体が異世界のようなものを感じる。」
緋月「雨は降りそうにないけど…。」
小夜「いや、森がおかしいのか?」
緋月「やっぱり、本当に迷わないと宿は見つからないのかな。」
小夜「そうなのかもしれない。」
2人は歩けば歩くほど、見たことない景色になっていった。
前回見た景色は、どこにもなかった。
緋月「やっぱ、こんな道、知らない…」
小夜「完全に迷ったな。」
緋月「この前、雨宿りした大きな樹もない。」
2人は途方に暮れていると、遠くの方に赤い灯りが浮かぶ。
小夜「あ。」
小夜は緋月を連れて走り出す。
灯りのもとへ近づくと、やはり。
緋月「やばすぎ。」
2人は宿の前についた。
小夜「なにか、仕掛けられているとしか思えない。こんな、計画的にたどり着くなんて。」
緋月「でも、良かったじゃん!宿が見つけられて。中入ろ〜。」
緋月はスキップしながら宿に入っていった。
小夜は、宿の前の景色を1度見てから宿の中へ入っていった。
*
宿の中。前のような薄暗さはなかった。
しかし、台座の上にはマーリンはいない。
緋月「マーリンさん?」
緋月はマーリンを探す。
小夜は考え事をしていた。
小夜「(宿の前から見た景色は前と変わらなかった。宿の方から森を見ると、街が見えた。すぐにでも森を抜けられそうな感じだった。しかし、宿を探す時は赤い灯り意外はなにも見えなかった。外から絶対見えないようになってる…?)」
そのとき、宿の扉が開いた。
緋月「マーリンさん!」
扉から入ってきたのは、マーリンではなかった。
同じくらいの背丈で、薄い茶髪で、ヘアバンドをしている、細身の少年だった。
その少年の腕には、赤いリボンをした、白い子猫が抱かれていた。