【23話】音夢の世話
とある日の日曜日。
?「お姉ちゃん!」
外から帰ってくると、家の中に少女がいた。玄関で靴を脱ぐ前なのに、にっこり笑って俺に抱きついた。
?「お姉ちゃん、あそぼう?」
そう、この子は俺のいとこの音夢。
前髪ぱっつん、ツインテール。さくらんぼの髪留めが気に入っているらしく、つけていた。
音夢「ねぇねぇ、はやくあそぼうよ。」
小夜「はいはい。」
俺は靴を脱ぎ、家に上がった。家政婦に何故いとこが来たのかを聞くと、ちょっとの間預かってて欲しいと言われたらしかった。音夢の母親が来ているのかと思ったが、用事でいないらしい。
音夢「音夢ね、駅からここまで一人できたんだよ。」
小夜「そうなの。」
音夢「うん!音夢、道ちゃんとわかった。」
家政婦「音夢様、大きくなりましたね。」
音夢「もう7さいになったんだよ。」
小夜「もうそんな時期か。」
家政婦がお茶を注ぐ。
音夢「ありがとうございます。かせいふさま。」
小夜「家政婦にさまはつけないの。」
家政婦「うふふ。今日は、1日音夢様がいらっしゃいます。遊んであげてくださいね。」
小夜「分かったよ。」
俺は仕方なく、音夢の遊び相手をすることになってしまった。
家政婦が昼食の準備をしている中、音夢の相手をする。
音夢「えへへ。音夢の番だね。」
バラバラに散りばめられた裏返しのトランプの中から1枚選び、音夢はトランプをめくった。
音夢「あ!これ、前に見たよ。」
もう1枚、トランプを選んでめくった。
音夢「やったぁ。そろった!」
小夜「よかったね。」
神経衰弱やるのは何年ぶりだろうか。いとこと遊ぶのも久しぶりだったため、俺も楽しくなっていた。
音夢「次はお姉ちゃん。」
小夜「うん。」
俺がトランプをめくろうとすると、家政婦がやってきた。
家政婦「お昼が出来ましたよ。冷めないうちに召し上がって。」
音夢「はーい!」
音夢はすぐにトランプを片付け始めた。
家政婦「今日はトマトのスープよ。音夢様、好きかしら。」
音夢「うん!大好き!」
家政婦「良かったわ。」
片付けが終わると、昼食を済ませた。
音夢「おいしかったー。かせいふさん、ありがとう。」
家政婦「どういたしまして。」
小夜「午後は何して遊ぶの?」
音夢「うーん…、外行きたい!」
家政婦「暑いから、あまり長くはダメよ。」
小夜「分かってる。」
音夢「1時間だけ!」
小夜「水分もちゃんと持っていく。それでいい?」
家政婦「それなら大丈夫よ。気をつけてね。」
俺たちは外へ出ることになった。
*
音夢「わーい!」
近くの公園へ遊びに来た。
音夢「お姉ちゃん!みてみて!」
遊具で遊ぶ音夢。
小夜「(夏の暑い時期に外で遊ぼうなんて、子供って元気だな…。)」
夏休みの日曜日ってこともあって、普段よりも多くの子供で賑わっていた。
音夢と、俺の分の飲み物を持って、ベンチで音夢を見守っていた。
音夢「お姉ちゃんもおいでよ!たのしいよ。」
小夜「俺はいいよ。」
音夢「お姉ちゃんだから?」
小夜「そうだね。子供しか遊べないのよ。」
音夢「たいしょうねんれいってこと?」
小夜「よく知ってるね、そんな言葉。」
音夢「ともだちが言ってたの。大人は公園のブランコとか、ジャングルジムであそべないんだって。」
小夜「そうだね。」
すると、聞きなれた着信音。俺のスマホからだった。
音夢「電話?」
小夜「ごめん音夢、ちょっと電話に出てくるね。」
音夢「うん!ここで遊んでるね。」
俺は音夢に待っているよう指示をし、公園から少し離れ、電話に出た。
小夜「もしもし。」
音夢母《お久しぶり。》
小夜「あ、明日香さん?」
音夢の母からだった。
音夢母《ちょっと用事が出来ちゃって、音夢を預けたんだけど、大丈夫だった?》
小夜「大丈夫だよ。元気に遊んでる。」
音夢母《良かった。明日の朝迎えに行くから、それまでよろしくね。》
小夜「うん!」
音夢母《あ!あと…、家政婦さんにお菓子を預けたから、それも食べてね。》
小夜「ありがとう。」
音夢母《じゃあね。よろしくね。》
小夜「はーい。」
電話を切った。
小夜「(お菓子か。そんなのもらってたんだな。あとで確認しないと。)」
そんなことを思いながら、公園に戻った。
しかし、音夢の姿が見当たらない。
小夜「あれ。」
遊具の裏や、トイレの中、周辺を念の為探した。
だが、見当たらなかった。
小夜「音夢ー!」
公園周辺を呼び回った。
しかし、返事がない。
小夜「(これは…まずいことになった。)」
*
家政婦「音夢様?帰ってきていませんよ。」
俺は一度家に帰った。
小夜「そっか。」
家政婦「何かあったんですか。」
小夜「うぅ…。」
家政婦「見失ったんですか。」
小夜「うん。電話している隙に居なくなっていた。周りを探してもいなかった…。」
家政婦「それは大変です。私も、家の周りを探してみます。」
家政婦にも探すのを手伝ってもらった。
その後、俺は公園から離れた所も探した。おもちゃ屋、デパート、商店街、小学校の近く…。
子供の行きそうなところをすべて探した。
小夜「きついな…。」
長時間走ったので、体力は半分も残っていなかった。
ふとスマホを見ると、家政婦からのメッセージ。
まだ見つかってないらしい。
その時、俺はあることを思いつく。
小夜「!」
咄嗟に森へ向かって走った。
*
森の中。街からちょっと進んだところに影楼の小屋。俺はすぐにドアを開けた。
小夜「影楼!」
中には影楼がいた。作業をしていた。
影楼「あ?チビじゃねぇか。」
小夜「影楼、助けて。」
影楼「どうした。」
小夜「あのね…」
俺は今までの事をすべて話した。そして、音夢を一緒に探して欲しいとお願いをした。
影楼「あぁ、詳しいこたぁわかった。」
小夜「お願い…」
影楼「おう。用意すっから待ってろ。」
俺たちは森を飛び出した。