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僕たちは  作者: 猫眼鏡
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【24話】家族ではないけれど


 俺らは必死に音夢を探した。街中、家、森、学校。一度行ったところも、入念に探した。

 家政婦からも、見つかったという連絡はないまま。

 

小夜「音夢…。」

影楼「まだ諦めるな。行くぞ。」

 

 影楼に引っ張られ、探し続けた。

 

 

*

 

 夕方になった。俺たちは途方に暮れていた。

 

影楼「チッ…。」

小夜「…。」

影楼「さすがに俺たちだけじゃ無理か。」

小夜「音夢…。」

 

 罪悪感と不安で押しつぶされそうだった。

 

影楼「…今日は帰って、警察に電話する。それが一番だな。」

小夜「うん…。」

影楼「まぁ、帰ってくるかもしれねぇが。」

小夜「そうだね。」

 

 影楼は俺の家の前まで送ってくれるというので、一緒に歩いた。

 

小夜「…。」

影楼「あんま自分を責めんな。お前は悪くない。」

小夜「うん…。」

 

 すると、後ろから誰かが走ってくる足音。

 

小夜「!」

 

 音夢かもしれない。わずかな期待を感じ、俺たちは振り向いた。

 

緋月「小夜っち。」

 

 走ってくるのは緋月だった。

 

小夜「ひっきー、か。」

 

 緋月は俺の目の前に来ると、肩を掴んだ。


緋月「やっと見つけられた。」

影楼「何の用だ。」

緋月「小夜っちのことを探してる小さい女の子がいるんだ。」

小夜「!」

緋月「小学生くらいかな?とにかく、小夜っちの名前を知ってた。」

小夜「本当。」

影楼「クソガキ、よくやるじゃねぇか。」

 


 1時間前。

 緋月は街へ出ようと森を歩いてた。

 

緋月「(今日は暑いな…。)」

 

 すると、森の入口付近に小さな女の子。

 迷った様子だった。

 緋月は、女の子に近づいた。

 

女の子「!」

緋月「あのー、」

女の子「誰?」

緋月「怪しまないで、変な人じゃないよ。」

 

 緋月は少し屈んで、優しく女の子に話しかける。

 

緋月「君はどこから来たの?」

女の子「言っちゃいけないんだよ。」

緋月「え。」 

女の子「ママにおしえてもらったの。しらない人にはなしかけられても答えちゃいけないって。」

緋月「そうだね。でも、俺っちにはなしてくれないかな。そうすれば、元のおうちに返してあげられるからね。」

女の子「…。」

 

 女の子はゆっくり話し始めた。

 

女の子「お姉ちゃんをさがしてるの。」

緋月「お姉ちゃん?」

女の子「公園であそんでたの。そしたら、お姉ちゃんがいなくなっちゃった。まわりをさがしたけど迷子になっちゃったの。」

緋月「そのお姉ちゃんの名前は?」

女の子「あのね…」

 

 

 俺たちは緋月に連れられ、宿に着いた。

 扉を開けると、すぐそこのフロアにマーリンがいた。


マーリン「あら、小夜ちゃん。」

小夜「音夢は。」

マーリン「小さい女の子のことね。聖雷の部屋に居るわよ。」

 

 聖雷の部屋に急いで向かった。2階に上がって、廊下を出て、部屋のドアを開けた。

 

小夜「音夢!」

 

 すると、音夢がいた。気持ちよさそうに寝ていた。


小夜「良かった…。」

 

 俺はその場に座り込んだ。

 

緋月「良かったね、会えて。」


 俺は音夢の手を握った。不安から一気に解放されたからか、少し涙が出てきてしまった。

 

 

*

 

 その後、音夢が目を覚ました。音夢が起き上がるとすぐにシユウと元気に遊んでいた。怪我もないらしい。俺と音夢は宿の皆にお礼を言った。家政婦にも見つかったという連絡をした。

 

マーリン「この子が無事で良かったわ。」

緋月「そうだね。森の中にずっといたら、何があるかわからないもんね。」

音夢「ひづきさん、マーリンさん、せいらさん、ありがとうございました。」

緋月「どういたしまして!音夢っち、また遊びに来てね。」

音夢「うん!じゃあね、ネコちゃん。」

シユウ「にゃー。」

聖雷「小夜も、音夢ちゃんをしっかり見ててね。」

小夜「気をつける。」


 荷物を持って、宿から出ようとすると、マーリンさんに呼び止められた。

 

マーリン「小夜ちゃん。」


 俺は振り向いた。

 

マーリン「頼っていいのよ。いつでも。」

 

 その言葉に、自然と笑みが零れた。

 

小夜「はい。ありがとうございます。」

 

 音夢と一緒に、宿を出た。

 

 

*

 

 音夢と手を繋いで、森の中を歩く。

 

音夢「今日はたいへんだったけど、たのしかったな。お姉ちゃんもそうおもう?」

小夜「うん。」

音夢「お姉ちゃんのこと、ひづきさんのおうちでずっと待ってたんだよ。」

小夜「ごめんね、遅くなって。」

音夢「だいじょうぶ!たっくさん楽しいことできたから。」

 

  緋月たちに預けられた音夢は、大切にされていたらしい。それを感じた俺は嬉しく思った。

 

音夢「音夢ね、ネコちゃんとなかよくできたんだ。」

小夜「シユウか。」

音夢「そう!せいらさんのネコちゃんだよ。白くてかわいいんだ。あとね、ひづきさんが木の実をくれたの。あまくておいしかった。お姉ちゃんにもあげたかったなぁ。」

 

 俺たちは森を出た。

 

小夜「その木の実、食べたことあるよ。今度こそは一緒に食べようね。」

音夢「…なんのはなし?」

 

 俺は固まった。

 

小夜「え。」

音夢「木の実をたべたの…?音夢がお姉ちゃんをさがしてるとき、木の実をたべてたの?」

小夜「そうじゃないよ、音夢がひっきーに木の実をもらったって。」

音夢「音夢、木の実たべたことないよ。ひっきーって、誰?おともだち?」

小夜「は…?」

 

 何かがおかしい。

 

小夜「…さっき、話してたよね?木の実をもらったって。」

音夢「そんなこといってないよ。音夢がねてるあいだに頭、変になっちゃった?」

 

 訳が分からなかった。音夢が、ちょっと前のことを覚えていなかった。逆に俺が覚えているのがおかしいのか、分からなかった。

 音夢が迷子になった間になにがあったのか。それを考えたが、おかしくなったのは、ほんの数分前の出来事。

 

小夜「音夢…。」

音夢「なあに?お姉ちゃん。」

 

 この状況をなんとか理解しようとした。そして、俺はあることを思いついた。それを試すべく、探り探り、音夢に話しかけた。

 

小夜「音夢、今日あった出来事、すべて覚えてるか?」

音夢「うん!覚えてるよ。」

小夜「俺と会った時から、順番に言ってくれるか?」

音夢「うん!お昼ごろにお姉ちゃんと会って、しんけいすいじゃくをやった。そのあと、家政婦さんのつくったトマトスープを食べたよ。」

小夜「あとは。」

音夢「公園であそんだ。お姉ちゃんはベンチにすわってた。お姉ちゃんが電話にでるときに、どっかいっちゃったんだ。音夢は、公園で待ってた。」

小夜「それから。」

音夢「同じ遊具であそぶのがつまんなくなっちゃって、お姉ちゃんのところにいこうとしたんだ。どこにいるかわからなくて、公園のまわりをさがしたんだ。街がすごく広かったから、途中でわけわからなくなっちゃって。森の中をさがしたの。」

小夜「森…?」

音夢「うん!そしたら、気づいたらお姉ちゃんがいた。」

小夜「…。」

 

 違和感はやはり記憶によるものだった。

 

小夜「…他に覚えてることはない?」

音夢「うーん…、音夢が起きたらお姉ちゃんがいたよ。びっくりした。」

小夜「…。」

 

 やはり。俺の推測は、間違っていなかった。

 

 音夢は宿の記憶が消えていた。

 宿で関わった人や、存在。すべてにおいて忘れていた。宿に出た時は覚えていた。しかし、暫くしてから急に記憶から消えた。

 それは、森を出た瞬間のものだった。

 

小夜「(…となると、記憶が操作されているとしか考えられない。そんなことが現実でありえるのか。)」

 

 音夢の目は、透き通っていて、とても嘘をついているように思えなかった。

 

小夜「(…ありえるかもしれない。この森、あの宿で起こった出来事ならば。)」

 

 あの宿に出会ってから、俺の常識はすでに狂っていた。喋る猫、他人からは見えない宿、そして…

 

小夜「記憶を抹消した…。」

 

 その可能性が高い。

 

音夢「どうしたの?」

 

 隣を見ると、音夢が困った顔で俺を見つめていた。

 

小夜「いや、なんでも。」

音夢「そっか。」

 

 俺は宿のことが気になって仕方無かった。

 だが、まず最初に、音夢が無事だったことが一番の救いでもあり、幸せなことだった。

 

音夢「あ、カラスがいる!早く帰ろう。」

小夜「カラス?」

音夢「うん。カラスと一緒にかえりましょ♪」


 音夢は嬉しそうに笑った。

 

小夜「(音夢のおかげでもあるな、冷静でいられるのは。…一旦、考えるのをやめよう。音夢といる時間だけは、守らないと。)」

 

 オレンジ色の夕焼けは、どんどん濃くなっていった。

 ヒグラシの声が、いつもより響いていた気がした。

 

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