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僕たちは  作者: 猫眼鏡
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【2話】猫の宿


緋月「あのー、すみませーん!」 

 

 俺は恐る恐る宿の中へ入った。


緋月「どなたかいらっしゃいますかー?」

 

 辺りは薄暗く、とても宿のような雰囲気ではなかった。

 倉庫のような、ダンボールが端の方に積み重なっていた。

 

?「あら、お客様かしら。」

緋月「!!」

 

 どこからか、声が聞こえた。姿は見えない。

 

緋月「あのー、雨宿りさせてもらえますかー?」

 

 緋月が言葉を返すと返事がない。

 

小夜「ひっきー、帰ろう。」

緋月「待って。」

 

 緋月が暗闇の奥の方を指差す

 俺はそっちを見ると

 そこには銅像らしきものがあった。

 

小夜「像?」

緋月「西郷隆盛かな?」

小夜「違うと思う。」


 緋月は銅像らしきものに近づいていく。

 次の瞬間。部屋が急に明るくなった。

 眩しすぎて目が開けられなかった。

 少し経って、さっきの銅像の方を見てみると。

 大きな、しっぽの長い猫が台座の上に座っていた。

 猫の体には、ふわふわとした帯のようなものがかかっている。

 

猫「ようこそ。おふたりさん。」

小夜「!?」

緋月「!?」

 

 不気味な猫が、口を開き、言葉を話した。

 猫がしゃべったという衝撃で、俺も緋月も、ポカンとしていた。

 

猫「ふふふ。」

 

緋月「しゃ…」

猫「相当驚いているみたいね。ふふふ。」

緋月「シャベッタアアアアア!!」


 緋月は驚きと同時に、興味深そうに猫を見つめた。


緋月「さっきのは、銅像じゃなかったんだ!」

猫「銅像?ふふ、失礼ね…。私は宿の支配人。マーリンよ。」

小夜「は、はぁ。」

 

 俺は動揺していた。

 

緋月「支配人?主様みたいなもん?」

マーリン「ええ。」

緋月「すっげぇ!」

 

 緋月の素直な態度を見ていると、不気味な感じが和らいでいった。

 

緋月「マーリンさん。俺は、緋月。で、こっちが小夜。」

小夜「よろしく…お願いします。」

マーリン「小夜さん緋月さん、雨宿りですわね。部屋、用意しておきましたわ。」


 そう言うと、マーリンという猫は奥の部屋を指した。

 すると、更に奥の暗闇に、ぱぁっと明かりが灯った。


緋月「やったぁ!小夜っち、行こうよ。」

小夜「ああ…。」

 

マーリン「もう少し経ったらお茶を淹れるわ。部屋で待っててね。」

緋月「はぁい!」

 

 緋月は嬉しそうに部屋へ駆けていった。

 俺もそれについていく。

 


 *

 

 俺と緋月は案内された部屋に入る。

 部屋には、灯りと、テーブルと、布団が1つずつあった。

 窓を見ると、外は雨が降っていた。

 まだ止みそうにない。

 仕方なく、そこで一息つくことにした。

 

緋月「すっげぇな。ここ。(寝転がる)」

小夜「うん…。」

 

 俺は辺りを見回した。

 

緋月「どうかした?」

小夜「いや…。こんなところに宿があるなんて本当に知らなかったから…。驚いてる。しかも、猫がしゃべったなんて…。」

緋月「小さい頃に絵本で読んだことあるけどな。まさか本当にいるなんて思わなかったよ。」

小夜「…。」

緋月「あんなでけぇ猫も見たことないな。」

小夜「やっぱり、なんかおかしい。夢なのかな?それとも、非現実的な現実?」


 すると、部屋にノックが響く。

 

マーリン「お茶とお食事を持ってきましたわ。」

緋月「はーい!」

 

 扉を開けると、2人分のお茶と食事を持ったマーリンが立っていた。

 

マーリン「失礼します。こちら、お茶とお食事でございます。」

 

 マーリンがお茶を差し出すと、その後に小さな皿に赤い、丸いものが入ったものを差し出された。

 

緋月「何これ?」

マーリン「これですね。これは、ガラムの実でございます。」

緋月「がらむ?」

マーリン「この森でよく取れる、非常に栄養価の高い実でございますよ。ふふ。食べてみてはいかが?」


 緋月は、ガラムの実を一つ摘むと、口に運んだ。


緋月「美味しい。」

マーリン「それは良かったわ。なかなかのお味でしょう。」

緋月「うん!マーリンさん、ありがとうございます!」

マーリン「あなたも食べてみてはいかが。」

 

 俺の方に小皿を差し出された。

 俺は少し躊躇ったが、結局ガラムの実を摘んだ。

 

小夜「美味しい。」

マーリン「ふふ。」

 

 森に入ったことはあったが、木の実を食べたことがなかった俺にとっては、初めての事だった。

 

マーリン「この森では、かなりの数や種類の木の実が取れるのよ。だから、ここで暮らしてもなんにも困らないわよ。水もあれば、木の実もある。動物もたくさんいる。快適だわ。」

緋月「マーリンさんは、森で暮らしてるの?」

マーリン「ええ。宿をやってるくらいだからね。この森のことを詳しくなきゃ。」

 

 マーリンは、この森のことを色々と教えてくれた。

 近くに住んでいるのに、知らないことばかりだったので、緋月と俺も、興味津々で聞いていた。

 いつの間にか、宿に入った時の緊張と不安は消えていた。

 


*

 

 しばらく話したあとで、俺はさっきの疑問をマーリンさんに聞いてみることにした。

 

小夜「マーリンさん。」

マーリン「なあに?」

小夜「マーリンさんの宿は、 どうしてこんなところにあるんですか。」


 すると、マーリンは少し笑った。

 

マーリン「さっきも言った通り、この森で暮らせると思ったからだわ。私、この森が大好きなの。」


 俺は更に疑問を投げる。


小夜「この宿のことを俺たちは誰も知らなかったのですが。俺たち以外に来た人はいるんですか。」

マーリン「ええ。」

緋月「へぇ、人気ないだけなんだね。」

小夜「ひっきー。」

マーリン「この宿は、森で迷った人にしか見えないのよ。」

緋月「迷った人?」

マーリン「あなたたちは、この森で迷って、ここへ来た。だから、この宿を見つけることが出来たのよ。」

小夜「普通の人は見つけることが出来ないんですか。」

マーリン「そうね。」

 

 会話が途切れ、ふと窓の外を見ると、雨が止んでいた。

 空には虹がかかり、晴天だった。

 さっきまでの雨は何だったのか。

 

小夜「マーリンさん。雨が止んだので、俺たち、そろそろ帰ります。お世話になりました。」

緋月「そうだね。ありがとうございました。」

マーリン「ええ。こちらこそ。話し相手になってもらって嬉しかったわ。気をつけて帰るのよ。」

緋月「はい!」


 そうして、緋月と俺は立ち上がり、マーリンさんに連れられて宿の前まで行った。

 

マーリン「いつでも遊びにおいで。迷ってなくてもね。」

小夜「はい。ありがとうございました。」

緋月「ありがとうございました!」

 

 マーリンと別れ、俺と緋月は森に入る。さっきまでの複雑な道は嘘のように単純になっていた。

 すぐそこに街が見える。

 

緋月「意外と迷ってなかったね。」

小夜「うん。」


 少し進むと、木がなくなり、やがて街へ出た。

 

緋月「はぁ…やっと帰ってきた。」

小夜「とりあえず良かった。」

緋月「ねぇ、小夜っち。」

小夜「?」

緋月「また、遊びに行こうね。」

小夜「…。」

緋月「だめかな?」

小夜「別に。…楽しかったし。」

 

 ほぼ初対面で会った緋月と、ここまで仲良くなるとは思わなかった。変な感じがした。

 

緋月「じゃあな!小夜っち!」

 

 俺は手を振る。

 そろそろ、夕方になる。俺は少し散歩をしてから帰ることにした。

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