【25話】マーリンの企み
目覚ましのアラームの音が鳴り響く。
小夜「んぅ…。」
アラームを止めた。
眩しすぎるくらいの太陽の光を浴び、俺は目覚めた。
小夜「ふぁ…。」
音夢が迷子になった日の翌日。欠伸をしながらリビングへ向かった。
家政婦「…あら、おはようございます。」
小夜「…おはよ。」
家政婦がテーブルに皿を並べていた。料理はまだらしいが、もうすぐ朝食のようだった。
家政婦「あと10分くらいでできますよ。音夢様はまだ眠っていますか?」
小夜「見てくる。」
リビングの近くの寝室のドアをこっそり開けて、音夢の様子を確認する。
そこには、布団にくるまって寝ている音夢の姿。
様子を確認すると、ドアを静かに閉めた。
小夜「まだ寝てる。」
家政婦「うふふ。昨日は疲れたでしょうね。あんなことがあったんだから。」
小夜「うん。」
家政婦「でも、あと1時間くらいしたら明日香様(音夢の母)がお迎えにいらっしゃるのよ。その頃には起こさなきゃね。」
小夜「分かった。」
家政婦と小夜は音夢より先に朝食を食べた。
小夜「ごちそうさま。」
俺は食器を片付けた。すると、寝室から音夢が起きてきた。音夢はうとうとしながら俺の方に寄ってきた。
音夢「…おはよう。お姉ちゃん。」
小夜「おはよ。」
音夢「ママは?」
小夜「まだ来てないよ。朝ごはん食べて。」
俺は音夢の分の朝食を取り分け、テーブルに並べた。
音夢「いただきます。」
眠そうにしながらご飯を食べていた。
小夜「眠い?」
音夢「うん…。」
小夜「昨日いっぱい歩いたもんね。」
音夢「音夢、ゆめのなかでも歩いたんだよ。」
小夜「そうなの?」
音夢「お姉ちゃんとずっと、まちのなかを歩いてた。」
小夜「変な夢。」
音夢「えへへ。」
すると、インターホンが鳴った。
家政婦が別の部屋に居たので、俺がかわりに出た。モニターを見ると、音夢の母だった。
音夢「ママ?」
小夜「うん。早いね。」
鍵を開け、玄関へ向かった。
音夢母「お邪魔します。」
小夜「明日香さん。」
音夢母「久しぶり。音夢はいい子にしてる?」
小夜「うん。今ご飯食べてる。」
家政婦も玄関に来た。
家政婦「あら、早いのね。音夢様は元気よ。」
音夢母「家政婦さん、音夢を見てくださりありがとうございます。」
家政婦「いえいえ。とってもいい子にしてましたよ。」
すると、音夢が母のところに駆け寄る。
音夢「ママ!」
音夢母「音夢。」
音夢「朝ごはん食べてたよ。」
音夢母「良かったね。準備はできた?」
音夢「うん。お着替えもした!」
音夢母「帰るわよ。ほら、お礼を言って。」
音夢が家政婦と俺の方を向き、笑った。
音夢「お姉ちゃん、かせいふさん、ありがとうございました。」
家政婦「ありがとね。」
小夜「また来てね!」
音夢「うん!」
音夢たちは帰っていった。
音夢のことでたくさんありすぎたからか、少し寂しくなっていた。
小夜「(…すぐ会えるけどな。)」
*
森の中、俺は考え事をしながら進んでいた。
宿へ行くためだった。
小夜「(音夢が帰っても、昨日の謎がまだ残っている。)」
宿へ着くと、すぐにマーリンの所へ行った。
マーリン「あら、いらっしゃい。今日はみんなお出かけしてるわよ。」
小夜「マーリンさん。」
マーリン「なあに?」
小夜「昨日のことについて、話があります。」
マーリン「…なんの話。」
小夜「音夢の記憶についてです。」
マーリンは、いつものにこやかな表情ではなかった。
小夜「音夢に、なにかしたんですか。」
マーリン「…気づいたのね。」
小夜「勿論。」
マーリン「あなたなら、気づくと思っていたわ。」
小夜「気づかれたくない事だったんですか。」
マーリン「…どっちでもいいわ。あなたなら。」
すると、マーリンは台座から降り、リビングに案内してくれた。
マーリンと対面にして俺は座った。
幸い、他の人がいないので真面目に話すことが出来ているが、沈黙が続いた。すると、マーリンが話し始めた。
マーリン「…昨日の音夢ちゃんについて、話すわ。」
小夜「…。」
マーリン「まず、音夢ちゃんに何をしたか。…私が記憶を消したの。」
小夜「やっぱり。」
マーリン「あなたの立場から考えると、この宿に出会って以来、不思議なことばかり起きているから、“魔法”と言われても、すぐ信じてしまうそうだわ。」
小夜「その通りだね。マーリンさんには、不思議な力がある。しゃべれるのも、宿の存在を隠蔽できるのも、音夢の記憶のことも。」
マーリン「…いずれ、宿のみんなに話さないといけないわ。あなた以外にも。」
小夜「他の人には言ってないんですか。」
マーリン「ええ。でも、知ってる子もいる。」
小夜「(聖雷だろうな…。)」
マーリン「…ごめんね。ずっと話さなくて。」
小夜「大丈夫。あと1つ、聞かせてください。なぜ、記憶を消したんですか。」
マーリン「…。」
小夜「音夢はひっきーに助けられた。それで、宿のみんなと楽しく遊んだ。その記憶を消す必要があったんですか。あとは音夢が触れちゃいけないことに触れてしまったとか…。」
マーリン「それはないわ。理由はね、宿のことを知られてしまったから。あんなに小さい子が、宿のことは秘密と言っても、ボロがでてしまうかもしれない。隠しきれないのよ。」
小夜「…そうですよね。」
マーリン「仕方ないことなのよ。」
間。
小夜「…俺は音夢の記憶を消したことが気に食わないとか、そういうのじゃない。ただ、マーリンさんについて気になっただけだ。」
マーリン「いずれ、詳しくは話すわ。私も…もう長くは魔法を使えないからね。」
小夜「それはどういうことですか。」
マーリン「いや、気にしなくていいのよ。」
小夜「そっか。」
すると、リビングのドアが開いた。
聖雷「マーリンさん!」
俺の顔を見て、動きが止まる聖雷。
後ろからシユウも来ていた。
聖雷「あれ?小夜、来てたの。」
小夜「まあね。」
マーリン「おかえり。何かあったのかしら。」
聖雷「それはこっちのセリフだよ、2人して、どうしたの?」
マーリン「ちょっと話をしていただけよ。」
聖雷「そうなんだ。今丁度、木の実をとってきたんだ。良かったら小夜も食べる?」
小夜「いいのか。」
シユウ「にゃー。」
聖雷「マーリンさん、これ。」
聖雷が木の実の入った籠をマーリンに渡した。
マーリンは受け取ると、キッチンへ向かった。
小夜「(詳しくは教えてくれないんだな…。あの宿、マーリンさんには絶対に何かある。)」
その日以来、マーリンさんと宿について、考えるようになった。