【21話】街をぬけても
全員は、海が見えた方向へ歩くと決め、山を降りることになった。
緋月「山って、降りる方がちょっと辛いね。」
聖雷「滑ると危ないからね。」
滑らないように気をつけながら、無事に山を降りることに成功した。
*
街の中。先頭で歩き続ける緋月と、聖雷ら胡蝶の肩につかまりながら、進んでいた。
胡蝶「相変わらず人が多いな。」
影楼「あぁ。」
緋月「海の方向はあっちかな?」
聖雷「多分…。」
聖雷は気分を悪くしていた。そのせいで、歩くスピードが落ちる。
胡蝶「大丈夫か。」
聖雷「うう…。」
すると、小夜がカバンから飴を取りだした。
小夜「聖雷、はい。」
飴をひとつ、聖雷に渡す。
聖雷「飴?」
小夜「ちょっとでも気を紛らすには、これしかないから…。」
聖雷「ありがとう。小夜。」
聖雷は雨を袋から出し、口の中に入れた。
緋月「飴?俺っちも欲しい!」
小夜から飴をもらう緋月。影楼と胡蝶にもあげた。
影楼「ありがとよ。」
胡蝶「溶けないうちにいただくとするか。」
外の気温は30度を超えていた。そのため、アスファルトジャングルの街はもっと暑くなっていた。
休憩を取りながら、街中を進む。
緋月「(飲み物を飲んで)ぷはー。」
胡蝶「しかし、街は暑いな。」
影楼「森に慣れると街が暑く感じるのは当たりめぇだ。アスファルトだらけだもんな。」
緋月「そんな格好してるからだろ。」
胡蝶は長袖のシャツに長ズボン。それに対して、半袖のジャケットに短パンの緋月。
胡蝶「山へ登るのに長ズボンで来ない奴は貴様だけだ。」
緋月「海へ行くのにその格好もどうかと思うけどね。」
小夜「あれ、聖雷は?」
近くに聖雷がいない。日陰から少し出て、辺りを探す。すると、歩いてきた道に、聖雷が蹲っていた。
小夜「聖雷!」
小夜は聖雷に気づき、駆け寄る。
他の人も聖雷の周りに集まる。
聖雷「僕…もう無理…。」
小夜「立てる?」
聖雷「うぅ…。」
聖雷は立つことが出来なかった。
すると、影楼が小夜に荷物を預け、聖雷の正面に背を向けてしゃがみ込んだ。
影楼「乗れ。」
聖雷「え。」
影楼「いいから。」
影楼は、聖雷をおんぶしようとした。
聖雷「でも、影楼くん。悪いよ。」
影楼「さっさとしろ。」
仕方なく聖雷は影楼の背中に乗った。そのまま立ち上がり、また歩き始めた。
緋月「かげろっち、イッケメーン!」
影楼「黙れクソガキ。」
聖雷「優しいところあるね。ありがとう。」
影楼「おう。」
街の中をどんどん進んでいく。しばらく歩くと、だんだんと高い建物が減っていった。
もうすぐ街が終わる。
しかし、その先に待ち構えていたのは、坂だった。
緋月「あれ。」
胡蝶「あれは、坂か?」
聖雷「山みたいになってる。」
小夜「街をぬけても、すぐに坂があるみたいね。」
緋月「嘘、こんなの山から見えなかったよ…。」
小夜「実際は街をぬけたすぐ近くに海があると思ったんだけど、案外遠くにあるんだな。」
胡蝶「…ということは、変な話、この坂の奥にまた街があるかもしれないということか。」
小夜「それも有り得る。」
緋月「そんなぁ…。もうすぐだと思ったのに…。」
小夜「とりあえず、登ってみないとわからない。」
街をぬけ、坂を目の前にして、覚悟を決める。
緋月「よし、登るか。」
胡蝶「あぁ。」
坂を上り始める。かなり傾斜があった。
影楼「クソが。思ったよりもきちぃじゃねぇか。」
聖雷「影楼くん、ごめんね。」
影楼「大したこたぁねぇ。」
緋月「負けないぞ…。」
半分くらいを上ったところで、体力に限界が来始めた。
小夜「うぅ…。」
緋月「大丈夫?」
小夜「うん。ちょっと疲れちゃった。」
緋月「そうだよね、宿を出てからもう3時間もかかってるもん。」
胡蝶「歩けるか?」
小夜「大丈夫。」
胡蝶と緋月に手を引かれながら上る小夜。
その後ろに、聖雷を背負いながら上る影楼。
影楼「クソ…。」
聖雷「影楼くん、僕を降ろしていいよ。」
影楼「何言ってやがる。歩けねぇだろ。」
聖雷「ちょっとは回復したから平気。」
影楼「今倒れたら坂の下まで転がるぞ。」
聖雷「大丈夫。」
影楼は聖雷を降ろし、頂上へ向けて上る。
そして、坂の頂上に辿り着いた時。
胡蝶「あと少しだ…。頑張れ…。」
小夜「うぅ…。」
緋月「…見えてきたよ。」
坂の上から辺りを見渡す。
影楼「やっと…、着いたか…。」
目の前には、綺麗な景色が広がっていた。視界を埋め尽くすような青。海だった。