【22話】海へ
5人は、すぐに目の前の海を目指して走った。
街のぬけて、その坂を超えれば海だったのだ。
上ってきた坂を背に、海への坂を下る。
海への坂は、あっという間に下ることができた。
青い海を目の前に、5人は目的を忘れて遊び始める。
緋月「わぁ、冷たい!」
聖雷「ひっきー、ズボンびちょびちょ。」
緋月「もういいよ!遊ぼう。」
真っ先に海へ飛び込んだのは緋月と聖雷。
胡蝶はそれを見ていた。
胡蝶「馬鹿か。びしょ濡れで帰ったら、マーリン様に怒られるぞ。」
緋月「大丈夫だって、ズボンだけだから。」
緋月は胡蝶の手を強く引っ張った。胡蝶バランスを崩し転んでしまった。頭からずぶ濡れになった。
聖雷「あ。」
緋月「ま、いっか。」
立ち上がる胡蝶。
胡蝶「おのれ…。覚えとけ…。」
胡蝶が緋月に飛びかかる。緋月と聖雷は胡蝶に水を掛け、さらに身体を濡らす。
びしょ濡れになったことなど気にせずに、水を掛け合って遊ぶ姿を、小夜と影楼は見ていた。
小夜「替えの服、持ってきてないなぁ。」
影楼「あぁ。」
小夜「まぁ、いいか。」
小夜は海に向かって走る。
子供のようにはしゃいでいた。
影楼「ま、こんな日があってもいいか。」
影楼は4人のもとに走る。
真っ青な海に、無邪気に騒ぐ5人。
今までの苦労が全て、消えたような感じだった。
緋月「あ、小夜っちも来た。かげろっちも!」
聖雷「影楼くん、嬉しそう。」
胡蝶「魚を食べるために来たんじゃ無かったのか。」
緋月「まあ、本人がいいならいいっしょ。」
水を掛け合ったり、押し合いが始まったり、砂で遊んだりした。
緋月「水鉄砲もなにも持ってきてないね。」
胡蝶「プールじゃないんだぞ。」
聖雷「あはは。」
しばらく遊んでいると、やがて夕方になった。
海から上がり、砂浜で海を見る4人。
緋月「もう夕方になっちゃったね。」
胡蝶「時間が早く感じるな。」
小夜「みんな、子供みたいにはしゃいでたからね。」
緋月「俺っちは子供じゃない!」
胡蝶「十分子供だ。」
聖雷「あはは。暗くなる前に、帰らないと。」
緋月「そうだね。あれ、かげろっちは?」
聖雷「さっきどっかに行ったけど、まだ帰ってきてないのかな。」
すると、影楼が網を持って現れる。
緋月「かげろっち!」
影楼「これ。」
網を4人の前に差し出した。その中には、6匹の鱸。どうやら、捕まえることができたようだ。
緋月「わぁ!」
胡蝶「6匹か。」
緋月「これが鱸?」
影楼「あぁ。」
聖雷「すごい!釣ってきたの?」
影楼「あぁ。思ったよりも捕れた。」
緋月「帰って、早く焼こうよ!」
影楼「あぁ。あんま焦んな。」
捕まえた魚を持って帰ることにした。
夕日で、海がオレンジ色に染まる。
緋月「…楽しかったね。」
聖雷「うん。」
胡蝶「思ったよりも楽しかった。」
小夜「びしょ濡れになっちゃったけどね。」
ふと、緋月が夕日を見た。
緋月「夏が、終わるんだね。」
聖雷「…そうだね。」
緋月「おっかしいな。あんなに暑かったのに、もう涼しくなっちゃって。長いようで短いんだね。」
全員、夕日を見ながら考えた。
聖雷「でも、夏の終わりに宿のみんなで海に行けたの、楽しかった。こんなこと、僕だけだったらできなかったよ。」
緋月「そうだね。俺っちも、友達と海に行けたのがまじで嬉しい。」
聖雷「…こんなに楽しい夏、初めてだよ。」
聖雷の言葉を黙って聞いていた。
聖雷「夏の始め、突然ひっきーと小夜が宿に迷い込んできて。びっくりしたんだよ。」
小夜「…。」
聖雷「そのあと、胡蝶が久しぶりに宿に帰ってきて。ひっきーが宿で暮らすことになって。一気に賑やかになった。」
緋月「そうだね。」
聖雷「影楼は相変わらず森にはいるけど、宿に遊びに来てくれることなんてなかった。でもそれが、毎日僕たちのことを見に来るようになって。」
影楼「…。」
聖雷「いつの間にか、ずっと楽しくて笑ってたなぁ。」
すると、緋月が聖雷の肩に手を回す。
緋月「俺っちも、友達が出来て良かったぞ。」
聖雷「え。」
緋月「学校でも友達いないから、退屈だった。けど、聖雷っちたちといると退屈しなかったよ。」
今度は胡蝶が聖雷の肩に手を回す。
胡蝶「やはり、あの時。聖雷が話しかけてくれて、宿を紹介してくれて良かった。ずっとそう思っているぞ。」
緋月と胡蝶は笑う。聖雷も笑顔になる。
影楼「聖雷。無茶なことに付き合ってくれて…ありがとな。」
4人は影楼の方を見る。影楼は照れくさそうにしている。
影楼「んだよ。」
緋月「かげろっち、楽しかったね!」
影楼「…おう。」
緋月が影楼に抱きつく。影楼が受け止める。聖雷も胡蝶も小夜もそれに抱きつく。
全員、笑いあっていた。
*
宿の着いたのは、暗くなってからだった。
マーリン「あら、おかえり…って、あなたたち…。」
マーリンは、全員の服を見て呆れた。
緋月「えへへ、遊んじゃった。」
聖雷「マーリンさん、ごめんなさい。」
マーリン「仕方ない子たちだわ。うふふ。」
影楼「すまん。」
マーリン「すぐ、お風呂に入って。風邪ひかないようにね。」
5人「はい…。」
マーリン「でも、楽しかったなら良かったわ。」
影楼は魚をマーリンに渡すと、5人は交代でお風呂に入った。
今夜は魚を焼いて食べることになった。
そして、お風呂場では。
緋月「マーリンさん、許してくれたね。」
胡蝶「運が良かったと思え。」
緋月と胡蝶と聖雷が風呂に入っている。
聖雷「…でも、怒られてもいいくらいに楽しかったよ。久しぶりにあんなにはしゃいだかも。」
緋月「そうだね。」
聖雷「(匂いを嗅いで)あ。」
緋月「焼き魚のいい匂い。」
聖雷「釣れてよかったね。」
すると、影楼が入ってきた。
影楼「一緒に入らせろ。」
湯船に勢いよく入る影楼。お湯が一気に溢れ、流れる。
聖雷「うわぁ!」
緋月「かげろっち、大胆!」
影楼「うっせぇ。」
仲良く湯船に入る4人。
胡蝶「男4人が湯船に入っていること絵面はなんだ。」
緋月「まぁ、気にしないの!」
*
お風呂から上がると、焼きあがった魚がリビングのテーブルに並べられていた。
お風呂から上がってくる男4人。すでにお風呂から上がった小夜は、緋月の服を着ていた。
緋月「うわぁ!美味しそう!」
聖雷「ホントだ!」
マーリン「ちょうど6匹。良かったわ。」
テーブルの側面の座席に座る。
聖雷「シユウのは、僕が分けてあげるからね。」
シユウ「にゃー。」
小夜「魚と、タロスイモもあるよ。」
緋月「やったぁ!」
5人とマーリンとシユウがそろうと、全員が挨拶をした。
「「「「「「いただきます!!」」」」」」